「プロジェクト未来」を機に、より患者の役に立つ活動へ
「リレー・フォー・ライフ」のこれまで、そしてこれから──

取材・文:半沢裕子+「がんサポート」編集部
発行:2012年9月
更新:2013年9月

  

リレー・フォー・ライフには、各チームがそれぞれ参加。GISTと闘う仲間を応援する「GISTERS」も毎年参加している

リレー・フォー・ライフには、各チームがそれぞれ参加。GISTと闘う仲間を応援する「GISTERS」も毎年参加している

「リレー・フォー・ライフ」で集められたお金は、これまでがん検診や相談センター、若手がん専門医への奨学金などに使われてきました。しかし、がん研究に助成する「プロジェクト未来」ができたことで、よりがん患者に役に立つ支援にまわることが期待されています。リレー・フォー・ライフの生い立ち、そしてこれからを、関わってきた3 人にうかがいました。

願いは治ること。それを患者自身で実現する

三浦秀昭さん リレー・フォー・ライフ横浜実行委員会事務局シニアディレクター
写真:向井渉

三浦秀昭さん

みうら ひであき
03年に3b期の肺腺がんとわかり、治療をするも再発。治療中の05年、テレビでアメリカのリレー・フォー・ライフを見て、「日本でもやりたい」とネットで呼びかけ、06年9月、つくばで初のリレー・フォー・ライフを実現した

私は03年に3b期の肺はいせん腺がんとわかり、抗がん剤と放射線による治療後、職場に復帰しましたが、2回の再発を経験しています。がんは医師のいう通りにしても治らない、患者ができることも少ないと落ち込んでいたとき、05年、テレビでアメリカの「リレー・フォー・ライフ」を見ました。がん患者が要望を訴えるだけでなく、みずから資金を集め、希望する活動に資金を投じていく。「目からウロコ」でした。

そこで、「日本でもやりたい!」とネットで呼びかけ、仲間を集めました。アメリカの実施母体は米国対がん協会であり、日本では日本対がん協会が窓口と聞き、相談に。協会と一緒にトライアルで実現したのが06年9月。1年半での開催でした。

アメリカでは71年、ニクソン大統領が「対がん戦争」を宣言し、国を挙げてがん対策が始まりました。これを受け、民間で確立されたのがリレー・フォー・ライフだろうと思います。家族や友人でチームをつくり、チームの1人ひとりが1万円を目標に1年間募金活動を行います。家族でレモネードをつくって売ったり、子どもが1回5ドルで洗車を請け負ったり。それをリレー・フォー・ライフに持ち寄ります。毎年全米5500カ所で開催され、6億ドルのお金が集まります。

日本はまだそこまで至りませんが、毎年開催地が増えてきています。会場ではサバイバーが主役となって、生きていることをともに喜び、亡くなった人を偲びます。中でも、私が実現を心待ちにしていたのが、「プロジェクト未来」です。

リレー・フォー・ライフで集めたお金はがん検診や相談センター、若手がん専門医への奨学金などに使われてきました。しかし、がん患者の願いは何より治ること。1日も早くほしいのは治る治療法、治る薬です。

新薬研究はさまざまな制約があり、なかなか実現しないから、そこにがん患者自身がお金を出す。直接がん研究を助成し、参画するのです。

日本で新薬が生まれ、世界のがん患者が幸せになったら、本当に素晴らしいと思います。

「プロジェクト未来」は直接がん患者に役立つ活動

郷州葉子さん リレー・フォー・ライフ全国実施事務局ボランティアスタッフ
写真:向井渉

郷州葉子さん

ごうしゅう ようこ
末期がんの女性が友人になったことを機に、05年11月よりリレー・フォー・ライフに参加。自らはがん患者ではないが、サポーターとして、現在米国対がん協会とのやりとりなどを担当している

リレー・フォー・ライフを知ったのは同世代で末期がんの女性と友人になったことがきっかけです。「余命1年」と語る彼女は元気で明るく、「こんながん患者さんがいるんだ」と目をみはりました。彼女が尽力していたのがリレー・フォー・ライフの開催だったので手伝うようになり、現在米国対がん協会とのやりとりなどを担当しています。

リレー・フォー・ライフはアメリカで始まったもので、85年にアメリカ人医師が24時間走り続けることで、がん患者を励ますと同時に、研究などへの寄付を募る目的に始めたものです。2年目から、現在のようなリレー形式になりました。

「がんは夜も眠らない。がん患者は1晩中闘っている──だからこそ今日は元気な人が、がん患者のことを思いながら歩こう」と、夜通し歩く運動が始まりました。現在、アメリカでは350万人がリレー・フォー・ライフに参加しています。

日本でリレー・フォー・ライフの活動が始まった当初は、アメリカと違って寄付金を集めることは難しいと言われていました。しかし、日本人でもみなさん、「何かしたい」という気持ちは持っています。だからこそ、なぜ寄付金を集める必要があるのかを説明することが大切になってきます。

これまで、リレー・フォー・ライフで集められた寄付金は、がん検診などに使われてきましたが、がん研究に使われる「プロジェクト未来」ができたことで、直接がん患者に役立つ活動ができるのではないかと期待しています。

アメリカでは、寄付金6億ドルの約4割が研究助成に使われていますが、その他にも、病院まで通うのが大変な人のために送迎サービスを行うなど、直接患者の助けになる活動が行われています。日本でも、「プロジェクト未来」を機に、もっともっと患者さんのためになる活動へと、広がっていければいいなと思います。

参加するがん患者の生の声同じ病と闘っている者同士の絆が生きがい

門倉 晃さん GISTと闘う仲間を応援する「GISTERS」に参加

門倉 晃さん

かどくら あきら
01年に手術。小腸が原発のGISTで、肝臓にまで転移。手術で小腸のがんは取り切れたが、肝臓への転移巣は手術できず、その後グリベックを服用し、今年で11年目。今後はリレー・フォー・ライフを通して、「GISTになった人に希望を与えられれば」と門倉さん

会社の健康診断で肝臓に影が見つかり、市立病院で精密検査を受けたのが、消化管間質腫瘍(GIST)がわかるきっかけでした。小腸にはこぶし2個ほどの腫瘍があり、肝臓にまで転移していました。その後、01年に手術。小腸のがんは取り切れましたが、肝臓への転移巣は手術することが難しく、その後主治医から勧められたのがグリベックでした。飲み始めたら肝臓にあった腫瘍は小さくなり、今も服用を続けています。

病気がわかり、インターネットでさまざまなことを調べるうちに、GISTと闘う仲間を応援する「GISTERS」というグループを見つけ、参加するようになったのが、リレー・フォー・ライフに参加するきっかけです。06年のつくばから参加していますが、北海道から九州まで、本当に全国からGIST患者やその家族が集まってきて、びっくりしたのを覚えています。

GISTは5万人に1人という稀な病気。周囲に病気のことを話しても、なかなかわかってもらえない。そうした中で、リレー・フォー・ライフに参加して同じ病の人と会うことで、「みんな同じ思いを持っているんだ」と、それまでの孤独感から救ってくれました。それからは毎年リレー・フォー・ライフに参加しています。共に闘っている仲間に会いに行くという感じでしょうか。

リレー・フォー・ライフは、ただ単にグランドを歩くだけ。健康な人は「何が面白いの?」と思われるかもしれません。ただ、何ともいえない何かがそこにはあるんです。同じ病と闘っている者同士の絆というか、連帯感というか……。今では、リレー・フォー・ライフに参加することが、私の生きがいになっています。


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