がんのチーム医療・施設訪問19
順天堂大学医学部附属順天堂医院がん治療センター(東京都文京区)

自由な雰囲気のカンファレンスで討議 多くの専門家で1人の患者を診る

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年4月
更新:2019年7月

  

患者さんをエンカレッジ いろいろな立場から支える
鶴丸昌彦さん 順天堂大学医学部附属順天堂医院がん治療センター長/特任教授

いろいろな職種・専門医が集まって対応する必要が

病院にはいろんな職種があります。しかし、それぞれが全ての能力を持っているかというとそうではなく、専門家の集団です。がん患者さんはすでに命を意識していますので、精神的、身体的、治療、治療後のこと、社会的なこといろいろな問題が起きてきます。

そういう状態の患者さんに対応するには、医師だけでは無理です。看護師も、心理士もリハビリも、いろいろな職種が集まって対応していかなければなりません。全体で1人の問題を解決していこうという体制が必要です。

また、患者さんは1つの疾患だけではないことが多いので、総合的に治療方針を決めなければなりませんが、そのときには担当医、放射線技師、薬剤師、看護師、病理医、外科医、内科医などが集まって討論して治療方針を決めていきます。これもチーム医療です。

「気持ちの持ちよう」をサポート

患者さんと接する部分でいうと、患者さんは相談事があるときに、担当医には話しにくいし、話していいものかどうかすらも迷っていることもあります。そんなときは看護師などのメディカルスタッフの出番です。

治る過程では、病気だけではなく、気持ちの持ちようがとても大きく作用します。手術をしても、本人に治る気がないと全然うまくいきません。精神的サポートでエンカレッジ(勇気づけ)しないと。

医師も励ましますが、サポートしてくれる人が多いほど心強いと思います。がんと闘う気持ちがより大きく出てくるのです。

がんを意識しない人生のために

がんになっても意識しないで人生を送りたいと思うのはみな同じです。がんの治療成績はどんどん良くなっているので、診療側からすると「治せる」という気持ちは強いのですが、患者さんという立場では考え方が大分違います。その部分をいろんな立場から支えていかなければいけません。

問題の1つに治療後の就労があります。この分野はまだ十分なサポートができていないと思います。仕事をしないとストレスや不安が出てくるという悪循環に陥ります。国や企業を含めたバックアップが求められています。

カンファレンスで知恵を集め、治療に生かす

順天堂大学医学部附属順天堂医院

がん治療で大切なのは、各科の医師による治療だ。一方で、各科だけでは対応に迷う症例や科を跨いだ共通の問題もある。それを解決するのがチーム医療。専門家が参加するカンファレンスで知恵を集め、治療に生かす。それは患者さんにも届き、支えられているという安心感につながる。順天堂大学医学部附属順天堂医院がん治療センターの取り組みを追った。

全ての力で1人を見る体制

「がんと闘う患者さんの人生を有意義なものにできないかと考えたとき、それは医者だけでは解決できません。看護師も心理士も理学療法士もいろんな職種が集まって対応していかなければ。全体で1人の問題に対応していこうということです」

順天堂大学医学部附属順天堂医院がん治療センター長(特任教授)の鶴丸昌彦さんはチーム医療の目的をそう表現した。同医院では、がん治療センターそのものがチーム医療の中心になっている。化学療法、緩和ケア、医療相談などを行うが、その周りには衛星のように呼吸器内科・外科、消化器内科・外科、放射線診断医・治療医……があって、各科の専門性を他の科への助言やサポートとして活かす体制にある(図)。

図 「がん治療センター」を中心に行われるチーム医療

「各科で行う患者さんへの治療が主だったところにセンターができて、がん患者さんに共通した問題を扱うようになったことは非常に意味があります。食道がん、胃がん、白血病などがんの種類は多いのですが、精神的な不安など共通点があります。それをケアする多職種による総合的な診療だと思っています」

化学療法室

患者相談室

骨関連事象に特化の会議

特徴は、頻繁なカンファレンスでの意見交換だ。同センターで独特なのは、骨関連事象(skeletal related event:SRE)に特化した2週に1回のカンファレンス。骨転移はがん転移の1つだが、それが引き起こす運動障害、骨折、神経の圧迫による痛みや麻痺は深刻で、SREと呼ばれている。ちなみに、全ての骨転移がSREにつながるわけではない。

SREそのものは生命に関わるほど重篤な症状ではないが、骨折の治療が難しかったり、神経に関わる手術が難しかったりする場合もあり、患者のQOL(生活の質)が大きく低下してしまう。

「高カルシウム血症など身体の変化も出てきます。運動障害で日常生活動作(ADL)が低下するので、それをサポートしなければなりません」(鶴丸さん)

SREのカンファレンスは毎回金曜日の夜に開かれ、各科での仕事を終えた関係者が三々五々集まってくる。日々の仕事が優先なので開始時間に間に合わないことは咎められない。その開かれた雰囲気を醸し出しているのが会場だ。大きなリハビリ室の一角で行われており、集まった20人ほどはリハビリで使われるソファに腰掛けている。報告者はマイクで話しながらスライドを投影していく。

毎週金曜夜開催される骨関連事象(SRE)カンファレンス

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