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白血病に対する新しい薬物・免疫細胞療法 がん治療の画期的な治療法として注目を集めるCAR-T細胞療法

監修●今井千速 新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野准教授
取材・文●伊波達也
(2018年5月)

「今後、CAR-T細胞療法が、さらに様々な研究により進化し、日本国内で実践される日ができるだけ早く来ることを期待しています」と語る今井千速さん

新型のがん免疫治療薬キムリアが2017年8月米国で承認された。この免疫治療薬はCAR-Tと呼ばれ、ヒトの免疫細胞であるT細胞に遺伝子操作をして、がん細胞を見つけやすく加工したものだ。CAR-Tはすばやくがん細胞を見つけて死滅させる。そのCAR-T細胞の発明者の1人、新潟大学医歯学総合病院小児科准教授の今井千速さんに最先端治療について伺った。

オーダーメードの細胞療法

近年、固形がんの領域では、オプジーボをはじめとする免疫チェックポイント阻害薬(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)による治療が脚光を浴びている。

がん種に関わらず、進行再発がんに対する延命効果が大いに期待でき、メラノーマ(悪性黒色腫)を皮切りに、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、胃がんなど現在次々に保険適用となるがん種が増えている画期的な免疫療法だ。がんの薬物療法における治療戦略を大きく変えると言われている。

一方、薬物療法が主流の血液がんの領域でも、近年、薬物療法は目覚ましい進歩を遂げており、慢性骨髄性白血病(CML)をはじめ、かなりの率で寛解(かんかい)が望めるようになってきた。

そんな血液がんの中で、小児の急性リンパ性白血病(ALL)に対する免疫療法、CAR-T(カーティー:キメラ抗原受容体T細胞)細胞療法という治療法が大いに期待されている。これは抗がん薬や分子標的薬のような化学物質による治療法ではなく、患者の自己細胞を使って行うオーダーメードの細胞療法だ。

体内でウイルスに感染した細胞などを攻撃する役割を果たしているリンパ球の1種のT細胞を患者から取り出して、がん細胞をより強力に攻撃するように遺伝子操作して、再び体内に戻すというのがCAR-T細胞療法なのだ(図1)。

■図1 CAR-T細胞療法の機序

2017年8月FDA(米国食品医薬品局)により、キムリアが保険適用承認された。適応対象は、小児、25歳以下の不応性(初期治療抵抗性)、または2回以上再発している急性リンパ性白血病についてだ。  わが国では、京都大学と国立がん研究センターの2施設が、この治療に対する国際的な治験(ELIANA試験)に参加しており、その結果では、化学療法や骨髄移植で再発した患者に対して投与し、81%で有効性を示した。今後、日本でも保険適用承認されることが期待されている。

急性リンパ性白血病とは、悪性化した未成熟なリンパ球である白血球細胞が著しく増加する病だ。

進行度に対する病期の区別はなく、初発、寛解、再発、不応性に分かれ、それぞれに応じた治療法を選択する。成人の場合、若年成人の治療成績に向上は見られるものの成人全体の生存率は5割に満たない。一方、小児の場合は比較的治りやすい。

「小児における急性リンパ性白血病は概ね治癒率が上がってきました。初回治療で順調に治るケースが8割、全生存率は9割程度です。2割は再発しますが、その半分は臍帯血(さいたいけつ)移植や骨髄移植によって助けることができます。しかし、もう半分は治療が難しいのが現状です。その半分に対して有効なのがCAR-T細胞療法です」

そう説明するのは、新潟大学医歯学総合病院小児科准教授の今井千速さんだ。

オプジーボ=一般名ニボルマブ キムリア=一般名チサゲンレクロイセル 初期治療抵抗性=初期治療により寛解が得られないこと

米国留学中に、CAR-T細胞を発明

今井さんは、このCAR-T細胞療法の基礎研究を留学先の米国セントジュード小児研究病院(テネシー州メンフィス)で最初に手掛け、発明した1人だ。今井さんはCAR-T細胞療法の研究についてこう説明する。

「急性リンパ球白血病は、免疫側から見ると、捕まえにくい、ターゲットとなりづらいのです。それを比較的簡単な手法でリンパ球に白血病細胞を認識させるような手法としてCARが使えるだろうと、2001年の終わりころから研究を開始しました」

そして、今井さんは小児の白血病を対象にしたCAR遺伝子、そしてT細胞を増殖させるための遺伝子4-1BB(フォーワンビービー)を使い、CAR-T細胞を作製したという(図2)。

■図2 CAR(キメラ抗原受容体)の構造

「CARとは、モノクローナル抗体という自分の体を外敵から守る抗体とCD19という細胞の外側にある目印が選択的に結合することができる仕組みを利用したものです」

CD19とは、すべてのB細胞に広く発現する抗原で、急性リンパ性白血病においては、およそ85%がB細胞型で、B細胞型急性リンパ性白血病の場合はほぼ全てのがん細胞にCD19が発現している。

造血細胞以外の正常組織には発現せず、Bリンパ球に限られているため、CD19を標的にする治療を行えば、がんだけを選択的に叩くことができ、かなり有効な治療法なのだ。ただし正常B細胞がなくなるため、無ガンマグロブリン血症になるが、補充療法を行えば克服できるのだという。

CAR-T細胞療法の治療の流れは、まず患者自身の血液を採取する。その血液を、細胞加工施設で血液からT細胞だけを分離して、それを増強させる加工をするのだ。その加工に使われる導入遺伝子がCARだ。

そして加工された細胞を患者の体内に戻し、数日経つと、T細胞は1,000倍ほどにも増え、標的となるがん細胞を攻撃する。さらにT細胞は、がんを攻撃すると同時に自らも活性化して体内に存在し続けるため、遺残したがんに対しても引き続き攻撃できるというのが大きなメリットなのだ。

現時点では、効き目のある人であれば、1回の治療でその効果がすぐ現れる。そして効果は持続し、半年から1年はCAR-T細胞が体内に存在し続ける。

「がんがまた再発してしまうかもしれないことを考えると、増幅した後に体内に残ることが大切なのです」

骨髄移植を数度行っても再発したような患者で、7〜8年寛解を維持している人もいるという(図3)。

■図3 CAR-T細胞療法の流れ

CAR=キメラ抗原受容体

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