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がんとお金対談:がんになっても仕事がしたい…… 納得できる「就業」のための共助と自助

監修●高橋 都 国立がん研究センターがん対策情報センター・がんサバイバーシップ支援研究部長
監修●黒田尚子 ファイナンシャルプランナー
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2013年7月
更新:2019年10月

  

たかはしみやこ 1984年岩手医大卒業後、東京慈恵会医大、立川中央病院などで内科臨床に従事。東京大学大学院で博士(保健学)を取得。同大講師、獨協医科大学准教授を経て、2013年4月から国立がん研究センターがん対策情報センターがんサバイバーシップ支援研究部長

くろだなおこ ファイナンシャルプランナー。1969年、富山県出身。大手シンクタンク勤務を経て1998年にファイナンシャルプランナーとして独立。2009年当時住んでいた富山で集団検診からの精密検査で乳がんの病期Ⅱbと診断される。東京の専門病院に転院、病期Ⅱaと診断。2010年2月右乳房全摘手術、ホルモン治療開始。8月に乳房再建手術。本業のかたわら、がんに関する啓発活動にも取り組む

「がんとお金」にまつわることを公的補助、民間保険、そしてマクロな視点などを通して見てきた。特集の最後は、がん経験者の支援を専門とする高橋都さんと、がん経験者としての情報発信を続ける黒田尚子さんに、患者本人の意識の持ち方や周囲の協力について対談してもらった。

 

 

 

 

 

 

黒田 先生はがんとQOL(生活の質)について長く研究され、最近は「就労」について深く携わっておられます。その中からわかったことを伺うとともに、私は乳がん患者ですが、実際の体験で気づいたことをお話ししたいと思います。

私はがん告知を受けて今年で4年目ですが、トータルで300万円以上かかりました。これは、がんにならなければ必要のなかった費用のことで、治療費はもちろん、私の入院時の家族の外食費や関連書籍の代金も入っています。手術はあくまでスタートラインで、お金は長期にわたってかかります。

高橋 乳がんの場合は標準治療がかなり確立されているので、お金の見積もりは比較的わかりやすいと思います。しかし、がん治療には間接経費もかかる。医療費だけの問題ではないと理解しています。

黒田 乳房再建だけで160万円以上かかりました。年を取って(再建した)右だけ張っていたらおかしいと担当医に訴えたら、左にもインプラントを入れることになって。だから左は豊胸なんですよね(笑)。保険は適用外でした。

高橋 再建もそうですが、通院費やウィッグなどの外見補正用具など、保険の効かない費用はかさみがちです。

「お金がかかって家族に対して申し訳ない」と考える患者さんも少なくありません。家族は気にしていなくても、本人はそういうところでも悩んでしまいます。

黒田 私は自分も働いていますが、収入のない専業主婦の方など家族に言いにくいことがあるかもしれません。近い存在だけに、お金のことは話をしにくい。

「補助金」だけでなく内面にも向き合わねば

高橋 がんとマネーや仕事の問題は、ようやくみんなが取り上げるようになってきました。医療者はお金の勘定はあまり得意でないのです。目の前の患者さんに治ってもらうことが第一だから。

本人と家族は、お金の使い方にどう優先順位をつけるかについて本気で悩んでいる。ざっくばらんな相談窓口がもっとあっていいと思います。「補助金がありますよ」みたいな話だけでなく、お金に関する価値観や健康になるためにどこまでお金を使うかという内的な部分にも向き合わなければならないから。

黒田 患者の立場から「この治療にはいくらかかりますか?」とは聞きにくいです。口に出すと、命とお金をはかりにかけているのではと思われそうで。

効果の高い抗がん薬治療を勧められても、お金の不安が心の負担になり、治療に専念できなくなる患者もいます。私はどれくらい費用がかかるのか、医師から患者に事前に伝えることができないかお願いしたことがあります。アメリカでは治療費を事前に患者に知らせる義務がありますが、日本は制度が違って難しいみたいですね。

高橋 おおざっぱなメニュー表はあったほうがいいでしょう。医師は正確な数字が気になるほうなので、「いくらかかりますか?」と聞かれると「一概に言えない」と答えがち。でも、大体300万円なのか200万円なのか、といった概算を教えてもらうだけでもいいですよね。300万円と言われて、320万円だったとしても怒る人はいないでしょう。

黒田 その通りですね。お金がかかると言われて、すぐ払える人ばかりではありません。貯えがあるにしても、定期預金であったり株や債券であったりと。患者は、どのタイミングでいくらかかるか知りたいのです。この調子で今後も負担が続くのか、あるいは減っていくのか、スケジュールを知りたい。

私は、ホルモン治療を受ける際に、担当医から先発薬とジェネリック医薬品の対比表を提示されました。5年間服用を続ける予定だったので、迷わず(薬価の安い)ジェネリックを選びました。

高橋 対比表ですか、いいですね。大まかなことを知るだけでも安心できるはずです

黒田 私はお客さまに相談を受けたときには、「診断が確定した時点で1年目はどれくらいかかるか聞いてみてください」とお勧めしています。抗がん薬や放射線治療、定期検査などでどれくらいになるかの目安を確認しましょうと。

不可分な「マネー」と「就労」

黒田 ライフプラン的に考えると、どの年代でもがんになると家計が困窮するのは仕方がないのですが、若い人はとくにお金がありません。収入が伸び悩んでいて民間保険にも入っていない。中には公的保険すら入っていない人もいます。働いてないとすると、当然ベースとなる公的保障も薄くなります。

高橋 「マネー」と「働く」という行為は不可分です。就業の目的はお金だけでないでしょうが、お金は大事ですし、やりがいを持ってお金を得たいからこそ職を選ぶのです。

若いときにがんになると、若いからこその厳しさがあります。自分で仕事についての意思決定ができない職位の人もいるし、正社員ではない人も多い。非正規雇用の人は正規雇用に比べると、診断後に仕事を失う人の割合が高いです。

では、正社員は安泰かというとそうではない。扶養家族がいるために、心身に無理があってもなんとかしがみつこうとする側面もあります。

会社の人事部には「この人は今は病気だけど、こう働ける」あるいは「今は就労力が落ちているけれど、3カ月先にはこれくらい戻る」というように、今でもできることや、少し先の状況も考えてほしい。治療後に一定期間たてば、就労パフォーマンスはほぼ戻ることが多いです。時間軸を持って、「今はこう働いてもらおう」というやりくりをできる範囲でやってもられえるといい。

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