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患者心理につけ込む「バイブル商法」の実体を探る
「末期がんが治る」アガリクス本はでっち上げだった

取材・文:常蔭純一
(2005年12月)

写真:版社摘発の新聞記事


末期がん患者にとって、救いの神のような存在であった、抗がんを謳う健康食品「アガリクス」の販売業者とその宣伝本を出していた出版社が、ついに摘発された。
予想はしていたものの、「末期がんが治った」という奇跡の体験談はすべて架空だったという事実には改めて驚かされる。
弱い患者心理につけ込んだその「バイブル商法」の実体を探る。

「治った」体験談はすべて架空だった

「それまで定期的に購入してくれていた顧客2人の足が遠ざかってしまった。以前、水溶性アガリクスが問題になったときは、キノコ本体やそのエキスを扱っていることもあってか、逆に売り上げが伸びました。しかし今度はキノコそのものである子実体の問題だから深刻です。アガリクスは本当に効くのか、あの1件以来、そんな不安が利用者であるがん患者の間に広がっているに違いありません」

こう語るのは、東京近郊のベッドタウンに店舗を構えるアガリクス専門の販売業者である。

「あの1件」とは、2005年10月5日、アガリクスに関する2冊の書籍を出版していた史輝出版、出版物を通して商品を販売していたミサワ化学の役員らが逮捕された事件を指している。

写真:史輝出版の入ったビル
写真:ビルの内部
バイブル本が制作された舞台となった史輝出版の入ったビル

警視庁広報課によると、逮捕されたのは史輝出版企画編集課長山辺泰郎、ミサワ化学社長三澤豊ら6名。さらに書籍を執筆していたゴーストライター、本の監修者として名を連ねていた大学教授も書類送検されている。 逮捕容疑は薬事法の「承認前の医薬品の広告禁止、医薬品の無許可販売禁止」に違反したというもの。薬剤でもない健康食品の効能を書籍で宣伝し、販売するのをバイブル商法というが、その犯罪性が問題視されたといえるだろう。

しかし逮捕に至る取り調べの段階では、がん患者にとってさらにショッキングな事実も明らかにされている。逮捕のきっかけとなった本を執筆したゴーストライターが「本に出てくる体験談はすべて自分で考えて捏造した」と話していることが判明しているのだ。アガリクスを福音とする2冊の「バイブル」は、実は何の事実にも基づかない架空の話だったわけだ。

アガリクスはブラジル原産のハラタケ科のキノコで正式名称はアガリクス・ブラゼイ・ムリル。三重大学農学部教授だった岩出亥之助氏が日本で初めて栽培に成功した後、90年代からはがん抑制に効果のある健康食品として注目を集め、民間調査機関、富士経済の調べでは2003年の市場規模は200億円を大きく上回っている。

現在では、がん患者、とくに抗がん剤や放射線治療など、既存の治療法が効果をもたらしにくくなったがん患者にとっては、最後にすがる頼みの綱のような存在のようにも考えられている。しかし、そうした患者の切実な思いとはうらはら、不透明な健康食品ビジネスの裏側では虚偽に満ちた商法がまかり通っていたわけだ。

じっさいにどのように患者は欺かれていたのか。バイブル商法の切り札となっていたアガリクスとは、いったい何なのだろうか。

そして私たちはこのアガリクスをはじめとする健康食品とどう向き合っていけばいいのだろうか。

販売先の連絡先をしおりで入れる姑息さ

写真:本の形をとった商品広告をしているバイブル本の数々
本の形をとった商品広告をしているバイブル本の数々

まずは今回、摘発されたバイブル商法の実態をみておこう。

今回の1件でバイブル本として摘発されたのは『即効性アガリクスで末期ガン消滅!』『徹底検証!末期ガンに一番効くアガリクスは何か』の2冊。発行部数はそれぞれ1万7000部、2万4000部である。

そのなかで『即効性アガリクスで……』の目次を見ると「第1部 末期ガンが消えた、治った――33人の証言」と題して「(肺がん)『手術不可能、余命3カ月』といわれたガンが退縮した」「(大腸がん―肝臓転移)抗がん剤を拒否したアガリクス療法、4つあった腫瘍が1年で消えた」といった、文字通り奇跡のような体験談がずらりと並ぶ。もちろんすべては架空の体験談だ。

その後、第2部で本のタイトルにもなっている即効性アガリクスの効果のしくみが説かれ、巻末に「『「即効性アガリクス」に関するお問い合わせは』として、「アガリクス研究センター」のフリーダイヤル番号が記されている。簡単にいえば、体験談で驚かせ、効果のしくみで納得させ、商品を購入させるシステムだ。何やらこどもだましのような構成のようにも思えなくもない。しかし、生命がかかっているがん患者が怪しげな奇跡でも信じたいと願うのもまた人情というものだろう。

ちなみに、厚生労働省では、健康増進法に基づいて、これらバイブル本から問合せ先を削除するよう指導を行なっているが、史輝出版ではしおりとして連絡先を記した紙片を本の間に挟み込んでいた。こうした姑息なやり方も同社の手法の特徴の1つといえるかもしれない。

もちろん史輝出版のすべての書籍がこうした「でっち上げ」によってつくられていたわけではない。摘発が行なわれるまで、同社の仕事をしていたというあるライターは、編集者や対象となる商品をつくっているメーカーからリストを手渡され、取材を行なったうえで原稿をまとめていたという。しかし、一部でこうした詐欺的な本づくりが行なわれていたのもまた事実だ。

バイブル本御三家の中でも突出

もっともこうした本づくりの手法は史輝出版に限ったことではない。これまでゴーストライターや共著者として、10冊近い健康本を出版しているバイブル商法にも詳しいあるフリーライターはこう語る。

「バイブル本では体験談は基本的には創作と考えたほうがいいでしょう。私自身もたいていは自らの取材経験を踏まえて、このがんだったらこんな感じだろうと想像して書いている。もちろん、その時に忸怩たる思いは感じています。文章が真に迫れば迫るほど、その思いは強くなる。もっとも出版社側はそんなライターの心理など、まるで斟酌してくれませんが……」

アガリクスと同じようにがん患者に人気の健康食品、プロポリスに関する本を作ったときは、自らメーカーの社長に執筆を申し出たという。

「メーカーの社長がプロポリスの本を出したいという。それなら出版社も知っているし、自分が執筆しようということになった。この時には取材はせず既存情報、知識でほとんど1冊をまとめあげました。もちろん体験談は想像の産物でした」

このライターによると、現在健康本を出版している中で、史輝出版とともにG社、M社がバイブル本御三家といわれているという。そのなかでも「売らんかな」の傾向がもっとも顕著だったのが史輝出版だったという。

「本のタイトルのどぎつさに加えて内容が稚拙です。商品が売れれば、本の中身はやっつけでかまわないという姿勢が見え見えでした」

そうしてライターが原稿をまとめ終えると、監修者のチェックを受けて本づくりが完了する。 前述のライターは、3週間もあれば1冊の本の原稿が完成しているという。


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