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放射線の基礎知識 「放射線とは何か」に始まる、放射線に関する用語解説集
不安に陥らないために、今こそ「放射線」の基本の「き」から学ぼう

文:大西正夫 医事ジャーナリスト
発行:2011年9月
更新:2013年4月

  

大西正夫さん
おおにし まさお
1946年生まれ。1971年、北海道大学英文科卒。同年読売新聞社入社。科学部、調査研究本部を経て2006年退社。医学・医療、環境問題を中心に著述業の傍ら、埼玉医科大学客員教授、東京医科大学兼任教授を務める。近著に『インフルエンザ対策』(ポプラ社)、『放射線医療』(中公新書)など

東日本大震災によって起きた福島第1原子力発電所事故以来、放射線や放射能に大きな関心が寄せられています。
しかし、改めて考えると、放射線って一体何なのでしょう。メディアで取り上げられる専門用語にも、戸惑うばかり。
そこで、放射線について造詣の深い大西正夫さんに、放射線に関連する用語解説を中心に、基本的なことから説明していただきました。


放射線の基本をよく知れば、賢い付き合い方ができる

今回の福島第1原発事故により、一般の人たちの間で放射線、放射能に対する不安が高まっています。

確かに放射線は、目に見えない、音がしない、皮膚に感じない、味やにおいがしないだけに、その性質(本質)をナマで感じ取ることはまずありません。その結果、マイナスの影におびえ、不安な状況、時に混乱状態に自らを置くことがあっても不思議ではありません。

しかし、放射線の基本をよく知ることで、賢い付き合い方ができるはずです。

放射線とは何か。放射能とどう違う?

放射線を英語ではradiation(ラジエーション)といいます。語源はradio。電波を受けて聞く、あのラジオです。電子レンジのマイクロ波、目に見える光の可視光線なども放射線です。

この世に存在する物質は、生物、非生物を問わず、すべて90種類の原子の組み合わせでできています。原子の中心にはプラスの電気を帯びた原子核がありその周囲をマイナスの電気を帯びた電子がグルグル回っています。そこに放射線が当たると、電子が外にはじき出されて原子核から離れる現象を電離、イオン化という難しい言葉で言い表していますが、それによって原子の反応性や分子の化学結合に乱れが生じます。人体ですと、DNA損傷(「放射線でなぜがんが生じるのか」の項参照)が生じるのです。

[図1 代表的な電離放射線の分類]

図1 代表的な電離放射線の分類

電磁波は光や電波の仲間。粒子線は原子の構成成分である電子、陽子、中性子などの粒子の流れを表す

東島和子著『放射線利用の基礎知識』(講談社ブルーバックス)より一部改変

こういった放射線は電離放射線と呼ばれます。その分類を図1に示します。

さて、放射能ですが、読んで字のごとく「放射線を出す能力」を表します。放射線を出す性質の意味もあります。放射線と放射能の関係を、光を用いて説明すると分かりやすいでしょう。放射線を光と考えると、放射能は電球のように光を出す能力となります。詳しくは、「放射線の単位」の項で図解します。

しかし、放射性物質そのものの意味で放射能と呼んでいる場合も多いようです。「放射能汚染」、「放射能が漏れた」というような表現がそうですね。しかし、研究者の中には、「放射能を持つ物質」、「放射能の強さ(放射能量)」のように使っていることもあり、必ずしも間違いとはいえません。

「放射線を出す」という意味の「放射性」を付けた用語も、放射性同位元素、放射性同位体、放射性核種などいくつかあります。放射性同位元素は、同じ元素で重さ(専門的には質量といいます)が異なる仲間を指します。同位体も同じ意味です。英語名のラジオアイソトープ(RI)と聞けば、ピンとくるかもしれません。

アルファ線・ベータ線・ガンマ線

ラジオアイソトープには、放射線を出すことで原子の構造が変わり、時間とともに安定な元素となって放射能を失う性質があります。それを活かして、医学的検査に使われています。放射性物質を体内に注入するので、不安があるかもしれません。でも、短時間で減衰し、排泄されるため心配ありません。

