新薬の登場で全生存期間などが有意に延長
HER2陽性・進行再発乳がんの薬物療法に大きな変化
ます」と語る田村研治さん
2013年パージェタ、2014年カドサイラと、次々に新薬が登場。その結果、HER2陽性・進行再発乳がん患者さんの生存率の延長が、より期待できるようになったという。パージェタ、カドサイラとはどのような薬剤なのだろうか。ハーセプチンとパージェタの作用の違い、カドサイラの特徴と治療効果、さらなる使用法などについて、専門医に伺った。
ハーセプチン+タキサン系の併用療法が従来の標準治療
乳がんの薬物療法は、新しい薬剤の登場で進歩を続けている。とくにHER2陽性の進行再発乳がんについては、2013年と14年に新しい薬が登場し、標準治療が大きく変わることになった。まず、それらの薬剤が登場する以前、標準治療としてどのような治療が行われていたのかを、国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科長の田村研治さんに説明してもらった。
「従来は、HER2陽性の乳がんで、手術不能もしくは手術後に再発した患者さんに対しては、*ハーセプチンとタキサン系薬剤の併用が行われていました。これが1次治療における標準治療だったのです」
この治療を行って、病気の勢いをコントロールできていても、いずれ十分な効果が得られなくなってしまう。
「治療を行っているのに、がんが大きくなったり、新しいがんが出てきたりした場合は、ハーセプチンはそのままにし、併用する抗がん薬を変えます。例えばハーセプチン+*ナベルビンや、ハーセプチン+*ゼローダといった組み合わせが一般的でした。3次治療以降では*タイケルブが使われ、タイケルブ+ゼローダ併用療法なども行われていました」
このような状況だったところに、新しい2つの薬剤が登場してきた。13年から使えるようになった*パージェタと、14年から使えるようになった*カドサイラである。
*ハーセプチン=一般名トラスツズマブ *ナベルビン=一般名ビノレルビン *ゼローダ=一般名カペシタビン *タイケルブ=一般名ラパチニブ *パージェタ=一般名ペルツズマブ *カドサイラ=一般名トラスツズマブ・エムタンシン注
新しい1次治療の標準治療は パージェタを加えた3剤併用
パージェタはハーセプチンと同じ抗体薬である。HER2陽性乳がんでは、がん細胞の表面にHER2という受容体があるが、ここに結合して治療効果を発揮する。
「パージェタを使った治療では、パージェタとハーセプチンと*タキソテールの3剤を併用します。従来の標準治療は、ハーセプチンとタキサン系薬剤の併用ですから、それにパージェタを加えた治療法と見ることもできます」
この3剤併用と、従来の標準治療である2剤併用を比較するため、CLEOPATRA試験と呼ばれる国際的な第Ⅲ(III)相比較試験が行われた。対象となったのは、手術不能または術後再発のHER2陽性乳がんの患者さんである。
3剤併用群では「パージェタ+ハーセプチン+タキソテール」による治療が、2剤併用群では「偽薬(プラセボ)+ハーセプチン+タキソテール」による治療が行われた。その結果、無増悪生存期間(PFS)は、3剤併用群が18.7カ月、2剤併用群が12.4カ月で、3剤併用群が有意に優れているという結果が出た(図1)。
「無増悪生存期間が延長したのに加え、全生存期間(OS)も3剤併用のほうが優れているという結果でした。また、3剤併用群の生存期間中央値はほぼ5年に達していました。HER2陽性乳がんの場合、手術不能あるいは再発という状態でも、半分の人は5年間以上生存できるということです」
3剤併用療法の治療成績は、従来の治療法の成績を大きく上回っていた。そこで、これが新しい標準治療となり、すでにガイドライン(日本乳癌学会編)にも収載されている。
パージェタはハーセプチンと同じようにHER2受容体に結合するが、発揮する作用・効果に違いがある。
「ハーセプチンはがん細胞のHER2に結合し、HER2から細胞の核に向けて出ていた増殖を促すシグナルをブロックして増殖を止めます。これが1つの働きです。そして、ハーセプチンが結合すると、免疫細胞が集まってきて、がんを攻撃することがわかっています。これがハーセプチンのもう1つの働きです」
パージェタの働きはどうだろうか。
「パージェタは、シグナル伝達を阻害する働きは持っていますが、免疫に対する働きは強くありません。ハーセプチンになくて、パージェタにあるのは、二量体が形成されるのを阻害する働きです」
HER2は2つが合体して二量体を形成し、シグナルを伝達する。パージェタは二量体の結合部に結合することで、二量体をできなくする働きをするのである。
「ハーセプチンとパージェタは、それぞれ異なる作用を持っているため、併用することで効果が増強されるわけです」
*タキソテール=一般名ドセタキセル
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