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乳がん治療を大きく変えたハーセプチンが、さらに適応を広げる
ハーセプチンの術前療法で再発を防止、乳房温存も可能に!!

監修:髙橋將人 北海道がんセンター乳腺外科医長
取材:「がんサポート」編集部 構成/柄川昭彦
(2012年1月)

髙橋將人さん
髙橋將人さん

ハーセプチンの登場で、HER2陽性乳がんの治療成績は劇的に変わった。そしてそのハーセプチンに、今回、手術前に治療を行う術前療法の適応が加わった。それは乳がん治療にどのような光をもたらすのか──。

乳がんは個別治療が必要

乳がんの治療には、手術、放射線治療、薬物治療(抗がん剤による化学療法、ハーセプチン)等による分子標的療法、ホルモン剤による内分泌療法など)がある。その治療方針は、がん細胞の特性や患者さんの状態や希望に基づいて、その患者さんに最も効果的と考えられる方法を組み合わせて行われている。

[トラスツズマブの治療対象となる患者さんとは]
トラスツズマブの治療対象となる患者さんとは
トラスツズマブの治療を受けるためにはHER2検査を行う必要がある。IHC法、FISH法の2種類の方法でHER2タンパクの量を調べる。HER2が細胞表面上に過剰に存在している場合、トラスツズマブが適応になる

そのため、もっとも重視されることは、がん細胞を調べ、どのようなタイプの乳がんであるかを調べることであり、それによって、ホルモン療法が効くタイプか、ハーセプチンなどの分子標的薬が効くタイプかを調べ、さらにがんの大きさやリンパ節転移の有無なども考慮して、治療方針が決められるわけだ。

ハーセプチンが効くタイプかどうかを調べるために行われるのが、HER2検査である。そもそもHER2やその検査とはどのようなものなのか、北海道がんセンター乳腺外科医長の髙橋將人さんに、説明していただいた。

「HER2というのは、がん細胞の表面に存在するタンパク質で、そこから細胞内に向けて信号が出ます。それがいろいろなタンパク質を介して伝達されていき、がん細胞の増殖や転移がおこると考えられています。HER2タンパクがどれだけあるかをみるにはタンパク質の量(発現)を調べる方法(IHC法)とタンパク質をつくる遺伝子の量(増幅)を調べる方法(FISH法)があります。HER2が細胞表面上に過剰に存在しているがんを、HER2陽性乳がんといい、乳がん全体の約20 パーセントを占めています」

HER2陽性乳がんには、ハーセプチンと化学療法による治療が効果的だという。進行・再発乳がんの治療はもちろん、手術後の再発を防止するために行われる薬物治療(術後補助療法)にハーセプチンを加えた治療が現在の標準治療になっている。そして今回はそれに加え、手術前にハーセプチンと化学療法による術前療法も、国内で保険適応となった。

ハーセプチン=一般名トラスツズマブ

HER2陽性の患者さんに再発が少なくなってきた

ハーセプチンは、がん細胞の表面にあるHER2タンパクを標的とし、がん細胞の増殖を抑える働きがある。

「ハーセプチンがHER2タンパクと結合すると、そこから増殖の信号が出ていく(がん細胞に"増えろ!"という指令が出る)のをブロックします。さらに、その人が本来持っている免疫作用を介した働きもします。そういった複合的な作用により、ハーセプチンは治療効果を発揮すると考えられています」

[トラスツズマブはなぜHER2乳がんに効果があるのか]
トラスツズマブはなぜHER2乳がんに効果があるのか
トラスツズマブはHER2タンパクと結合し、がん細胞の増殖を指示する信号をブロックする

ハーセプチンは、日本では2001年にHER2陽性の転移性乳がんの治療薬として承認され、2008年からは再発防止のための術後補助療法にも使えるようになった。

「ハーセプチンの登場で、乳がんの治療は劇的に変わりました。現在では、予後が悪く転移しやすいといわれていたHER2陽性乳がんですが、術後にハーセプチンを使うようになって、最近では再発する患者さんが少なくなっている印象があります。ハーセプチンを術後補助療法としてきちんと確実に使うことで、再発が抑えられているのだと思います」

乳がん細胞は比較的早い段階から血液やリンパ液によって全身に運ばれ、目に見える大きさの乳がん細胞の固まり(しこり)そのものを手術で取り除いても、目に見えないがん細胞が全身に残っていることが知られている。この目に見えないがん細胞が何年か後に再発乳がんとして出てくる可能性がある。そのため、全身に運ばれているかもしれない目に見えない小さながん細胞をやっつけるために薬物治療は非常に重要な治療である。

がんが完全に消える患者さんが高い割合で出現

その薬物治療である術後補助療法ではハーセプチンを中心に考えることで、HER2陽性の患者さんの再発リスクは大幅に低下する。そして、こうした再発予防効果は、手術後の治療を手術前に行った場合でも、同様の効果が得られることがわかっており、2011年11月新たに術前療法としてハーセプチンの適応が追加された。

[トラスツズマブの病理学的完全奏効率]
トラスツズマブの病理学的完全奏効率
Masuda N, et al. ASCO2009 Abst#565.より改変

術前療法が行われるようになってきたのは、手術前に薬物治療を行っても手術後に薬物治療を行っても同様に予後が良好に保てることがわかってきたからである。

「術前療法を行ってみると、がん細胞が完全に消えてしまう患者さんがいることがわかってきました。これを専門的には病理学的完全奏効(pCR)と言います。そして、そのようなpCRになった患者さんの場合、その予後は良好である可能性が高いこともわかってきたのです」

アメリカのMDアンダーソンがんセンターでは、HER2陽性乳がん患者さんを対象に、従来の術前療法群(アンスラサイクリン系、タキサン系抗がん剤)と、それにハーセプチンを併用した群で比較試験を行った。その結果、中間解析の段階で、病理学的完全奏効率が、ハーセプチン併用群では65.2パーセント、従来の化学療法群では26.3パーセントと大差がついた。日本国内の臨床試験(医師主導治験)においても病理学的完全奏効率においてハーセプチンを含む術前療法においても46.3パーセントと有用な結果が認められた。

「従来の抗がん剤による術前療法では病理学的完全奏効率はだいたい10~20パーセント程度なので、ハーセプチンを含む術前療法が、いかに効果的なのかがよくわかります」

術前療法には、がんの消失効果(pCR)と共に、予後を改善する可能性が期待されているのである。

乳房温存手術の適応となるのは、基本的にはがん細胞の大きさが3センチ以下。これより大きくても、術前療法で3センチ以下になれば、温存手術が可能となる。



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