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チェルノブイリでは甲状腺がん、膀胱がんが発症。日本は対岸の火事といっていいか

原発事故による放射線の内部被曝。がんになる可能性は?

監修●児玉龍彦 東京大学アイソトープ総合センターセンター長
   ●福島昭治 日本バイオアッセイ研究センター所長
取材・文●常蔭純一
発行:2012年12月
更新:2013年9月

  
児玉龍彦さん事故後一貫して放射線の内部被曝の危険を訴え続けている児玉龍彦さん
福島昭治さんチェルノブイリにおける膀胱がんの発症と内部被曝の関係について研究してきた福島昭治さん

2011年3月に起きた福島原発事故。広島に投下された原爆20個分もの放射性物質が放出されたという。

原発事故から1年7カ月。人体への影響は、本当のところどこまであるのだろうか。

福島の子どもで甲状腺異常が

「福島の子どもに甲状腺がんが見つかった」

2012年9月、福島原発事故の影響を不安視する人たちには、ショッキングなニュースが報道された。福島市で開かれた「県民健康管理調査検討委員会」で、福島県立医科大学で実施した18歳以下の子どもを対象とした甲状腺検査で、1名にがんが見つかったのだ。検討委員会では、甲状腺がんは放射線被曝から最短でも4年かかるとし、事故後1年半しか経過していないことを理由に、事故の影響を否定している。

もちろん現実にはそういった子どもたちの甲状腺異常と原発事故の因果関係はわかっていない。しかし、原発周辺の住民たちが、事故直後に甲状腺異常の原因となるヨウ素131という放射性物質により被曝していたことは確認されている。

甲状腺被曝が明らかに

■図1 原発事故周辺住民を対象にした甲状腺中の放射性ヨウ素131の推定線量値
■図1 原発事故周辺住民を対象にした甲状腺中の放射性ヨウ素131の推定線量値

資料提供:弘前大学被ばく医療総合研究所、床次眞司氏

弘前大学の被ばく医療総合研究所では、事故後1カ月が経過した2011年4月、福島県の南相馬市や浪江町の住民62名を対象に、甲状腺のヨウ素131の被曝調査を実施。3月15日の福島原発事故で放射線を被曝したと仮定し、その後の内部被曝の線量を割り出した。その結果、62名中46名から最大線量33mSv(ミリシーベルト)の甲状腺被曝が明らかになったのだ(図1)。

今回の調査では、ヨウ素131は、甲状腺被曝を防ぐために国際原子力機関が安定ヨウ素剤を飲む目安としている50mSvを超えた人はおらず、数値的に高いレベルとはいえない。しかし、がんとの関連でいうと、低線量の放射線であっても、発がんリスクは上昇すると考えることが妥当であると言えるだろう。

振り返ると、2011年6月の厚生労働省の研究班による調査で、福島県など8県に住む108人の女性を対象に母乳中の放射性セシウムを測定したところ、福島県に住む7人の女性から、微量だがセシウムが検出されたのだ。

「母乳に放射性物質が含まれているのは、その人が放射線を内部被曝していることを意味しています。当然それだけ発がんリスクが高くなる可能性があります」

こう語るのは、事故後一貫して放射線の内部被曝の危険を訴え、今も福島で放射能の除染活動を続けている東京大学アイソトープ総合センターセンター長の児玉龍彦さんだ。

内部被曝の影響

■図2 放射性物質が遺伝子を傷つける方法

■図2 放射性物質が遺伝子を傷つける方法

放射性物質はDNAの切断を引き起こすが、2重らせんは安定的で、分裂期に1本になっているとき切れやすく感受性が高い

「外部被曝とは、環境中の放射線や医療などで人工的な放射線を体外から浴びることを指します。レントゲン検査を思い浮かべればわかりやすいでしょう。一方、内部被曝は、放射性物質を含んだ水や食物などを摂取することで、体内に放射性物質が取り込まれることを指します」(児玉さん)

そして、今問題になっているのが、体内に放射性物質が取り込まれる内部被曝だという。「低いとされる線量でも、それが原因で遺伝子に変異が起こり、がんが発生するリスクが出てくる可能性があるからです」と児玉さんは指摘する。

「内部被曝によってなぜがんが起きるかというと、放射線がDNAを切断するからです。ただしDNAというのは2本の鎖からなる2重らせんですから、2重のときは安定的で切れにくい。しかし細胞分裂するときに、2重らせんはほどけて1本ずつになって、それぞれが2倍に増えて鎖が4本になります。この鎖が1本になる過程のところが、切れやすく、危険なんです」(児玉さん)(図2)

細胞分裂する際にDNAが切断され、その結果、遺伝子のコピーエラーが生じる危険性があると、児玉さんはいう。

「DNAが切断され、そのまま細胞が死滅すれば問題は起こりません。しかし、細胞にはDNAが切断されても修復して生き残ろうという機能があります。修復にはエラーが起きやすく、コピーされる数が、減ったり増えたりしてしまう異常が生まれることがあります。そうしてコピー数に異常のある染色体は、さらに異常が起こりやすくなります。事故を起こした中古車に欠陥があり、新たな事故につながる場合を考えればわかりやすいでしょう」(児玉さん)

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