アスベスト禍で急増する悪性胸膜中皮腫の最新治療
「肺がんとは性格の違うがん」に注意! 抗がん剤治療が効果を上げてきた
兵庫医科大学教授の
中野孝司さん
マスコミでも大きく報道されるアスベスト被害。しかし、アスベストがもたらすがんは、今後もっと増えていく。ピークは2020年と、英国で予想されている。そこで、アスベストが原因のがんの中でも、最も多い悪性胸膜中皮腫について、正しい知識と最新の治療法を紹介しておきたい。
急増する中皮腫の患者数
体の内側や臓器は、「漿膜」と呼ばれる薄い膜でおおわれている。体のなかを部屋に例えると、部屋の中の壁や家具がクロスでおおわれている、そのクロスに発生するがんが中皮腫だ。ほとんどが、胸膜と腹膜にできる。中皮腫は今までは「まれながん」だった。
しかし、最近は非常に増加している。1980年代前半には年間100人程度だったが、1995年に500人に増え、2004年には953人に急増している。そして2014年には、なんと現在の倍の数になると予想されている。
中皮腫の原因は、アスベスト(石綿)だ。これは繊維状の鉱物で、直径は髪の毛の5000分の1と極めて細い。仕事でアスベストを扱い、吸い込んでいた人たちに、中皮腫が多く発生する。だから、労災補償の対象になる。男性患者の8割がアスベストと何らかの関係がある。しかし、いつ吸ったかわからない人も多い。
アスベストにはいろいろな種類があるが、その中でも青石綿は極めて危険だ。アスベストを初めて吸ってから中皮腫になるまでの期間は40年だ。アスベストをたくさん使ってきた時代から、そろそろ40年が経過する。だから今、中皮腫が急増しているのだ。英国では、1990年代のはじめに、2020年に中皮腫のピークを迎えることを予想し、警告を発していた。
アスベスト170トンで中皮腫が1人発生する。日本のアスベストの輸入量のピークは1974年の35万トンだ。単純に計算すると、2014年の患者数は2059人になる。
兵庫医科大学呼吸器内科教授の中野孝司さんは、
「今、アスベストが原因のがんに罹られる多くの方は、東京オリンピック(1964年)から大阪万博(1970年)にかけてアスベストを吸ったことがある方です。そのころのアスベストにどんな関わりを持ったかに注意して、検査を受けていただいたほうがよい」という。
[日本の年間中皮腫死亡数の推移]
[英国における中皮腫死亡数と予測]
[米国の中皮腫の発生頻度]