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健康食品には、進行抑制・改善、治癒、症状改善の効果があるか
健康食品を安易に使うことは勧められない

監修:坪野吉孝 東北大学公共政策大学院(健康政策学)教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2007年12月
更新:2014年1月

  
坪野吉孝さん
東北大学公共政策大学院
(健康政策学)教授の
坪野吉孝さん

約4割のがん患者さんが健康食品を利用しているという。健康食品なら安心だと安易に考える人が多いためだ。しかし、最近の研究では健康に役立つと言われながら、実はそうではなかったケースもでてきている。健康食品を利用するのであれば、その情報の信頼性がどの程度なのかを、きちんと評価しておくことが必要だ。

がん患者の約4割が健康食品を使っている

がんになった人の多くが、自分の病気が少しでもよくなることを期待して、健康食品を使っている。医療機関で治療を受けながら、健康食品も使っているのだ。がん患者がどのくらい代替療法を行っているかを調べた「我が国におけるがんの代替療法に関する研究」(平成14年度)によれば、代替療法を利用している患者は、全体の45パーセントだった。全国の56施設、3095人の患者を対象にしたアンケート調査の結果である。

代替療法の内容を調べると、89パーセントの人が健康食品を利用していることがわかった。全体の45パーセントが代替療法を行い、健康食品を使っているのがそのうちの89パーセントだということは、がんの患者の約4割が健康食品を利用していると考えていいのだろう。使っている健康食品は、アガリスクが61パーセント、プロポリスが29パーセントで、それ以外のものは10パーセント以下だったという。

[図1 代替療法を行う理由]
図1 代替療法を行う理由

(複数回答あり)

代替療法を行う理由としては、「進行の抑制・改善を期待」が67パーセント、「治癒を期待」が45パーセント、「症状軽減を期待」が27パーセントとなっている(図1)。

多くのがん患者が健康食品を利用する背景について、東北大学教授の坪野吉孝さんは次のように語っている。

「がんになるというのは人生における大きなイベントですから、これを機に生活を再建したいと考える人は多いですね。そのとき、医師に言われた治療だけではなく、自分でも何かしたいと考えるのは、むしろ当然かもしれません。それが、食事や運動など日常生活の改善ではなく、特殊な健康食品に向かう人が多いということでしょう」

がんの進行抑制や改善、治癒、症状軽減のために、自分には何ができるだろうか――。そう考えたとき、健康食品という答えに行き着くのかもしれない。

天然素材なら本当に体にやさしくて安全か?

がんの患者に利用されている健康食品で、本当に「進行の抑制・改善」「治癒」「症状軽減」といった効果が期待できるのだろうか。こうした疑問を持つ人は多いと思うが、それに対しては「わからない」と答えるのが正しいようだ。効果ありと結論するためには、それを実証する研究が必要になる。研究にもいろいろな段階があるが、人間を対象にした信頼度の高い方法による研究で結果が出ていなければ、効果があるとは言えない。

たとえば、医薬品として厚生労働省に認可されるためには、厳格な臨床試験が必要になる。それによって、安全性と有効性が明らかにならなければ、医薬品としては認められないわけだ。

[図2 保健機能食品の分類]
図2 保健機能食品の分類

(厚生労働省 2001年)

また、食品の中には、保健機能食品と呼ばれるものがある(図2)。この中に特定保健用食品(いわゆる「トクホ」)と栄養機能食品があるのだが、特定保健用食品として許可されるためには、健康上有用だという根拠が、人間を対象にした研究で明らかにされている必要がある。その結果、たとえば次のような表示が許されているのだ。

「ビフィズス菌を増やして腸内の環境を良好に保つので、お腹の調子に気をつけている方に適しています」(清涼飲料水)「この油は、ジアシルグリセロールを主成分としているので、他の食用油と比較し、食後の血中中性脂肪が上昇しにくく、しかも体に脂肪がつきにくいのが特徴です」(食用調理油)

栄養機能食品は、特定のビタミンやミネラルの補給を目的とした食品。国が定めた基準を満たしていれば、次のような栄養機能表示が許される。

「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です」

「ビタミンCは、皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに、抗酸化作用を持つ栄養素です」

がんの代替療法として使われる健康食品の多くは、このような保健機能食品には含まれず、一般食品に分類されている。そのため、医薬品のような効能・効果はもちろん、健康に有用であると表示することもできない。ちなみに、がんに対する効能が認められた保健機能食品は、今のところ存在しない。

「健康食品を利用する人は、効果があるかどうかはわからないのだということを、きちんと認識したほうがいいでしょうね。それでも利用するという選択肢もあるかも知れませんが、その場合でも、安全かどうかについては注意する必要があります」

がんの患者が利用する健康食品の多くは、有効性を示す十分なデータがないだけでなく、安全性に関する十分なデータもない。ところが、薬の副作用を気にする人でも、健康食品なら安心だと考えがちだ。そこが心配だと坪野さんは言う。

「健康食品やサプリメントは、薬物ではなく食品だし、人工的な化学物質ではなく天然素材を使っているものが多いので、作用も穏やかで、体に害を及ぼすこともない、と考えている人がいます。ナチュラルだから体にやさしい、という神話からは目を覚ますべきですね」

天然の成分でも有害な物質はあるし、普通に食べていれば問題ない食べ物でも、乾燥させて粉末にし、大量に摂取することで健康を損なうこともある。実際、健康食品による健康被害の報告は決して少なくないのだ。健康食品を使うのであれば、体調の変化に十分注意する必要がある。

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