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メディカル・レポート3 抗がん薬への曝露に対する防護対策

抗がん薬治療の患者さんや家族に対し、排泄物の取扱いを指導 ~指導に対するアンケート調査を実施~

監修●高橋真由美 国立がん研究センター東病院通院治療センター
取材・文●半沢裕子
発行:2014年7月
更新:2014年10月

  

「患者さんにも情報を提供する必要性をスタッフが感じ、曝露対策に取り組むことになりました」と語る高橋真由美さん

正常な細胞にも悪影響を与えることが知られている抗がん薬。
近年は医療現場でも、スタッフが抗がん薬に曝露ばくろ(さらされること)しないよう、防護対策がとられている。そのような薬の投与を受ける患者さんや家族に対し、排泄物や洗濯物の取り扱いについて指導することの大切さが注目されている。

通院治療センターで患者さんに曝露対策を指導

2014年2月、新潟市で開催された第28回日本がん看護学会学術集会において、国立がん研究センター東病院通院医療センターの高橋真由美さんは、「抗がん剤曝露対策指導における患者・家族の反応」というテーマで発表を行った。

同病院通院治療センターでは、初めて抗がん薬治療を受ける患者さんや家族に向け、抗がん薬が含まれている可能性のある排泄物や洗濯方法などの取り扱いについて、2012年8月~2013年3月までに指導を行った603人の記録を基に、患者さんの反応などを分析した。

指導を受けた患者さんの背景は、平均年齢が62.8歳、男性352人、女性251人で、がんの種類は大腸がんが22%、肺がん・乳がん15%、膵がん13%など。指導後の反応では「質問なし」が68%、「説明にてすぐ理解を示す」24%、「質問あり」8%で、頻度の高い質問としては、「洗濯方法(22%)、「曝露の影響(15%)」、「トイレの使用方法(11%)」、「家族への説明の仕方」(9%)」、「説明の時期(9%)」などが挙げられた。

そして、①拒否的な反応は少なく、質問内容にも偏りがないため、指導内容は患者さん、家族に受け入れられる、②外来の抗がん薬治療では排泄物や洗濯物を患者さんや家族が取り扱うため、情報提供は必要。ただし、初回治療時は不安が大きいため、情報提供のタイミングや回数には検討の余地がある、などの考察を行った。

患者さんへの情報提供の必要性を感じ、取り組み始める

この試みの背景を、高橋さんは次のように語る。「日本でのガイドラインは未整備であり、各施設の裁量に任されている現状でした。欧米ではガイドラインが整備されていて各学会などでセミナーが開催され、日本でも医療者に知識は広がっていました。米国がん看護学会(ONS)ガイドラインでは患者や家族への指導内容も記載されていて、通院する患者さんや家族は帰宅後に自分たちで取り扱わなければならないので、情報提供が必要と感じ、取り組むことになりました」

まず、2012年6月に通院治療センターの看護師を対象にアンケートを実施。その結果、「必要と分かってはいるが、忙しい、マニュアルがないなどの理由で、実際には患者さんへの説明は行われていない」ことが明らかになった。

そこで、勉強会を開いたり、ONSのガイドラインを参考に内部用の指導ツールを作ったほか、実際に患者さんへの指導を開始。その結果をまとめたのが、今回の学会での発表となった。

発がん性、催奇形性など、心配される抗がん薬の悪影響

多くの抗がん薬は正常な細胞にもダメージを与える。それだけに、使われるのはもともと生体に悪影響のある薬ということになる。

では、抗がん薬は生体にどんな悪影響を与えるのだろうか。例えば、抗がん薬曝露による急性中毒症状としては、飛沫や液滴(接触)による事故として皮膚炎、結膜炎、めまいや感冒様症状などの神経症状、腹痛、肝障害などが報告されている(表1)。

表1 抗がん薬曝露による急性中毒症状

+:中程度発現、++:強度発現, (柳川忠二:臨床病理レビュー112:120-128, 2001を一部改変)

また、長期に抗がん薬を取り扱うことから来る慢性毒性としては、発がん性、変異原性(細胞に突然変異を誘発する性質)、催奇形性、精子毒性などの可能性が挙げられている(表2)。

表2 抗がん薬の毒性

SCE(sister chromatid exchange):姉妹染色分体交換頻度。DNA損傷を間接的に染色体上で観察できる方法, ND:データ不足, H:人に対して陽性, (国立がんセンター薬剤部編:がん専門薬剤師を目指すための抗がん剤業務ハンドブック, 119-129頁,
じほう, 2006を一部改変)

そのような薬でありながら、長く医療現場でも曝露対策がとられることがなかったが、1980年代に入って欧米において問題視され始められたという。

例えば、Hirstら 1)は1984年、シクロホスファミドを取り扱った看護師2名の尿中に0.35~9.08μg(マイクログラム)の同薬を検出したと発表している。同じく1992年にはSessinkら 2)が抗がん薬を取り扱った25名の看護師、薬剤師のうち、8名からシクロホスミファド、イホスファミドを検出している。

2008年には日本でも同様の調査研究が行われ、6病院41名の医師、看護師、薬剤師のうち、3病院のスタッフから高濃度のシクロホスファミドが検出されたとの結果が報告されている 3)

こうした動きを受けて、医療現場では厳密な曝露対策がとられるようになり、例えば、今日、薬を調製する薬剤師は防護ガウン、帽子、マスク、手袋、ゴーグルを身につけ、クリーンベンチと呼ばれる無菌装置に両手だけを入れて外から薬剤を調製する。

そのような薬に患者さん以外の人たちができるだけ触れないほうがいいのは明らかだろう。

しかし、「抗がん薬の曝露」について知られていない現状、患者さんの世話をする家族や友人は、一定時間、抗がん薬が含まれる患者さんの排泄物や吐物、大量の汗に濡れた洗濯物などに、日常的に触れている可能性が高い。

それを何とかしようというのが、今回の高橋さんらによる試みだった。

1)Lancet 323(8370):186-188, 1984 2)Int Arch Occup Environ Health 64(2):106-112,1992 3)日本病院薬剤師会誌44(1)18-20,2008

シクロホスファミド=商品名エンドキサン イホスファミド=商品名イホマイド

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