わたしの町の在宅クリニック 20 すみれホームケアクリニック

化学療法や緩和ケアにも精通した在宅クリニック

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年12月
更新:2020年1月

  

「自己決定をサポートするうえで患者さんが話すことだけでなく、その奥にある気持ちを引き出すことが大切だと考えています」と
語る市場 保さん
すみれホームケアクリニック
 
〒177-0031 東京都練馬区三原台3-26-14 ポレール石神井403
TEL:03-6904-5828 FAX:03-6904-5829
URL:www.sumire-clinic.jp
 


腫瘍内科医として大学病院でがん患者を診ていた市場保さんが、在宅医療中心のクリニック「すみれホームケアクリニック」(東京都練馬区)を開設したのは2014年11月。現在患者数は約30人で、そのうちがん患者は5~10人程。ここでは、患者の希望があればホルモン療法や骨転移治療を行いながら在宅で過ごすサポートを行っている。

家に帰りたいと訴える患者の声

もともと血液内科医として大学病院でがん患者を診ていた市場さんだが、苦痛を抱えながら亡くなる人も多く、今から10年程前、緩和ケアを勉強する必要性を強く感じたという。

「当時は症状コントロールが上手くいかないまま亡くなる方も多く、末期の患者さんの医療は本当にこれでいいのか、そう思い、緩和ケアを学ぼうと考えました」

市場さんは、05年に国立がんセンター中央病院(緩和ケアチーム、当時)、06年にがん研有明病院緩和ケア病棟に研修に行き、がん治療において〝治す〟という目標以外に、〝満足して最期を迎える〟というゴールがあることを認識する。その後大学病院に戻ってからは、緩和ケアチームとして患者と向き合うと同時に、血液がんだけでなく腫瘍内科医として乳がんや消化器がんの化学療法を外来で行っていた。しかしそこでも「患者さんの要望に応えられていないのでは」という思いにかられたという。

「病院で診ていると家に帰りたいと言う人が多かったのですが、それに応えてあげられないことが多々ありました」

もともと市場さんの父は医師で、千葉県松戸市で市場医院を開設しており、父親の姿を見て、「ある程度、在宅でも患者さんを診ることができる」と思ってはいた。

しかし、本格的な在宅医療の経験はない。市場さんは、父親に代わり弟が継承していた市場医院で、11年より在宅医療を開始。その後、自らが院長として14年に、在宅医療中心の「すみれホームケアクリニック」を開設した。

希望があれば ホルモン療法や骨転移治療も

クリニックでは、患者の意向があれば、前立腺がんや乳がんのホルモン療法、ゾメタ、ランマークといった骨転移治療を在宅で行うことも可能だ。これまでも、40代で乳がんが肝転移した患者に対して、ホルモン薬のノルバデックスやリュープリンを投与しながら、自宅で最期を迎えるサポートをしたこともある。

他にも、月1回、病院での抗がん薬治療を受けながら、在宅での時間を過ごす患者もいる。悪性リンパ腫を患う80代の患者に対して、市場さんは抗がん薬投与後の支持療法(サポーティブケア)として、訪問看護師と連携して点滴治療を行っている。

「その方は80歳を超えていますがお元気で、本人も家族も化学療法を希望していました。ただ腎臓が悪いため、抗がん薬投与後に点滴を行う必要があり、通常は1週間程入院して行うことが多いのですが、本人も長く入院したくないということでした。そこで、病院の先生と連携して、抗がん薬投与後のケアをうちで行っています」

ゾメタ=一般名ゾレドロン酸 ランマーク=一般名デノスマブ ノルバデックス=一般名タモキシフェンクエン酸塩 リュープリン=一般名リュープロレリン酢酸塩

全体像を把握したうえで 治療選択肢を示す

医師は市場さん1人。練馬区を中心に、中野区、西東京市など隣接する区や市を中心に訪問診療を行っている

市場さんが医師として重視していること、それは患者の意志決定をいかにサポートするかということだ。

「がん治療には基本的には2つのゴールがあります。1つは生存期間の延長、もう1つはQOL(生活の質)の最大化です。患者さんの意向を確認して、医者は生存期間やQOLを最大化するような選択肢を提示する。そのうえで、選択した治療方針に、患者さん自身納得できることが、満足度を最大化することに繋がると思います」

ただそのためには、疾患に対する幅広い知識が必要になってくる。最初の診断から、手術、抗がん薬、緩和ケアなど「現在、病状がどの段階にあるのかを常に念頭に置きながら、患者さんには治療選択肢を提示します。病状の経過と共にいくつかの選択肢が出てくるし、患者さん自身の心も揺れ動くものなので、治療の全体像を示しながら、本人の意向を伺いつつ方針を決めていきます」(市場さん)。

またこうした病状以外にも、治療の場として病院への入院なのか、通院なのか、在宅なのかといった場所の選択も患者にとっては重要になってくる。

「従って選択肢を患者さんに示すうえで、医学的な知識以外に介護保険や地域包括ケアシステムなどの知識も必要だと思います」

市場さん自身、ケアマネジャーの資格を持ち、介護保険など周辺知識を理解したうえで患者には治療選択肢を提示している。

今後は、「在宅医療のベストプラクティスを模索したい」と市場さん。在宅医療を行うにあたって、病院との連携、緩和ケア病棟との連携、介護との連携をどのようにしていけばいいのか、自分なりに追及して、それを社会に発信していきたいと話す。

どの地域でも患者が安心して在宅医療を受けられる体制作りを目指して――。すみれホームケアクリニックの取組みは続く。

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