仕事との両立:「就労支援コーディネーター」の試みから見える相談支援のあり方 仕事と治療の両立に大事なのは、国や企業の対策と患者の発信力
がん治療中や治療後も働き続けたいと希望する人が増えている。しかし、現実には、がんを抱えながらの就労にはさまざまな困難が伴い、治療と仕事の両立を支える社会環境の整備や、人々の意識の変化が求められている。
3人に1人が離職・休職
がんを抱えながら働く人が増えている。その背景には、医療の進歩や早期発見によって、がんが治る病気になってきたこと、完治しないまでも治療を継続しながら社会生活を送れる人が増えたことなどがあげられる。また、がんは高齢になるほどかかりやすい病気だが、30代から50代の働き盛りでがんになるケースも増えており、そうした人たちにとって治療と仕事を両立させることは切実な課題だ。
しかし現実には、がんの診断を会社に相談すると依願退職を迫られたり、ときには解雇されることもある。また通院治療が長引いて報酬が減額されるだけでなく、居づらくなって退職せざるをえなくなるケースも少なくない。
がんの患者さんを対象に行われた「がん患者の就労と家計に関する実態調査2010」によると、がんと診断されたあと3人に1人が離職もしくは休職しており、約3割の患者さんが収入減に追い込まれていた(図1)。
「がんになると仕事と治療の両立は困難になるのでは?」という不安は、いまや多くの国民の共通認識といえる。内閣府が1月に行った世論調査では、仕事との両立について、「現在の日本の社会は、がんの治療や検査のために2週間に1度程度病院に通う必要がある場合、働き続けられる環境だと思うか」を問うた。
結果、「そう思わない」を選らんだ人は「どちらかというとそう思わない」と合わせて、7割近くにのぼっている。
両立支援のモデル事業
厚生労働省では、2010年度から2012年度まで、労働環境が発症の要因のひとつとなる疾患について、治療と職業生活の両立を支援する手法の開発を目指したモデル事業を実施しており、がんについても対象とされた(厚生労働省労働基準局委託事業「治療と職業生活の両立等の支援手法の開発〔職業性がんその他の悪性新生物〕」)。
この事業を受託したみずほ情報総研の社会政策コンサルティング部チーフコンサルタント・田中陽香さんによると、単年度事業として2010年、2011年、2012年の3年間実施され、学識者などからなる検討委員会での議論を踏まえて、がん患者、医療機関、企業の協力を得ながら、実際に両立支援を行った。
支援の流れについて、田中さんは次のように語る(図2)。
「看護師と社会保険労務士(社労士)の2名のペアによる“就労支援コーディネーター”が、患者さんと治療医の間に入ってそれぞれの聞き取りを行います。それをもとに企業担当者と調整したうえで両立プランを作成。仕事と治療の両立の具体的な調整を図りました」(図3)
もちろん、がん診療連携拠点病院の中には、相談窓口をもち、すでに就労支援を実施しているところがある。また、産業医がいる企業もあるから、それらとの連携も欠かせなかったが、労働・社会保険に関する法律・人事の専門家である社労士がコーディネーターとして加わった意義は大きかったという。
「看護師と協力して治療上の悩みや仕事を続けるうえでの悩みを聞いて、患者さんの気持ちに寄り添い、一緒に並走するかたちでの支援ができました」
このように田中さんは振り返る。