医師からの話 乳がん患者の脱毛の悩みを解消!
自分らしさを取り戻す、医療向けウィッグの大切さ
乳がんの患者さんには、抗がん剤治療の過程で脱毛を経験する人が多くいます。脱毛が起こると、精神的なショックを受ける患者さんも多いですが、最近はそれを和らげる脱毛ケアというサポートが進んでいます。
* 化学療法後の脱毛~発毛には個人差があります。
脱毛による精神的苦痛や不安の解消は、その後の治療にも影響するという福田 護さん
聖マリアンナ医科大学付属研究所ブレスト&イメージング先端医療センター付属クリニック院長
全身疾患としての乳がん治療
乳がんという病気はかなり早い段階から全身に転移する可能性があるため、全身疾患ととらえるのが現代医療の考え方です。したがって、乳がん治療は手 術や放射線治療などの「局所療法」だけではなく、ホルモン剤や抗がん剤を使った薬物による「全身療法」が、再発転移を防ぐための初発治療として基本となっ ています。
薬物による治療には、長足の進歩が見られています。がんをピンポイントに攻撃する分子標的薬と呼ばれる新薬が登場しました。また、抗が ん剤の使用方法も、従来のように手術後に行うだけでなく、手術前に投与することで乳がんを縮小してから手術をするという新しい治療法(術前化学療法)も現 れています。このように、今日の乳がん治療には、全身療法であるホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬を使った治療が極めて重要かつ欠かせないものになってい ます。
脱毛ケアの重要性
しかし、抗がん剤による治療には大変やっかいな副作用が伴います。副作用には、悪心・嘔吐、倦怠感、口内炎などいろいろありますが、とくに女性患者さんにとってつらいことの代表は、脱毛でしょう(表1)。
治療前には豊かだった髪の毛が日々抜けていき、自分の顔かたちが変わっていくのを鏡で見るうちに外出できなくなったという患者さんも少なくありません。このような精神的な苦痛や不安にさらされていると、少なからず治療にも影響が出ると考えられています。
なぜ、このようなつらい治療に耐えなければならないのか? そんな疑問もわいてくるかもしれません。このようなときは、改めて抗がん剤治療の重要性を認識していただきたいと思います。
ただ、そうはいいつつも、精神的な苦痛や不安がそう簡単に解消するとは思えません。そこで私たちは、患者さんの負担を少しでも和らげる脱毛ケアの重要性を訴えています。脱毛ケアは、抗がん剤治療開始前の、早い段階から始めることが重要です。
私は、「脱毛がいつ、どのように、どのくらい起こるのか、そのための準備はどうしたらよいのか」を前もってお話しするようにしています。あらかじめ知っておくことで、脱毛が起きたときのショックを少しでも和らげる効果が出ると考えられます。
医療向けウィッグは、脱毛ケアの最も重要なアイテムの1つです。患者さんは通院したり仕事に行ったり、日常生活の中でも外出する機会がしばしばあります。 ウィッグを着け脱毛をカバーし、自分らしいヘアスタイルを手に入れることで自信を取り戻せれば、治療前と変わらない生活が送れるのではないでしょうか。
ウィッグは患者さんに精神的な安定をもたらし、QOL(生活の質)を向上させます。そして、治療に好影響をもたらすと考えられています。
自分に合ったウィッグを
脱毛は、初回の抗がん剤投与から10~20日後に始まります。個人差もありますが、1カ月半で9割が抜け、約3カ月後には残りの髪のほとんどが抜け 落ちます。頭髪が完全に戻り、人前に自信を持って出られるようになるまでは、1年半ほどかかるといわれます(図2)。また、その後の発毛には、髪質の変化 や急激な白髪の増加、頭頂部や前髪などが発毛しにくいといったケースもあります。
脱毛や発毛は個人差があり、その時期や程度はそれぞれの状況により異なります。したがって、脱毛には自分自身に合ったケアが必要になります。
ところが、このような患者さんの脱毛ケアに関心を寄せる医療従事者は、まだ多くないというのが現実です。
では、患者さんとしてはどうしたらいいのでしょうか。
医療従事者だけでなく、患者会や患者仲間などから脱毛の経験者を紹介してもらい話を聞くことが大切です。あるいは医療向けウィッグの専門店などから情報を上手に集めることもお勧めです。
最近のウィッグは大変進歩しています。種類・毛質・色・スタイル・アフターフォローなどの最新情報は、やはり専門店で聞くのが最も安心です。そうした経験 者、また専門店のスタッフの意見などを参考にしながら、自分に合ったウィッグを見つけましょう。私は、ウィッグに限らず自分らしく生活することは、大切な 治療の一環だと考えています。