病院の核医学検査部門の扉に、図2のような、黄色い地に赤色の三つ葉のマークが塗られているのを目にしたことはありませんか。三つ葉は放射線の代表ともいえる、アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線をデザインしたものです。

1895年は、ドイツのヴィルヘルム・レントゲン博士が世界で最初の放射線、エックス(X)線を発見した記念すべき年ですが、その3年後に、ニュージーランド出身、英国で研究生活を送っていたアーネスト・ラザフォード博士がアルファ線とベータ線を発見しました。1900年にはフランスのポール・ヴィラール博士がガンマ線を発見しました。放射線科学の中核的な放射線は、19世紀末の5年間に集中して世の中に出たのです。

医療用はもちろん、さまざまな分野で活躍する放射線の役割として最も重要な性質は、物質内を通り抜ける透過性です。図3に、主な放射線の透過性を示しましたが、中性子線は鉛や厚い鉄板をも突き抜けます。やっと水中で止まります。このことは、原子炉内で冷却水が核分裂制御の死命を握る生命線であることを意味しています。

[図2 放射能標識(通称・三つ葉マーク)]
図2 放射能標識
[図3 電離放射線の種類と透過力]
図3 電離放射線の種類と透過力

放射線の単位── ベクレル・グレイ・シーベルト

[表4 放射性物質と放射線に関する主な単位]

放射性物質の単位 Bq(ベクレル) 1秒あたり、 何個の原子が壊変するかを
表す単位
C(i キュリー) Bqが使われる前の古い単位
3.7×1010Bq=1Ci
放射線に関する単位 Gy(グレイ) 物質1kgあたり、1J(ジュール)の
エネルギー吸収が生じる放射線の量
Sv(シーベルト) 放射線の種類ごとに、吸収線量の影響度
をかけた値。生体への影響をみる指標

今回の原発事故による報道で、聞き慣れない、あるいは初めて目にした横文字表記の単位が飛び交い、具体的なイメージが浮かばない方がいるかと思います。でも、表4を見てください。上から2段目にあるキュリーは聞いたことがある名前ですね。そう、ラジウムを発見したノーベル賞科学者のマリー・キュリー夫人です。他の3つの単位も実は人名に由来しています。

ベクレルは、ウランに放射能があることを発見したフランスのアンリ・ベクレル博士にちなんでいます。グレイは、放射線生物学のパイオニアとして知られる英国のルイス・グレイ博士、シーベルトはスウェーデンの放射線防護の専門家だったロルフ・シーベルト博士の名前です。科学の世界では、国際標準単位として、その分野のパイオニアだった人の業績と名誉に敬意を表して命名されることが多いのです。

ベクレルは放射能の単位で、1秒間に崩壊(壊変)する原子(核)の数を表しています。食品や水に含まれる放射性物質の量をみるときに使われます。

放射線を受けた物質が吸収するエネルギー量を示す単位(吸収線量)がグレイです。1キログラムの物質が1ジュール(仕事量の単位で0.238カロリー)のエネルギーを吸収すると、その吸収線量は1グレイです。

[図5 放射線と放射能]
図5 放射線と放射能

東島和子著『放射線利用の基礎知識』(講談社ブルーバックス)

ベクレルが生体以外の物質の放射線量をみるのに対し、シーベルトは、放射線が人間に与える影響の度合いを測るときに用いられます。同じエネルギー量の放射線を浴びても、放射線の種類や当たる部位(臓器など)によって、健康への影響が違ってきます。足の先に受けるのと、放射線に弱い骨髄や肝臓、腸管に受けるのとでは、影響の度合いが異なります。専門的にはそれを実効線量といいます。

ちなみに、1シーベルトは1000ミリシーベルト、1ミリシーベルトは1000マイクロシーベルトに相当します。

図5は、科学ジャーナリストの東島和子さんが著した『放射線利用の基礎知識』(講談社ブルーバックス)に出ている放射線と放射能の関係をめぐるイラストですが、ベクレルとシーベルトの位置関係がひと目で分かりますね。図の上段は、「放射線とは何か」の項で簡単に記した「光と電球」の関係を、懐中電灯そのものの光を出す能力のカンデラと、その明るさを表すルクスに置き換えて示しています。


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