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術前、術後治療も転移・再発治療も新薬の登場で激変中! 新薬が起こす乳がん治療のパラダイムシフト

監修●尾崎由記範 がん研有明病院乳腺センター副医長
取材・文●柄川昭彦
発行:2022年10月
更新:2022年11月

  

「HER2陽性の定義を変えてしまったり、サブタイプ横断的に使える薬剤の出現で、乳がんの薬物療法は増すます複雑化しています」と語る尾崎由記範さん

乳がんの薬物療法がどんどん新しくなっている。効果的な新薬が使われるようになり、術前・術後治療でも、転移・再発乳がんの治療でも、標準治療が次々と新しくなる事態が続いている。

従来、乳がんの薬物療法はサブタイプ別に考えられてきたが、現在は「HER2陽性」の概念が変わる事態を迎えており、サブタイプ分類も変わらざるを得ない状況になっている。複雑化する乳がん薬物療法について、現時点ではどうなっているのか、がん研有明病院乳腺センターの尾崎由記範さんに解説してもらった。

【術前・術後治療】トリプルネガティブに免疫チェックポイント阻害薬が承認!

乳がんの薬物療法は、乳がんを4つのサブタイプに分けて治療が行われている。治療効果予測因子である「ホルモン受容体」(HR)と「HER2」が陽性か陰性かによって分けられる。HR陽性HER2陰性タイプ、HR陰性HER2陽性タイプ、HR陽性HER2陽性タイプ、HR陰性HER2陰性タイプ(トリプルネガティブ)の4つである。

また、乳がんの薬物療法には、切除手術が可能な乳がんに対する術前・術後治療としての薬物療法と、転移・再発乳がんに対する薬物療法がある。術前・術後治療から解説してもらった(図1)。

●HR陽性HER2陰性タイプ(ルミナルA型)
再発リスク判断には遺伝子検査の多遺伝子アッセイが有効

手術後に5年~10年のホルモン療法を行うのが基本で、再発リスクが高い場合には、抗がん薬による化学療法(アントラサイクリン系+タキサン系)が加えられる。化学療法は術後に行う場合だけでなく、術前に投与される場合もある。

「ここで問題となるのが、抗がん薬を使うかどうかの判断です。再発リスクをどう判断するかですが、これまでは腫瘍の大きさ、HR陽性の程度、リンパ節転移の数、悪性度、増殖速度、閉経状態、全身状態などから総合的に判断していました。

再発リスクが明らかに高い、あるいは明らかに低い場合は迷うことは少ないのですが、中間的なリスクの場合には判断に迷う例もあります。そのような場合、遺伝子検査のオンコタイプDX(多遺伝子アッセイ)で判断する方法があります。例えば、50歳以上あるいは閉経後の方の場合、検査の結果、リカレンススコアが25以下なら、抗がん薬の化学療法を行う必要はないだろうという判断になります」(尾崎さん)

オンコタイプDXは、現在のところ、まだ保険医療としては行われていない。

「再発リスクが高い場合、ホルモン療法を行うときにベージニオ(一般名アベマシクリブ)を2年間併用すると予後が改善するというデータに基づき、ある基準に該当するような再発リスクが高い場合にはこの治療が行われています。再発リスクが高い場合、ホルモン療法にTS-1(一般名S-1)を併用することで、予後が改善するというデータもあります。ただ、現在のところ(2022年9月現在)、乳がん術後の状況に対してTS-1は承認されておりません」(尾崎さん)(図2)

●HR陰性HER2陽性(HER2型)
最近は術前治療が行われることが多い

ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)、パージェタ(一般名ペルツズマブ)といった抗HER2薬と抗がん薬の併用による治療が行われる。

「術前でも術後治療でも予後は変わらないとされていますが、最近は術前治療が行われることが多くなっています。術前治療の効き方を見て、術後治療をどうするか判断するという戦略が可能になるからです」(尾崎さん)

術前治療がよく効いて病理学的完全奏効(pCR:手術検体の評価で浸潤がんが残っていない状態)が得られた場合は、術前治療で使用された抗HER2薬(例:ハーセプチン+パージェタ)を継続し、浸潤がんが残っている場合には、カドサイラ(一般名トラスツズマブエムタンシン)を術後に使用するのが標準である。このカドサイラは、抗体薬のハーセプチンに抗がん薬を結合させた「抗体薬物複合体」(ADC)の1つである。

●HR陽性HER2陽性(ルミナルB型トリプルポジティブ)

抗HER2薬と抗がん薬による治療と、術後5年~10年のホルモン療法を組み合わせた治療が行われる。HR陰性HER2陽性の場合と同様に、術前に抗HER2薬と抗がん薬を使い、その結果で術後の薬剤を決める治療戦略がとられることが多い。

●HR陰性HER2陰性(トリプルネガティブ)
BRCA病的バリアント保持者にはリムパーザが使えるように

ホルモン療法も抗HER2療法も効果がないので、抗がん薬による化学療法が行われる。アントラサイクリン系とタキサン系薬剤が標準的に使用される。術前化学療法と術後化学療法では予後は同等とされているが、近年では積極的に術前治療が行なわれ、手術が行われて浸潤がんが残存している場合には、術後治療としてゼローダ(一般名カペシタビン)が積極的に投与されている。

「トリプルネガティブに対する免疫チェックポイント阻害薬は、転移・再発乳がんで認められていましたが、今年の9月に術前・術後治療でも、キイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)が抗がん薬との併用で使えるようになりました。ステージⅡ、Ⅲのトリプルネガティブ乳がんに対して投与することで、予後が改善するというデータがあります。キイトルーダが使えるようになると、これまで抗がん薬しかなかったトリプルネガティブの術前・術後治療が大きく変わることになります」(尾崎さん)

また、乳がん患者さんの中には、BRCA病的バリアントを有する場合があり(BRCA遺伝学的検査を受け、遺伝性乳がん卵巣がん症候群:HBOCの原因となる遺伝子変異を有すると診断された方)、乳がん全体では5~7%程度と報告されている。

とくにトリプルネガティブ乳がんでは、他のサブタイプよりも頻度は高いが、HR陽性HER2陰性乳がんに関して診断される場合もある。

BRCA病的バリアントを保持しており、ハイリスクのトリプルネガティブ乳がんまたはHR陽性HER2陰性乳がんを発症した場合、術後にPARP阻害薬のリムパーザ(一般名オラパリブ)を投与するのが標準治療となっており、これは今年(2022年)の8月に承認されたばかりである。

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