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アスベスト曝露後30~40年で発症。思い当たる人は、まず検査を
アスベストの悲劇、難治の悪性中皮腫は早期発見が要

監修:池田徳彦 東京医科大学外科学第1講座主任教授
取材:常蔭純一
発行:2010年1月
更新:2013年4月

  
池田徳彦さん 東京医科大学
外科学第1講座主任教授の
池田徳彦さん

社会問題となっているアスベスト被害による悪性中皮腫。アスベストの曝露から30~40年で発症する。現在、患者は急増中で、今後も増加が予想されている。獰猛でやっかいな悪性腫瘍であるだけに、早期発見が要という。


2030年まで患者数が増加する

肺がんとまぎらわしい病気に、数年前から社会問題にもなっている悪性中皮腫がある。

かつて建設資材として世界で多用されたアスベスト(石綿)の曝露()が原因となって起こるこの悪性中皮腫は、たとえば肺がんと比べると日本における死亡数も100分の1程度と、頻度は決して高くない。実際、東京近辺では大学病院などでも、年間の診療件数は数例程度ということが多い。しかし最近になって、この悪性中皮腫の患者数が急増しているのも事実だ。

「1995年の悪性中皮腫による日本での死亡者数は500人。それが10年後の2005年には911人に増加しています。悪性中皮腫はアスベストに曝露した後に30~40年の潜伏期間を経て発症することがわかっています。
東京オリンピックから大阪万博にかけての高度成長期には、とくに大量のアスベストが輸入され、用いられるようになり、その傾向は80年代半ばまで継続しました。そのことを考えると2030年頃までは患者数が増加を続けると考えられます」

と、指摘するのは東京医科大学外科学第1講座主任教授で呼吸器、甲状腺外科を専門とする池田徳彦さんである。

患者の大半はアスベスト工場やアスベストを用いる建設現場などで就労していた人たち。

しかし、時にはその家族や工場近辺で暮らしていた人が発症するケースもある。当然ながら、そうした生活歴を持つ人は要注意といえるだろう。

では、この悪性中皮腫とはどんな病気なのか。

曝露=さらされること

[アスベスト輸入量と中皮腫死亡数]
図:アスベスト輸入量と中皮腫死亡数

アスベスト輸入量の増加と、中皮腫患者の死亡数が40年の隔たりを持って比例して推移している(出典:肺癌49,2009)

[1950年代から70年代中頃まで使用された青石綿]
図:1950年代から70年代中頃まで使用された青石綿

最も毒性が強いとされた青石綿が1975年まで使用されていた(出典:肺癌49,2009)

進行が早く、悪性度が高い

「胸の中を覆う胸膜の中皮細胞に悪性の腫瘍が発生し、症状の進行とともに胸膜全体が腫瘍化します。さらに症状が進むと胸膜の内側の肺や心臓の外側の心膜、リンパ節に広がり(浸潤)、さらに血液やリンパ液を介して脳、肝臓、骨などに転移していきます。

多くの場合は初期段階から、胸膜の腫瘍化にともなって胸部に水がたまりやすくなりますが(胸水)、自覚症状はほとんどなく、胸痛、悪心などの症状が現われた場合には、中皮腫の病期分類(TNM分類)の2期程度に症状が進んでいることが少なくありません。

また同じ悪性中皮腫で胸膜とは別に腹膜にも病変が起こることもありますが、この場合には腹水がたまることによって起こる膨満感から悪性中皮腫が見つかることもあります」(池田さん)

悪性中皮種の多くを占める胸膜中皮種を中心に見ていこう。他のがんに比べて、非常に悪性度が高い。

「悪性中皮腫は腫瘍細胞の形状によって、上皮型、肉腫型、その両方が入り混じった二相型に分類されますが、いずれも性格は獰猛でとくに肉腫型は進行スピードが速い。いったん病変が生じると短期間で症状が進行し、他の部位に転移していく。死亡率の高い難治病の1つといえるでしょう」

腫瘍が胸膜に限定される1期の患者が胸膜肺全摘出切除を行った場合の5年生存率が約7~8パーセントに過ぎないのも、悪性中皮腫の怖さを物語っている。しかし同じく早期に発見された患者のなかには、少数ながらも術後5年、10年と生存を果たしている人がいるのも事実だ。 では、長く生存するためには、どのように相対すればいいのだろうか。

肺組織に入り込んだ石綿とその繊維

肺組織に入り込んだ石綿とその繊維。丸く囲んでいるのは石綿の繊維 (出典:肺癌49,2009)

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