【副作用対策】~オキサリプラチンを中心に~

抗がん薬による末梢神経障害 効果的な対策とセルフケアの方法は?

監修●野村久祥 国立がん研究センター東病院薬剤部主任
取材・文●町口 充
発行:2014年7月
更新:2019年7月

  

「院外の調剤薬局にもがんに詳しい薬剤師が少しずつ増えているので、そうした人たちに相談するのも1つの方法です」と述べる
野村久祥さん

抗がん剤治療で現れやすい副作用の1つが手足のしびれなどの末梢神経障害。患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させて、とても我慢できないと治療を中断することもあるほどだが、適切な対処と患者さんのセルフケアで症状の軽減が可能だ。今回は大腸がん治療でよく使われるオキサリプラチン(商品名エルプラット)を中心にみてみよう。

手足がしびれ、ジンジン痛む

私たちの体中に張りめぐらされているのが神経。脳や脊髄にあるのが中枢神経で、ここから枝分かれして手の先、足の先など体の末端にまで延びる細かいネットワークが末梢神経だ。

国立がん研究センター東病院薬剤部主任の野村久祥さんは次のように語る。「末梢神経には、全身の筋肉を動かす運動神経と、痛みや感覚などを感じる感覚神経、血圧や体温調節をする自律神経などがありますが、抗がん薬の副作用によってこれらの神経の働きが悪くなって起こるのが末梢神経障害です」(表1)

表1 末梢神経障害のGrade分類(CTCAE v4.0)

どんな症状かというと、「手や足がピリピリとしびれる」「手や足がジンジンと痛む」「手や足の感覚がなくなる」「手や足に力が入らない」「物がつかみづらい」「歩いているときにつまずく」「椅子から立ち上がれない」「階段を上れない」など。

末梢神経障害を起こしやすい抗がん薬

表2 末梢神経障害を起こしやすい抗がん薬

末梢神経障害を起こしやすい抗がん薬には表2のようなものがある。「これらのうち、使用頻度が高くて、長引くしびれなどで患者さんの多くが苦労しているのがパクリタキセルやオキサリプラチンです。

パクリタキセルは卵巣がんや非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、子宮体がんなどに用いられ、手足のしびれや痛みを感じるなどの末梢神経障害が現れることがあります。また、オキサリプラチンは転移・再発大腸がんなどに使われますが、薬を投与してから数日内に現れる急性の末梢神経障害と、薬の投与を続けるのに伴って現れる遅発性の慢性末梢神経障害があるのが特徴です」

大腸がんでは、フルオロウラシル(5-FU)とロイコボリン、オキサリプラチンを併用するFOLFOX療法やカペシタビンと併用するXELOX療法など、オキサリプラチンベースの治療法でこうした末梢神経障害が現れやすい。

急性・慢性2つの末梢神経障害

「急性の末梢神経障害はオキサリプラチン特有の副作用です。冷感刺激といって、冷たいものに触れることで電撃性の痛み(しびれ)を感じます。指先や足先の感覚障害のほか、喉や舌先での知覚障害を生じることもあります」

喉にも末梢神経が分布している。冷たい物を飲んだりしたとき、末梢神経が刺激されて喉がキューッと締まる感じに襲われて、「死んでしまうのではないかと思った」と訴える患者さんもいるほどだ。

ただし、こうした急性の末梢神経障害はオキサリプラチンには現れるが、シスプラチンなどほかのプラチナ系の薬剤や、タキサン系にはみられないという。

症状の多くは一過性で、しばらくすると解消されることが多いため、投与後1週間ぐらいは冷たいものを避けるなど生活上の注意が必要となる。一方の慢性の末梢神経障害は、プラチナ系やタキサン系などほかの薬剤でも現れる。「慢性の場合は蓄積毒性によるものが多く、患者さんをみていると投与してすぐに現れる人もたまにはいますが、多くは投与回数をある程度こなしてから出るようになります。人それぞれですが、投与開始1~2カ月してから症状が現れます」

図1 Grade3の末梢神経障害からの回復期間

Reprinted with permission Ⓒ2000 American Society of
clinical Oncology. all rights reserved.
de Gramont A.et al:J Clin Oncol. 18(16)2938-2947.2000

こう語る野村さんによれば、累積投与量850㎎/㎡で10%の患者さんに手足のしびれや、文字が書きにくい、ボタンがかけにくい、歩きにくいなどの機能障害が現れるようになり、1,020㎎/㎡では20%に認められることが報告されている、という。

ひどくなると、歩こうとして転んで骨折し、寝たきりの原因になることもある。「正座したあとに足がしびれるような感覚のため、立ち上がったときに転んでしまうこともあるし、指先の感覚が鈍っているので、物にぶつけてしまう時もある。その結果、出血しても、薬の副作用で血小板も低下しているため血が止まらない、というケースもあります」(図1)

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