オプジーボ+ヤーボイ併用療法への期待と問題点 治療成績が向上している悪性胸膜中皮腫の手術と薬物療法
悪性胸膜中皮腫で手術の対象となるのは全体の約10%で、手術は化学療法と組み合わせることが基本となっている。手術技術の進歩、有効な薬剤の登場、適切な患者さんの絞り込みなどにより、手術の治療成績は徐々に向上してきた。
手術できない場合の薬物療法は、1次治療にアリムタ+シスプラチン併用、2次治療にオプジーボを使用するのが標準治療だった。2021年5月、1次治療に限定してオプジーボ+ヤーボイ併用療法が承認された。治療成績向上に期待がかかる一方、1次治療でしか使えないことと、手術と併用できないことが、問題点として指摘されている。
肺や胸壁などを覆う胸膜から発生する悪性腫瘍
一般に中皮腫と呼ばれることもある「悪性胸膜中皮腫」は、アスベストが重要な原因となる病気として知られている。胸膜から発生する悪性腫瘍なのだが、胸膜がどんな膜で、どこに存在するのかについては、意外と知られていない。まずその点について、兵庫医科大学呼吸器外科教授で、同大学病院中皮腫センター長も務める長谷川誠紀さんに説明してもらった。
「胸膜は食品用ラップのような薄い膜です。肺の表面や胸壁の裏側、それから横隔膜、心臓、大動脈などの表面も覆っていて、完全に閉じた袋になっています。この袋のなかのスペースを胸腔(きょうくう)というのですが、正常な人の場合、胸腔のスペースはほぼゼロです。つまり、袋はぺしゃんこで、胸膜と胸膜が接した状態になっているのです。そのすき間にわずかにあるのが潤滑剤として働くヒアルロン酸を含んでいる胸水で、胸膜と胸膜は抵抗なく滑るようになっています。これにより、呼吸するときに肺と胸壁が滑らかに滑り、呼吸しやすくしているのです」(長谷川さん)
悪性胸膜中皮腫は、胸膜という袋の中、とくに胸壁を覆う壁側胸膜にできやすい。そして、悪性胸膜中皮腫ができると、胸腔内に液体がたまるようになる(図1)。
「よく胸に水がたまると言いますが、あれが胸水です。肺の中にたまるのではなく、肺の外側にある胸膜の袋の中にたまります。胸水があるとX線検査でわかるので、悪性胸膜中皮腫の多くは胸部のX線検査で発見されます。何らかの症状があってX線検査を行い、胸水が映る場合もありますし、健康診断などのX線検査で見つかることもあります」(長谷川さん)
悪性胸膜中皮腫は早期に発見するのがなかなか難しい。胸膜はごく薄いので、腫瘍がすぐに膜の外に出ていくことになるからだ。胸壁に食い込むように進展することも、肺の中に食い込んでいくこともある。また、近くのリンパ節に転移することもある(図2)。
ここに示したのは、かなり進行した悪性胸膜中皮腫の患者さんのX線、CT、FDG-PETの画像である。
「FDG-PET画像で黒く写っている部分が悪性胸膜中皮腫です。左肺を囲むように広がっています。CT画像では灰色の部分がそうで、厚さが3㎝ほどあることがわかります。悪性胸膜中皮腫は革靴の靴底くらいの硬さがあるので、肺の周りにこれだけ広がってしまうと、左肺はほとんど呼吸機能が失われています。息を吸おうと思っても吸えない状態です(画像3)」(長谷川さん)