「がんばらない」けど「あきらめない」
鎌田實のがんに負けないための発想の転換7箇条

発行:2004年10月
更新:2013年4月

  
鎌田實さん

かまた みのる
東京医科歯科大学医学部卒。長野県茅野市の諏訪中央病院院長としてがん末期患者、お年寄りへの24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組む。チェルノブイリ原発事故で重症の白血病になった子どもたちを救う医療活動にも参加。今年の7月にはイラクの子どもたちの医療援助にも参加した。著書『がんばらない』『あきらめない』(ともに集英社)がベストセラー。近著『雪とパイナップル』(集英社)も話題に。

第1条 闘い方を変幻自在にしよう

日本の男子バレーボールはオリンピックに出ることができませんでした。なぜ、かつて強かったバレーボールが弱くなったのかわかりますか。

「がんばれニッポン、がんばれニッポン」 気持ちの悪い不自然な絶叫が続きます。テレビコマーシャルがアイドルを使って興奮の異常空間をつくりあげます。絶叫している若者たちは、絶叫そのものにエクスタシーを感じています。

これほど陶酔していて、厳しい闘いに勝てるわけがないのです。一つの試合に勝つためには、勝負の波を見ぬかなければなりません。がんばる波とがんばらない波を上手につくったチームが、勝利を得るのです。力が拮抗しているとき、「がんばれニッポン」を全試合中やり続けて勝てるわけがないのです。

プロ野球のペナントレースに勝利するためにはどうしたらいいのか。勝つことだけを考えている監督のチームは、長いペナントレースを乗り切れません。大切なのは負け試合なのです。50回位までは負けていいのです。将来につながる負け試合をプロデュースすることができるかどうかが大切なのです。

がんという敵と相対したとき、早期がんで、相手の力があまり強くないときは、「がんばれニッポン、がんばれニッポン、チャチャチャ」と一気に攻めればいい。がんの勢いが強く、拮抗した闘いのときには、がんばって、がんばって闘い、時々ふっーと力を抜いて、がんばらないときをうまくつくって、長期戦になっても、へこたれないことが大切です。

がんの勢いが強く、再発したり、転移したりしているときは、ガンバリズムだけで、一方的に攻めようとすると、自分の正常な細胞も傷つけて討ち死にしてしまいます。かえって、早く命を奪われてしまいます。

ときには、がんばらないふりをするのです。闘わないような顔をして、がんと仲良くしてしまうのも手です。がんがあっても、自分らしく生きられればいいのです。もちろん、がんがないほうがいいに決まっていますが、あっても静かにしてくれていればいいのです。敵が油断しているようなときに、突然、攻撃を始めるといいでしょう。がんばる波とがんばらない波を上手にスィッチすることが大切なのです。

膵臓がんで、肝臓にも腹腔内のリンパ腺にも転移しているのに、もう9年半、元気に飛び回っている人もいます。この人は無理しないで、ひょうひょうと生きています。いつもニコニコしながら病気といい距離をつくって、その反面心では負けないようにしています。がんばりすぎないけれど、どんなときも、あきらめないのです。

第2条 「がんばれない」とき、ダメ人間だと思わない

「がんばる」は、20世紀の日本の文化そのもののような気がします。戦争を引き起こしたのもがんばった結果だし、戦後の奇跡の復興を遂げたのも「がんばろう」の合言葉の下でした。しかし、がんばった結果として、僕たちは20世紀後半になって、自然を壊し、経済や教育や家族のあり方を壊し、そして自らの健康を壊してきてしまったような気がします。がんばるときは交感神経が刺激されて、リンパ球が減って免疫機能が低下しています。がんばる人のほうが、がんになりやすいのです。ときどきゆっくりすることが大切なのです。がんにならないためにも、がんになって、がんを克服するためにも、ときどき、がんばらないことが大切なのです。

「がんばる」ことだけを「正解」とし、「がんばらない」ことをバツとしてきたことで、僕たちは実に大切なものを失ってきました。がんという病気は、がんばっても、なんとかならないときがあります。僕たちはもうちょっと柔軟になって、ときにはがんばれない自分や、がんばらない自分を認めて、がんとの距離を上手にとることが大切なのです。いろんな事情でがんばれないがんの患者さんがいたとき、尻を叩いて「がんばれよ」と呼びかけるのではなくて、「がんばれないときもあるよ」と認めてあげることが大切です。

がんと闘うためには、自分を肯定的に評価することが大切。自分をダメ人間と考えてはいけない。がんと闘うためには、物事をポジティブに考える習慣を身につけたい。

第3条 つながりの中でがんと闘う

20世紀の日本の医療は、細胞や臓器から病気にアプローチする患部治療主義が主流になりました。丸ごとの人間を診る、いわゆる全人的医療は傍流とされてきました。つまりがんばって臓器さえ治せば、その人はまた健康に戻る、だからがんばろう、と。これは治る病気の時代、例えば感染症の時代なら全面的に成り立った話です。結核や敗血症に勝つには、「ナニクソ」と思う根性が必要でした。

しかし、疾病構造が変わって、がんなど治りにくい病気が多い時代になりました。単純に「がんばる」といっても、ちょっと違うような気がするのです。病気の臓器があったとしても、元気な臓器も自分の体の中に、まだまだいっぱい残っている。元気な部分をうまく使って、どうやって自分の人生を自分らしく生きるかを考えるのも大切なのです。

人と人、人と自然、体と心という三つのつながりで命は守られています。

「子どもたちがキレる」という言い方がありますが、子どもたちが突然キレたのではなく、僕たち大人が、この三つのつながりをずたずたに切ってきた結果、子どもたちがキレ出したのだと思うのです。もう一度、三つの絆をつなぎ合わせないといけないと思います。

「病気は体にあるのだから体を診ていけばいい」と思っている医者が多い。今の医学の力では、暴れ出したがん細胞を、どうにもできないことも多い。体を治せないときに、今の医療はすぐにギブアップして、放り出してしまう。でも、その人は体と心のバランスの中で生きています。心によい刺激を与えてあげることで、体は元気になって、苦しみや痛みが、軽減することがあります。見えないものの中に免疫系が隠されているのです。

がんという病気は複雑だ。手術が終わっても、再発させないよう臓器だけを治すのではなくて、人と人、人と自然、体と心のつながりを大切にしよう。いい人といい時間を持とう。嫌いな人と無理してつき合わなくていい。免疫機能が下がるだけです。出来るだけ自然の中にいる時間をつくろう。緑を見ることが大事。ペットもいいでしょう。森林浴や温泉もいい。体にいい刺激を与えて、いい汗をかく。小説や詩を読む、音楽を聴く、映画を観る……。何でもいいから心に栄養を与えてあげましょう。


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