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イブランスが新たな選択肢として登場

ホルモン陽性・HER2陰性進行再発乳がんに新薬が今年中に承認予定!

監修●内藤陽一 国立がん研究センター東病院先端医療科/乳腺・腫瘍内科医員
取材・文●柄川昭彦
発行:2017年9月
更新:2019年8月

  

「新薬も登場し、治療の選択肢が増えてきます。患者さんは副作用などもよく理解して選んでください」と話す内藤陽一さん

日本人の乳がん患者の中で、ホルモン陽性乳がんは3分の2を占めると言われている。ホルモン陽性・HER2陰性進行再発乳がんの治療では、これまでホルモン療法が中心だったが、最近は分子標的薬が加わるようになってきた。さらに、近い将来新薬が加わる見込みもある。乳がん専門医に、今後の治療戦略について伺った。

ホルモン陽性・HER2陰性乳がんの治療の原則

進行再発乳がんに対しては薬物療法が行われるが、まずその乳がんがどのようなタイプなのかを明らかにする必要がある。そのために行われるのが、ホルモン受容体とHER2の検査である。その結果、「ホルモン陽性・HER2陰性」であれば、ホルモン療法(内分泌療法)の対象となる。

ただ、ホルモン陽性の乳がんであっても、抗がん薬による化学療法が行われることもあるという。国立がん研究センター東病院先端医療科/乳腺・腫瘍内科の内藤陽一さんは次のように説明する。

「ホルモン陽性乳がんにはホルモン療法が効きますが、抗がん薬にも効果が期待できます。どちらがいいのかに関しては、古いデータしかありませんが、どちらもほぼ同等です。ただ、副作用が比較的軽くQOL(生活の質)を低下させにくいのはホルモン療法なので、まずホルモン療法が行われるのが一般的です。ホルモン療法は効果が現れるまでに時間がかかりますが、抗がん薬は効果が早く現れ、がんを縮小する力も強いという特徴があります。そのため、生命に関わるような病状の場合には、ホルモン療法よりも化学療法が優先されます」

ホルモン陽性の場合の治療選択は、図1のようにまとめられるという。この図は、考案者の名前から「ホルトバジーのアルゴリズム」と呼ばれている。

「日本人の乳がんの3分の2以上が、ホルモン陽性乳がんです。そして、患者さんが閉経後の場合、ホルモン療法にアロマターゼ阻害薬が使用されています」

女性ホルモンのエストロゲンは、閉経前は主に卵巣から分泌されているが、閉経後には分泌されなくなっている。ところが、副腎などから分泌される男性ホルモンが、アロマターゼという酵素によってエストロゲンに変化し、これがホルモン陽性乳がんの増殖を促してしまう。アロマターゼ阻害薬は、アロマターゼの作用を抑えることでエストロゲンができるのを防ぎ、体からエストロゲンをなくす働きをする。

ただ、アロマターゼ阻害薬で効果が現れた場合でも、しばらく使っていると耐性ができ、効かなくなってくる。そのような場合には、かつては2次ホルモン療法に進むのが一般的だったが、最近は分子標的薬を併用する治療が選択できるようになっている。

分子標的薬のアフィニトールを併用

「アロマターゼ阻害薬に耐性ができた場合、現在ではアフィニトールという分子標的薬とアロマターゼ阻害薬の併用療法が、標準治療の1つとなっています」

アフィニトールの有用性を証明したのは、BOLERO-2と呼ばれる臨床試験である。対象となったのは、アロマターゼ阻害薬のフェマーラかアリミデックスによる治療を受け、それが効かなくなった患者さん。この患者さんたちを、もう1種類のアロマターゼ阻害薬であるアロマシン単独群と、アフィニトール+アロマシン併用群に割り付けて比較が行われた。その結果、無増悪生存期間(PFS:がんが悪化するまでの期間)の中央値は、アロマシン単独群で4.1カ月、アフィニトール+アロマシン併用群で10.6カ月だった。

「アフィニトールを併用することで、がんが悪化し始めるまでの期間を2倍以上に延ばすことができたわけです。この結果により、アフィニトールとアロマシンの併用療法は、2次治療の標準治療となっています」

この臨床試験ではアフィニトールとアロマシンを併用しているが、これはあくまで原則で、他のホルモン薬との組み合わせも可能だという。実際、アフィニトールを他のホルモン療法と併用して効果が出たという報告もある。保険診療上も、他のホルモン薬との併用が許容されているという。

乳がんの治療薬としてアフィニトールが使えるようになったのは2014年だが、当初はあまり使われていなかったという。

「効果は高いのですが、副作用で苦労する患者さんが多かったため、使うのをためらう医師が多かったのです。問題になったのは口内炎と間質性肺疾患で、とくに口内炎はかなり重い状態になるため、この治療は敬遠されがちでした」

副作用の口内炎は、ステロイドうがい薬を使用することで克服できることがわかってきた。海外で行われた研究だが、ステロイドうがい薬でうがいをすることで、痛みを伴うグレード2以上の口内炎の発生が、わずか2%に抑えられることが明らかになったのである。グレード1の口内炎は19%の人に起きるが、これは痛みなどの症状がない軽度の口内炎だという。うがいを行わなかった場合には、痛みのあるグレード2の口内炎が20%に、それより重篤なグレード3の口内炎が7%にできている。

「間質性肺疾患は、最新のデータでは15.1%の人に起こることがわかっています。症状がなく検査で見つかるグレード1なら、アフィニトールによる治療を継続してもいいことになっています。咳、息切れ、発熱などの症状が出ていたらグレード2以上で、この場合は休薬したり、ステロイドによる治療が必要になったりします。したがって、大切なのは症状を早く見つけて対処することです」

そのためにも、間質性肺疾患でどのような症状が出るのか、患者さんによく知っておいてもらう必要があるという。

アフィニトール=一般名エベロリムス フェマーラ=一般名レトロゾール アリミデックス=一般名アナストロゾール アロマシン=一般名エキセメスタン

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