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ホルモン療法中は骨折リスクに注意! アロマターゼ阻害薬服用時の骨粗鬆症治療

監修●宗圓 聰 そうえん整形外科 骨粗鬆症・リウマチクリニック院長
取材・文●菊池亜希子
発行:2024年4月
更新:2024年4月

  

「アロマターゼ阻害薬による骨粗鬆症にエビデンスがある薬剤は、抗RANKL抗体プラリアです」と話す宗圓聰さん

ホルモン療法は、女性ホルモンや男性ホルモンを抑制することで、がん細胞の成長を食い止める治療法。ところが、ホルモン抑制は骨密度を低下させて骨粗鬆症を引き起こし、骨折リスクを上げてしまいます。寝たきりを招きかねない背骨や大腿骨骨折を回避するためにも、ホルモン療法開始時から骨に注意を向け、早めの治療介入を心がけましょう。ホルモン療法時の骨粗鬆症治療について、そうえん整形外科 骨粗鬆症・リウマチクリニックの宗圓聰さんに話を聞きました。

なぜ閉経とともに骨粗鬆症リスクは高くなるのですか?

骨は常に代謝を繰り返しています。私たちの体の中では、日々、破骨(はこつ)細胞が骨を壊し(骨吸収)、壊された場所に骨芽(こつが)細胞が新たな骨を作ることで(骨形成)、健康な骨が保たれているのです。これを「骨のリモデリング」といい、年間、体全体の2~3割の骨が新しく生まれ変わっています(図1)。

骨吸収と骨形成のバランスがとれていることで骨の健康は保たれます。しかし、このバランスが崩れて骨吸収が骨形成を上回り、骨量が減少して骨密度が低下、もしくは骨質が低下すると、「骨粗鬆症」を引き起こします。その大きな原因が、加齢とともに起こる女性ホルモン(エストロゲン)、もしくは男性ホルモン(アンドロゲン)の減少。とくにエストロゲンは骨吸収に大きく関与します。

女性は皆、50代前後で閉経を迎えます。その数年前からエストロゲン分泌が低下し、閉経とともに急降下。そのタイミングで骨量の減少が起こります。

「骨吸収に歯止めをかけていた女性ホルモンが急減し、骨吸収が骨形成を上回ってしまうのです」と、そうえん整形外科 骨粗鬆症・リウマチクリニック院長の宗圓聰さんは説明します(図2)。

実際、骨粗鬆症患者は全国で2,000万人に届くとされますが、多くの人は治療を受けていません。骨粗鬆症には痛みなどの自覚症状がないため、骨折して初めて気付くケースがほとんど。しかし、椎体(背骨)や大腿骨近位部の骨折は、寝たきりを招きかねない重大な疾患になるのです。

男性ホルモンの減少も同様に骨密度低下を促しますが、女性ホルモンほど明白ではなく、さらに男性には閉経のような男性ホルモンが急降下する節目もないため、女性ほど加齢による骨粗鬆症リスクが顕著ではありません。

アロマターゼ阻害薬によって骨折リスクが急増する理由は?

骨粗鬆症の主な原因は加齢による女性ホルモン(男性ホルモン)の低下ですが、がん治療がそのリスクをさらに上昇させることがあります。ここではCTIBL(Cancer Treatment-induced Bone Loss:がん治療関連骨減少症)についてみていきます。

乳がんや前立腺がんの治療には、女性ホルモン、男性ホルモンを抑制するホルモン療法があります。乳がんでは「女性ホルモン受容体陽性」タイプに対して、前立腺がんでは進行がんに対して必要に応じて行われます。

乳がんでは、全乳がんのおよそ7割が、女性ホルモンを餌にしてがん細胞が成長するホルモン陽性タイプ。このタイプの浸潤がんには全例にホルモン療法を行います。閉経前なら抗エストロゲン薬かLH-RHアゴニスト製剤、閉経後には主にアロマターゼ阻害薬が処方され、5~10年間、ホルモン抑制によるがん治療を続けますが、中でもアロマターゼ阻害薬には「代表的な副作用として骨密度の低下が挙げられる」と乳癌診療ガイドライン2022年度版に明確な記載があります。

「そもそも閉経時期を迎えた女性は、誰しも女性ホルモン低下によって骨粗鬆症を引き起こしやすくなりますが、そこにアロマターゼ阻害薬によるホルモン抑制が加わって、そのリスクは倍増します。閉経によっておよそ2倍、アロマターゼ阻害薬でさらに約2倍、合わせて通常の4倍以上の骨折リスクを抱えることになるのです」と宗圓さんは指摘します。

抗エストロゲン薬:ノルバデックス(一般名タモキシフェン)、フェアストン(同トレミフェン)、フェソロデックス(同フルベストラント)

