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患者も知っておこう「遺伝子検査」のこと 遺伝子検査を受けるうえで自分の遺伝情報とどう向き合うか

監修●四元淳子 国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科保健医療学専攻遺伝カウンセリング分野講師
取材・文●伊波達也
発行:2019年11月
更新:2019年11月

  

「適切な遺伝子の情報は、自分のためのものなのだと思って役に立ててほしい」と語る四元淳子さん

2019年6月、がん遺伝子パネル検査が保険適用になった。遺伝子情報を治療へ繋げていく試みは、スタートラインについたと言える。ただし、疾患に関連する遺伝子情報は、本人のみならず親族にも関わる繊細な問題だ。そんな様々なデリケートな部分をコンサルテーションするのが、認定遺伝カウンセラーだ。患者は今後自分の遺伝子情報とどう向き合っていけば良いのか。同職種で活躍し、後進の育成にも携わる国際医療福祉大学大学院遺伝カウンセリング分野講師の四元淳子さんに伺った。

認定遺伝カウンセラーとは?

認定遺伝カウンセラーの認定制度は2005年に始まり、2019年4月に正式名称として商標登録された。「質の高い臨床遺伝医療を提供するために臨床遺伝専門医と連携し、遺伝に関する問題に悩むクライエントを援助するとともに、その権利を守る専門家」。日本認定遺伝カウンセラー協会と日本人類遺伝学会の2学会による、認定遺伝カウンセラー制度規則第1章第1条に、そう記されている。

認定遺伝カウンセラーになるためには、認定遺伝カウンセラー制度委員会が実施する試験を受けて合格する必要がある。この試験の受験資格は委員会が認定した大学院の遺伝カウンセラー養成課程を修了し、修士の学位を取得しなければならない。

現在、認定遺伝カウンセラーは全国で243人しかいない(2019年10月現在)。米国は約5,000人。

そのうちの1人として多忙な日々を送るのが、国際医療福祉大学大学院国際医療福祉学研究科保健医療学専攻遺伝カウンセリング分野講師の四元淳子さんだ。四元さんは日本認定遺伝カウンセラー協会の理事などの要職も務める。

認定遺伝カウンセラーは、がん遺伝子パネル検査の保険適用を皮切りに、今後ますます活躍のフィールドが増える職業であり、その養成は急務だ。

「現在、本学も含めて、全国で17の養成課程があります。今後は少しずつ増えていくと思われますが、今後、遺伝カウンセリングのニーズの増加に対処するためには、医療現場における重要な職種であることを世間の方々にも認識していただけるとありがたいです」

そう四元さんは話す。

「認定遺伝カウンセラーの仕事の1つは、遺伝の情報をその人のために役立てる手伝いをすることです。今はその情報は主に疾病に関わるものであり、その方の治療など、よりよい選択をしていただくための情報として活用してもらっています。具体的には、遺伝子検査の結果に基づいた、治療、予防、ご家族への関わり方などの、様々なことを決めていくライフプランを、患者さんご自身で考えるための手伝いをする仕事とも言えるでしょう」

認定遺伝カウンセラーが、患者に関わる局面は様々な状況がある。多くの場合は、医師によりその疾患が遺伝性かもしれないと判断される場合に、先ず個別に、どういう経緯で診断され、どういう病歴経緯があるのか、家族歴はあるのかといった点を注意深く聴き取っていく。

「病気の診断をつけることは重要なことで、それに遺伝子の情報を利用することは今後の医療のなかでは常識になっていくと思います。遺伝性ということがわかれば、血縁の方への影響もわかりますので、適切な検査などによって早期発見、早期治療や予防へ繋(つな)げることが可能となります。しかし、遺伝子の情報によって治療が明確に決まる場合はいいのですが、治療法がない場合や、遺伝子の情報がわかることでかえって不安が強くなったり、状況を十分に理解できずに混乱するなど様々な弊害が出てくることもあります。そのために、個別に、患者さんのニーズに応じて対処していくことが大切なのです」(図1)

全がんの5〜10%は遺伝性

がん遺伝子情報とがんとの関係で、近年、大きな話題となったのは、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)だ。

BRCA1、2という遺伝子に変異があると、乳がん、卵巣がんを発症しやすくなるのだ。さらには前立腺がんや膵がんを発症する可能性が高まり、胃がん、食道がん、胆嚢(たんのう)がん、喉頭(こうとう)がん、メラノーマ(悪性黒色腫)との関連も示されている。

とくに女性が乳がんを発症するリスクは、欧米のデータでは、一生のうちでこの遺伝子変異のない人と比べると約10倍だ。

「2013年、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんに、BRCA1の遺伝子変異が判明し、乳房の予防切除術を受けたことが大きな話題になりました。それを機に、わが国でも急速にHBOCに対する関心が高まってきました。乳がん全体のうち5~10%は遺伝性の乳がんと言われています」

全がんにおいても5~10%は遺伝性と言われ、卵巣がんに限っては20%程度が遺伝性だ(図2)。

がんの発症が若いうちに起こる遺伝性腫瘍の特徴

遺伝性腫瘍の特徴の1つは、腫瘍の発症が若いうちに起こるということだ。それだけに将来のライフスタイルに対してきめ細かな対応が必要になるという。

「認定遺伝カウンセラーは、乳がんの場合、遺伝性の診断のところから関わることが多いですね。乳がんと診断された方で、家族歴、病歴、病理の結果などで遺伝性が疑われる場合には、治療に入る前に遺伝子検査について説明することもあります。BRCA1、2いずれかに変異があることが前もってわかると、まず手術を受けるうえで、術式をどうするかという話になります。乳腺を残すと次のがんになる可能性が高くなるので、全摘出したほうがより安全であることを説明して、患者さんの希望を聞きながら主治医とよく話し合います。もちろん可能であれば小さく切除して、精密な検診でフォローし続けていくという選択肢もあるわけです」

病理のタイプでは、トリプルネガティブという化学療法の効果が高いタイプにBRCAの遺伝子変異のものが多い。

「患者さんの年齢や生活環境、の価値観によって、治療に対する考え方は様々な違いがあります。徹底的にリスクを下げることを最優先する方がいる一方で、なるべくきれいに乳房を残したいという人もいます。温存する場合は、放射線照射が行われますので、照射後は皮膚が硬くなって、再建術が難しくなることも説明します。妊娠出産に関わる年齢の方も多いですから、治療前に卵子を保存しておくのか、結婚されている方なら受精卵を残しておくのかなどの話し合いも重要となります」

HBOCの場合は、乳がんよりも予後(よご)の悪い卵巣がんについては、さらに慎重な対処が必要となる。

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