わたしの町の在宅クリニック 16 鈴木内科医院
患者さんの気持ちや物語に寄り添い、納得度の高いケアを
〒143-0023 東京都大田区山王3-29-1
TEL:03-3772-1853 FAX:03-5743-3656
URL:www.myclinic.ne.jp/clinic_s/pc/index.html
鈴木内科医院(東京都大田区)は、院長である鈴木央(ひろし)さんの父、荘一さんが1961年に開業した。日本にターミナルケアという言葉すらあまり知られていなかった70年代にいち早くその概念を取り入れ、積極的に終末期の患者さんのケアを行ってきた。医院としてその方針は引き継がれ、央さんが院長となった今、在宅で最期を迎える患者さんの気持ちやこれまで歩んできた〝物語〟を大切にしたケアが施されている。
終末期患者さんへの積極的なケアをいち早く開始
我が国のターミナルケアの草分け的存在である鈴木内科医院。緩和ケアに取り組むきっかけは、家族を襲ったがんだった。現在院長を務める鈴木央さんはこう説明する。
「叔父が44歳のときに肺がんになり、最期は呼吸困難で苦しんで亡くなりました。その姿を見て、父(初代院長・荘一氏)は果たして正しいケアだったのかと疑問を持ち、英国でターミナルケアを行う聖クリストファー・ホスピス院長のシシリー・ソンダース女史に見学をお願いしたそうです」
77年に渡英した荘一さんがそこで見た光景は、終末期を迎えた患者さんに対する精神的、肉体的苦痛を緩和する積極的なケアだった。その姿に感銘を受け、荘一さんは帰国後すぐさま、そこで学んだ終末期患者さんへの緩和ケアを開始したという。
こうした姿を目の当たりにしてきた院長の央さんは、「最終的に現在のような在宅緩和ケアに取り組むようになったのは、自然で当たり前の流れだった」と振り返る。
大学では消化器内科を専攻し、胃がんや大腸がんなど沢山のがん患者さんを診てきた。99年に、鈴木内科医院を継承する前には総合病院で在宅医療部の立ち上げに関わり、がんの看取り、在宅医療も行っていたという。
現在同院では、外来診療と並行して在宅患者さんを診ているが、患者数は40人前後。そのうちがん末期の方は4~5人。半分は病院からの紹介だが、もともとがん疼痛ケアのために通っていた方が通院できなくなり、在宅に移るケースもあるという。
訪問診療するエリアは、自転車で片道10~15分で行ける半径2km前後。13時~15時といった午前と午後の外来診療の隙間を縫って、在宅患者さん宅を訪問している。
急性期病院を巻き込んだバックアップ体制
鈴木内科医院での看取り率は、「がん患者さんに限って言うと8割ほど」。残りの2割は、病院や場合によっては老人ホームに移る患者さんもいる。
気になる病院との連携だが、鈴木内科医院では地域の緩和ケア病棟3件と常に連絡を取り合い、対応している。ただ、緩和ケア病棟に入院したいと思っても、ベッドの空きがないなどで初診までに1~2カ月かかり、がん末期の患者さんでは亡くなるケースもあり得る。
そこで、そういった状況を回避するため、鈴木内科医院では同じ区内にある大森赤十字病院の緩和ケアチームとも連携し、すぐに緩和ケア病棟に入院できない場合、一時的に大森赤十字病院に入院してもらうなどの対応をとっているという。
こうした地域の急性期病院を巻き込んだ形でバックアップ体制が整えられている点は、患者さんや家族にとって心強い。
在宅緩和ケアには その人の物語を汲むことが大切
在宅で患者さんを診るにあたって、鈴木さんは大事にしていることがある。それは、「それぞれの患者さんにはそれぞれの物語がある」ということだ。
「もちろん、この薬を使うと何割の人が良くなるといった医学的な証拠も大事ですが、在宅緩和ケアには、その人の〝物語〟が非常に大事です。今までどんな療養をどんな思いでしてきたのか、今までの人生をどのように送られてきたのか。そういった物語をご本人、ご家族のみんなで共有できれば、ケアの目的も同じ方向を向いていきます」
そうした物語を紡いでいく中で、非常に大事になるのがコミュニケーションだ。
「患者さんの話をよく聞き、訴えや表出されない気持ちを言い当てたりする作業はすごく大事で、そこに1番心を砕いています」
在宅医療と入院医療は、同じ医療でも方向性が異なると鈴木さん。病院での入院医療は基本的に治すための医療であり、エビデンス(科学的根拠)中心の医療となる。一方、生活の場が主体である在宅医療は、残念ながら治るケースは少なく、だからこそ患者さんやご家族の気持ちや物語に寄り添い、それを汲んだ医療を施すことが大事ではないかと考える。
治らない疾患だとしても、生活に支障のないようなケアをし、毎日の暮らしに意味を見出す。そして、最終的には患者さんや家族の満足度、納得度を上げるお手伝いをしていきたい――。鈴木内科医院では、日々そんな思いで患者さんと向き合っている。