知っておきたいお金の悩み解決法 (5)
障害年金はさまざまながんで受給できる場合がある

文:山田由里子 社会保険労務士
発行:2005年3月
更新:2019年7月

  

「のどの奥に魚の骨がひっかかってずっと取れないような変な違和感があるなぁ、と思っていたらそのうちに声がかすれてきて……」長谷川朗子さん(仮名)の喉頭がんはここから始まりました。平成8年、55歳のときです。当時、建築設備業を夫婦で営んでいたものの、バブル崩壊のあおりを受けて経営の危機に直面。過度のストレスと多忙を極めた不規則な生活……。「こんなことを続けていたらいつか病気になるかもしれない、なんて思っていましたけれど、まさか喉にがんができるなんてねぇ」。治療のために声帯を失った朗子さんですが、見事な食道発声で続けます。「でも、障害年金をもらっているのでとても助かっているんですよ」。

年金障害等級と身体障害者 等級が違う場合もある

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朗子さんの年金障害等級は2級で、現在、障害基礎年金と障害厚生年金合わせて月額約13万円を受給しています。ところが朗子さんの身体障害者等級は2級ではなく3級となっています。このように公的年金の障害等級の基準と、身体障害者福祉法で定められた身体障害者手帳に記載される等級の基準とはまったく違うのですが、これが障害年金をもらえるかどうかの判断において誤解を生む要因の1つになっています。3級以下となっている身体障害者手帳を見て、「障害基礎年金の等級は2級までだから、障害年金はもらえないですよ」。こんなアドバイスを受けて、本当は障害年金をもらえたはずの人が、ずっと申請をしていなかったというとんでもない話も実は珍しくありません。障害年金は、その条件に該当しても待っているだけでは年金をもらうことはできません。行動を起こして(申請して)初めてその権利を手に入れることができるのです。

朗子さんの話を続けましょう。朗子さんが障害年金のことを知ったのは、入院中に同室となった同じ患者である1人の女性からでした。病院からは術後、退院後のケアについてだけしか説明がなく、この女性に教えてもらわなければ、障害年金のことも、障害者手帳のこともわからなかったと朗子さんは言います。申請しなければもらえない障害年金なのに、肝心の情報が障害を負った当事者にさえもきちんと伝わらないということは、とても大きな問題です。

朗子さんは最初に病院にかかったとき、厚生年金に加入していました。これが、もしもご主人の扶養に入っていたとしたら障害厚生年金はもらえませんから、年金額は今の約半分、月額6万6000円ほどになっているところです。また朗子さんの初診日当時の厚生年金加入月数は21年3カ月でしたが、障害厚生年金では最低保障で、25年の加入があったものとみなして年金額を計算してもらえます。

老齢年金についてもそうですが、厚生年金に加入しているメリットは非常に大きいのです。保険料負担がなくても基礎年金がもらえる第3号被保険者のメリットがとかく強調されがちですが、長期的な観点からすると、就労調整をしながら無理に第3号被保険者の身分を守ろうとするパートよりも、正社員として厚生年金に加入してばりばり働いたほうが結果的には得策なのではないでしょうか(もっとも最近は、高い社会保険料負担を嫌って、正規従業員を減らす事業所が増えているという厳しい状況ですが)。

該当するのに受給していないケースが多い

さて、障害年金の受給要件の1つ、障害の状態について話を進めます。障害年金を受給するためには、障害認定日に年金の障害等級に該当しなくてはいけません。障害認定日とは、初診日から1年6カ月を経過した日、または、その前に治癒したとき(医学的にこれ以上の回復が望めないという状態になったとき)は治癒した日となります。朗子さんの場合は、初診日が平成8年6月、喉頭部摘出の手術を受けたのが同年10月2日ということです。喉頭部摘出の場合は、施術日がさきほどの治癒した日とみなされ障害認定日になると決まっています。したがって朗子さんの障害認定日は平成8年10月2日で、障害年金の受給権はその翌月の11月から発生するのです。

障害状態が障害等級に該当するかどうかは、障害認定基準をもとに審査されます。喉頭がんによる喉頭部摘出や、大腸がんによる人工肛門造設などは、初診日から1年6カ月以内に施術したときは施術日が障害認定日となります。また該当する障害等級もほぼ決まっています。そのため、障害年金の受給については、他の部位のがんで障害年金を受給するときより比較的容易です。

しかし、“がんで障害年金”というイメージは一般的にはあまりなく、初診日から1年6カ月を経過して全身状態の思わしくないその他のがん患者には、申請すればもらえるであろう障害年金をもらっていない人が相当数いるのではないかと思われます。正しいアドバイスのできる人も少なく、また、障害というのがどんな状態をあらわすのかがあまり知られていないためです。

がんで障害年金を受けた例をあげてみると、
●肺がんの脳転移により呼吸機能の低下と軽い手足の麻痺で障害厚生年金3級
●胃がんによる胃全摘手術を受け、術後、仕事に支障をきたして障害厚生年金3級
●肝臓がんのため日常生活が困難、障害基礎年金、障害厚生年金2級
●乳がんから脳に転移。頭痛、めまい、けいれんで衰弱 障害基礎年金2級
(実際の認定は、各人の状態によりケースバイケースです。また、請求人が遺族である場合もあります)。このように、乳がんや肺がんなどでも、障害年金を受給できるケースは数多くあるのです。


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