2年後には食道がん、肺がんの保険適用を目指して 粒子線治療5つのがんが保険で治療可能!
石川 仁さん
2022年4月、5つのがんに対する粒子線(陽子線、重粒子線)治療が、保険で治療が受けられるようになりました。2年ごとに行われる診療報酬改定で、前回2020年には新たに保険適用となった疾患が1つもなかったことを考えると大きな前進で、患者さんにとって朗報です。
粒子線治療は普通の放射線治療より効果が高く副作用も少ないのですが、これまでは先進医療で行われることが多く、治療費は自己負担で高額です。そこで多くのがんに保険適用が待ち望まれていました。今回の適応拡大を受けて、最新の粒子線治療について量子科学技術研究開発機構QST病院副病院長の石川仁さんに解説していただきました。
粒子線とこれまでの放射線の治療はどう違うのですか?
現在、最も広く行われている放射線治療は、線源にX線を使用した治療です。X線は電磁波と呼ばれる光子線です。その特徴は、体内に入ると皮膚の直下で最も大きなエネルギー(線量)を放出し、体内の奥に進んでいくほど弱まって、体を突き抜けて体外に出ていきます。
一方、粒子線治療に使われるのは粒子線で、粒子線には陽子線と重粒子線(炭素イオン線)があります。重粒子線の粒子は陽子線より重いため、照射された際の効果はX線や陽子線の約3倍になります。
粒子線の特徴は、体内のどこでも止めることができ、粒子が止まった地点で最大の線量を放出できることです。これはブラッグピークと呼ばれます。そのピークにがん病巣を合わせることで最大の治療効果を発揮できるのです。また、近くの臓器に当たる線量や範囲が圧倒的に少なく、副作用が少ないのはこのためです(図1)。
具体的にはどのように治療するのですか?
がん病巣に向けて、体外から粒子線を照射します。照射時間は1回5~20分ほどです。準備として、治療中に体が動いて照射位置がずれないよう、患者さんの体型に合わせた固定器具を作ります。患者さんにこれを装着してもらい、CT画像を撮影します。その画像をもとに医師や専門スタッフが、粒子線を照射する角度や深さ、線量や回数などをコンピュータで算出し、綿密な治療計画を立てます(画像2)。
治療期間は、がん種などによりさまざまですが、病態に応じて治療法は決められています。例えば、前立腺がんの場合は、重粒子線治療では12回ですが、陽子線では21~28回、X線(IMRT)28~40回です。現在、重粒子線治療施設は、1994年のQST(旧放医研)に始まり、去年の山形大学東日本重粒子線センターを含めて7施設、陽子線施設は19あります(図3)。
新しく保険で受けられるがんについて教えてください
今回、以下の5つのがんに粒子線治療(●陽子線・■重粒子線)が適応拡大されました。
●■4cm以上の切除不能な肝細胞がん
小さい肝細胞がんなら、手術でもX線でも治療できます。ところが、大きいと肝臓全体や周辺の消化管にも放射線の影響が出てしまうため、強く放射線を照射できません。
ところが粒子線は、大きながんでも小さながんでもビームは止まり、止まったところで最大の効果を発揮します。本来なら、大きくても小さくても安全にしかも効果的に粒子線治療は行えるので、大きさに関係なく適用になればよかったのですが、X線では治療が難しくなる長径4㎝以上に限られました。なお、4cm未満は先進医療であれば治療を行うことはできます(図4)。
●■切除不能な肝内胆管がん
以前から『肝内胆管癌診療ガイドライン2021』(日本肝癌研究会)にも切除不能の肝内胆管がんに対して、粒子線治療は「考慮してよい治療(弱い推奨)」と記載されていましたが、肝がんに対しての粒子線治療と同様に肝臓や胆管への影響が少なく、有効性が評価されました。
●■局所進行性膵がん
膵がんはもともと難治性で、手術でも放射線でも治りにくいのです。本当は高い線量を照射したいところですが、周囲に放射線に非常に弱い十二指腸があるため、50Gy(グレイ)くらいしか照射できません。ところが、大腸がんの再発と同様に、粒子線はより強い線量を照射することができるため、良い成績が得られるようになりました(図5)。
●■局所再発した大腸がん(骨盤内再発)
大腸がんも放射線の効きにくいがんなので、高線量を照射する必要があります。大腸がんの再発は、リンパ節再発を想定していますが、その場合、がんが腸に近い位置にあることが多く、骨盤内では高い線量を照射できません。そこで、がんにだけより高い線量をピンポイントで集中できる(線量集中性が高い)粒子線が向いているのです。大腸がんの再発に対する重粒子線の治療は、以前から成績が良く、私たちもずっとアピールしてきました。
以下は、重粒子線治療のみ保険適用です。
■局所進行性子宮頸部腺がん
子宮頸がんには、扁平上皮がんと腺がんがありますが、その多くを占める扁平上皮がんは放射線と小線源を組合せた治療が確立していて、手術に勝るとも劣らない治療成績を上げています。
一方、子宮頸部腺がんは、放射線が効きにくい。基本的にどのがんでも腺がんは放射線が効きにくい傾向にあります。大腸がんも膵がんも腺がんで、肝細胞がんも腺がんに近い仲間といえます。このような放射線に抵抗性のあるがんの制御には、高い線量を照射することが必要です。粒子線は、通常の放射線よりも高い線量を投与することができ、その結果、治療成績の改善が期待されています。
なお、ここで比較されているのは従来の放射線と粒子線の比較であり、患者さんとしては手術との比較を知りたいだろうと思いますが、手術との比較ではありません。
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