LH-RHアゴニスト製剤:ゾラデックス(一般名ゴセレリン)、リューブリン(同リューブロレリン)

アロマターゼ阻害薬:アリミデックス(一般名アナストロゾール)、フェマーラ(同レトロゾール)、アロマシン(同エキセメスタン)

ホルモン療法開始時から骨密度に注意を

骨粗鬆症による骨折がもっとも起きやすいのは背骨(椎体)、次いで大腿骨です。

「大腿骨骨折はほぼ全例で手術しますが、手術とリハビリを終えても骨折前の生活水準に戻れないことが多く、寝たきりに直結することも珍しくありません。椎体骨折、大腿骨骨折が死亡率を上昇させることもわかっています。がん治療を頑張って終えて、この先、何年も元気に生きられるようになったのに、骨折で命を落としては元も子もありません」

乳がんも前立腺がんも、治療を終えた後に人生が続きます。だからこそ、がん治療でホルモン療法を受けることになった時点から骨密度を定期的に測り、必要となったら早めに骨粗鬆症治療を開始しましょう。

「骨粗鬆症の治療介入時期は、原発性の場合、若年骨量(ピークボーン)の7割を切った時点ですが、アロマターゼ阻害薬服用中は原発性の骨粗鬆症よりも、治療介入基準を高く設定しています」と宗圓さんは話します(図3)。

アロマターゼ阻害薬服用中の第1選択薬は?

骨粗鬆症治療薬は現時点でかなりありますが、ホルモン療法による骨粗鬆症となると、薬剤選択の際に注意すべきことが出てきます。とくに骨密度低下を促すアロマターゼ阻害薬について見ていきましょう。

「現在、骨粗鬆症治療薬は原発性の骨粗鬆症を想定しており、それらすべてがアロマターゼ阻害薬による骨粗鬆症にも使えます。ただ、アロマターゼ阻害薬による骨粗鬆症に対してのエビデンスは、ほとんどないのが現状です」と宗圓さん。

原発性骨粗鬆症にポピュラーな薬剤の1つがビスホスホネート薬。骨吸収抑制薬の代表選手で、アレンドロン酸やリセドロン酸などが2000年初頭に登場し、骨粗鬆症治療を飛躍的に改善しました。その後も進化を続け、現在、1年に一度の点滴を行うリクラスト(ゾレドロン酸)が、原発性骨粗鬆症に多く処方されています(表4)。

「リクラストは骨転移に処方するゾメタ(ゾレドロン酸)と同じ薬剤です。骨転移に処方されるゾレドロン酸(4㎎を3~4週間間隔)がゾメタ。リクラストはあくまでも骨粗鬆症に対するゾレドロン酸で、5㎎を年1回と定められています。薬剤は同じですが、用量・用法の違いから名称が異なるのです。骨粗鬆症に使えるのはあくまでもリクラスト。そしてリクラストの用量・用法では、現状、アロマターゼ阻害薬による骨粗鬆症に対してエビデンスがないのです」と宗圓さんは指摘します。

アロマターゼ阻害薬による骨粗鬆症にエビデンスがある薬剤は、唯一、抗RANKL抗体プラリア(一般名デノスマブ)とのこと。

「デノスマブの原発性骨粗鬆症に適応する用法用量は半年に1回、60㎎の皮下注射で、これをプラリアと呼びます。アロマターゼ阻害薬による骨粗鬆症に対してプラリアを用いた臨床試験がすでに行われており、エビデンスがあります。ですから、アロマターゼ阻害薬服用中の骨粗鬆症にはプラリアが第1選択薬になります」

なお、がんの骨転移に使用されるランマーク(一般名デノスマブ)はプラリアと同じデノスマブですが120㎎を4週間に1回皮下注射。用量の違いから名称が異なり、ランマークは骨粗鬆症に適応がありません。

そして、「第2選択薬は、やはりリクラストでしょう」と宗圓さんは添えました。

「ゾレドロン酸は、骨転移に処方される用量(ゾメタ)ならばアロマターゼ阻害薬による骨粗鬆症への効果が明らかになっています」と宗圓さん。ただ、骨粗鬆症に使えるリクラストではエビデンスがないのです。とはいえ、まったく臨床試験のない他の薬剤より効果が期待できるため、第2選択薬になります。

「ゾレドロン酸の有害事象として腎機能への影響があることも忘れてはなりません。一方で、プラリアは抗体薬なので腎機能には影響しないと考えられ、それも強みです」

ちなみに、米国FDA(食品医薬品局)では、がん治療中の骨量減少に対しても臨床試験が行われ、アロマターゼ阻害薬とアンドロゲン除去療法に伴う骨粗鬆症に適応があるのは、やはりプラリアだけとのこと。日本では、現状、骨粗鬆症薬であればどれでも使えることが、かえって薬剤選択を複雑にしているのかもしれません。

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