【副作用対策】分子標的薬による皮膚障害

効果が高いほど出やすい手足症候群 予防ケアと早めの対処が大切

監修●山﨑直也 国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科医長
取材・文●町口 充
発行:2014年6月
更新:2014年9月

  

「症状をコントロールできれば抗腫瘍効果を最大限に引き出せる」と語る山﨑直也さん

がんの化学療法(抗がん薬治療)の副作用で悩まされるのが、手足に現れる炎症や痛みなどの手足症候群。とくに分子標的薬では強く発現しやすいが、実はこれは治療効果が現れている証でもある。手足症候群をいかに上手にコントロールするかが、治療を続ける上で重要になっている。手足症候群の概要とその対策について専門家に聞いた。

分子標的薬の皮膚症状は効いている証

抗がん薬による治療を受けていて手足の皮膚などに起こる手足症候群は、だれもがみな必ず起こるというものではないが、薬物によっては数10%の患者さんに生じるといわれる。命を脅かすほどではないとしても、人前に出られなくなったり、耐えがたい痛みに苦しんだりして日常生活に支障をきたし、中には治療を続けられなくなり、がんを悪化させるケースも少なくない。

「とくに最近相次いで登場している分子標的薬の場合は、ほぼ必発するといっていいほど手足症候群などの皮膚症状が現れます」(図1)

図1 手足症候群の症例

提供:山﨑氏

こう語る国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科医長の山﨑直也さんは、次のようにも述べる。

「ただし、分子標的薬治療で現れる皮膚症状に対する考え方で重要なのは、それによって現れる皮膚の所見は、薬が効いて抗腫瘍効果が出ている証拠だということです。だから、われわれ皮膚科医は敢えて皮膚障害と言わずに皮膚症状と言ったりします」

例えば、イレッサ、タルセバ、アービタックスなど、上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とした薬がある。EGFRはがん細胞の表面にたくさん存在し、細胞が増殖するときに重要な働きをする。このEGFRをブロックし働かせなくして、がん細胞を死滅に導くのがEGFRを標的とした薬、つまり分子標的薬の役割。

ところが、EGFRは皮膚や、毛や爪、汗腺、皮脂腺などの皮膚付属器にも分布していて、皮膚や爪の代謝などでも大切な役割を果たしている(図2)。このため、薬ががんによく効いて寿命が延びている患者さんほど、皮膚症状も強く出ることが判明している。

図2 上皮成長因子受容体(EGFR)の発現と役割

イレッサ=一般名ゲフィチニブ タルセバ=一般名エルロチニブ アービタックス=一般名セツキシマブ

症状をいかにコントロールするか

山﨑さんは言う。「分子標的薬などの抗がん薬が登場する前にも、薬の副作用で皮疹が出たりすることがありましたが、それは多くは中毒疹というアレルギー反応であり、体に合わないからその薬は止めましょうというサインでした。ところが分子標的薬の場合、皮疹が出たので薬を止めるということは、がんの治療を中断することを意味します」

では、どうするか。薬を使う限り皮膚症状はなくならないが、日常生活に支障が出ないよう症状を軽くすることはできる。「症状を上手にコントロールできれば、投与期間を長くして抗腫瘍効果を最大限に引き出すことが可能となり、がん治療の成功にもつながっていきます」

それを証明した臨床試験の結果がある。2010年に日本と韓国で行われたPost-TACE 試験だ。肝臓がんの患者さんを対象に、肝動脈化学塞栓療法(TACE)後に分子標的薬のネクサバールを投与することの有用性を検討したところ、全体としては予後を改善する結果は得られなかった。

ところが、詳しく解析してみると、日本人のグループでは予後の改善がみられなかったのに対し、韓国人グループでは改善がみられていて、明らかな有意差が認められた。

日韓で異なった結果が出た原因を調べたところ、その1つに、試験からの脱落者の違いがあった。韓国人グループでは手足症候群などの副作用が出てもネクサバールの投与を中止せずに治療を続けたケースが多かったが、日本人グループでは、手足症候群の発現に驚いて、投与を止めて脱落した例が多かったという。

山﨑さんによると、分子標的薬による手足症候群は、投与してすぐのころに症状が出やすいという。そこを凌いで、皮疹と上手に付き合っていれば投与を続けられ、結果も違ったかもしれない、と語っている。

また、分子標的薬の手足症候群の現れ方には人種差があり、日本人を含むアジア人のほうが欧米人より症状が出やすいと言われているため、なおさら注意が必要だ。

ネクサバール=一般名ソラフェニブ

従来の抗がん薬との違いは?

もちろん、がんの治療薬の副作用で手足症候群が現れるのは分子標的薬だけではない。従来から使われている抗がん薬でも似たような症状がみられ、例えばゼローダをはじめとするフッ化ピリミジン系の抗がん薬(ほかにTS-1 5-FU、ジェムザールなど)は手足症候群の頻度が高い薬として知られる。

ただし、フッ化ピリミジン系抗がん薬の場合は比較的軽いものがほとんどなのに対して、重篤な症状が現れやすいのが分子標的薬。

分子標的薬による症状は投与開始後、比較的早期に現れやすいため、予防とともに早期発見と早期対応によって速やかに軽快することが分かっている。

また、フッ化ピリミジン系抗がん薬と分子標的薬では現れる皮膚症状にも違いがある。早めの対応が肝心なので、初期症状を見誤らないことが重要となる。

「従来からの抗がん薬の手足症候群は、最初に手のひら、足の裏が赤くなって、茶色い点々が出る感じになります。ひどくなると、全体にぼわーっと赤く腫れて、何となく柔らかくなり、皮がむけて痛くて歩けない、あるいはボタンが止められなくなるなど、日常生活に支障をきたすようになります。

一方の分子標的薬による手足症候群は、足や手が、靴などに当たるところがまず赤くなって、そこが硬くなっていきます。硬くなると、物に触れたときに石を踏んでいるとか、画びょうを踏んでいるのと同じような感じになって、痛くて仕方ないと訴えたりします」

爪の周りが腫れる「爪囲炎」や、手足以外の顔や胸、背中などに「ざ瘡様皮膚炎」と呼ばれるニキビのような皮膚炎が現れることもあるという(図3)。

図3 投与開始後の治療経過に伴う主な皮膚障害の一般的な発現時期

症状が発現してからのその後の経過もほかの抗がん薬と分子標的薬では異なっている。ほかの抗がん薬はゆっくり時間をかけて治っていくのに対して、分子標的薬のほうは最初の見た目は派手だけれども、疼痛などつらい症状は投与から10日前後でなくなり、その後、症状は消えはしないものの、それほどつらくはない。

「症状がひどければ早めにいったん休薬するか、薬を減量すれば、やがて症状が取れるので、その後も治療を続けられます」(図4、5)

図4 皮膚乾燥発現時の対策

CTCAE 4.0版「皮膚および皮下組織障害」より抜粋
図5 皮膚症状のGrade別症状と対処法

第8回浜松オンコロジーフォーラム(平成23年4月23日)

ゼローダ=一般名カペシタビン TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム 5-FU=一般名フルオロウラシル ジェムザール=一般名ゲムシタビン

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