肝がんだけでなく肺・腎臓・骨のがんも保険治療できる 体への負担が少なく抗腫瘍効果が高いラジオ波焼灼術
電磁波の一種であるラジオ波でがんを焼くラジオ波焼灼術は、2004年、肝がんの治療に対して保険適用されただけでした。しかし、昨年(2022年)9月から適応が拡大され、肺腫瘍、腎腫瘍、骨腫瘍なども保険で受けられるようになっています。
これらの治療を以前から行っている兵庫医科大学放射線科主任教授の山門亨一郎さんに、ラジオ波焼灼術などのIVRについて、さらには新たに適応となった肺腫瘍、腎腫瘍、骨腫瘍などに対するラジオ波焼灼術の効果や優れた点について、解説していただきました。
「IVR」という治療とはどういうものですか?
IVRとは、Interventional Radiology(インターベンショナル・ラジオロジー)の略称です。今回紹介するラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation:RFA)も、IVRの一種です。まず、IVRについて簡単に解説しておきましょう。
レントゲン、CT、超音波などの画像診断装置で体の中を透かして見ながら、体内に針やカテーテルなどの医療器具を挿入し、標的となる病気を治療するのがIVRです。血管を詰める、拡げる、組織を焼く、薬などを入れる、針を刺して組織を採るなど、行われる治療は多岐にわたっています。
「がんや生活習慣病の治療、あるいは大きな怪我の治療など、さまざまな場面で行われている」と兵庫医科大学放射線科主任教授の山門亨一郎さんは言います。
「カテーテルを入れて血管を詰める治療は、肝がんや子宮筋腫などに対して行われています。腫瘍に血液を送っている血管を塞栓物質で詰めることで、腫瘍細胞を死滅させる治療です。その他、交通事故や産後の出血などに対しては、止血のためにIVRで血管を詰めることが行われます。さらに、カテーテルを使って血管を拡げたり、血管にステントを留置したりする治療も、IVRの一種です。IVRという治療法は、一般にはあまり知られていませんが、広く行われている治療法なのです」
ラジオ波焼灼術はどのような治療法ですか?
IVRの一種であるラジオ波焼灼術は、画像を見ながら腫瘍に電極針を刺し、そこから電磁波を出して周囲の温度を上げ、腫瘍を焼いてしまう治療法です。電磁波を利用して温度を上げるのは、電子レンジと同じ原理です。
「電子レンジとの違いは周波数です。電子レンジは周波数が非常に高いのに対し、ラジオ波焼灼術で使う電磁波は375~500キロヘルツ程度。これがAMラジオの周波数に近いので、ラジオ波と呼ばれています」
電極針を電磁波の発生装置に繋ぐと、針の先端のコーティングされていない部分から電磁波が発生し、周囲の組織の温度を上昇させます。温度が50℃以上だと細胞は数分で死に、60℃以上だとたちまち死んでしまいます。がん細胞がこの焼灼範囲に収まるようにすれば、正常細胞を傷つけることなくがん細胞を死滅させることができるわけです(図1)。
ラジオ波焼灼療法には、➀侵襲が少なく手術に比べて適応が広い、➁臓器に与える影響が少ない、➂何回でも治療が行える、➃抗腫瘍効果が高い、といった利点があります。
まず挙げられるのは侵襲が少ない点です。そのため局所麻酔で行うことができます。
「米国では外来でも行われている治療です。入院で行った場合でも、肝臓や腎臓の治療なら、治療した翌日には退院して仕事を始められます。肺の治療でも、合併症さえなければ、治療した翌日から普通に仕事ができますし、侵襲が少ない治療なので、手術が行えない高齢者や体力の衰えた人でも、受けることができます」
また、腫瘍だけを局所的に治療できるので、臓器に与える影響が少ないのも、この治療法の特徴です。たとえば肺の腫瘍を手術で切除するとなると、腫瘍の周囲の肺も一緒に切除することになります。しかし、ラジオ波焼灼術なら、周囲への影響を極力小さくして、ほぼ腫瘍だけを焼くことができます。そのため繰り返し治療を行うことが可能です。
「肉腫の肺転移が起きた20代女性ですが、7年間で17個の肺転移を治療した例があります。それだけ治療を繰り返しても、呼吸機能は低下しませんでした。この患者さんはすっかりよくなり、その後、結婚もされています」
ラジオ波焼灼術のもう1つの特徴は、抗腫瘍効果が非常に高いことです。焼いた部分は必ずがん細胞が死滅します。放射線治療ではがん細胞が生き残ることがありますが、ラジオ波焼灼術では焼灼範囲に入っているがん細胞は必ず死滅します。それにより、優れた治療成績が得られています。
ラジオ波焼灼術を保険で行えるがんが増えたそうですが?
ラジオ波焼灼術が保険適用となっていたのは、かつては肝腫瘍(原発性の肝細胞がんと転移性肝がん)だけでした。2022年9月から保険診療で行える範囲が拡大し、肺腫瘍、腎腫瘍、骨軟部腫瘍、骨盤内腫瘍などの悪性腫瘍と、良性腫瘍の類骨骨腫(るいこつこつしゅ)の治療も、保険で行えるようになっています。
「私は以前から肝がんだけでなく、他の臓器のがんに対する治療も行ってきました。患者さんにとって価値ある治療なので、先進医療や自費診療で行ってきたのです。そうした臨床経験を積み重ねてきたことで、腎腫瘍のラジオ波焼灼術については10年生存率のデータが出ていますし、転移性肺がんでも5年生存率が出ています。こうしたエビデンス(科学的根拠)の積み重ねにより、ラジオ波焼灼術の有用性が認められ、適応拡大に繋がったわけです」
適応拡大の対象となった主な治療について、以下に紹介していくことにしましょう。
腎がんはどれくらいの大きさなら対応可能ですか?
腎がんに対するラジオ波焼灼術は、体の外から腎臓の腫瘍に電極針を刺し、腫瘍を焼き切ります。抗腫瘍効果が高いために完全にがん細胞を殺すことができます(画像2、3)。
直径4cm未満の小さい腎がんに限ると、腎がん関連生存率は5年生存率で100%、10年生存率で98%という報告もあります。つまり、治療後10年間を見ても、腎がんで死亡する人はほとんどいません。このように根治性が高いのは、ラジオ波焼灼術でも、手術(腎摘出術・腎部分切除術)でも同じです。
「手術との明確な違いは、腎機能への影響です。ラジオ波焼灼術、腎摘出術、腎部分切除術を受けた人たちの腎機能(GFR=糸球体濾過量)の変化を示すデータがあります。ラジオ波焼灼術を行っても腎機能はまったく落ちていませんが、手術を受けた場合の腎機能は、腎摘出手術で29%、腎部分切除術でも12%低下しています」
このように腎機能が維持されるため、腎機能が低下していて、手術をすると人工透析の心配がある患者さんでも、安心して治療を受けることができます。
「推奨されているのは直径4cm未満の小型の腎がんに対する治療ですが、もう少し大きな腎がんでも治療できないわけではありません」
4cm以上7cm未満の腎がんを対象に、ラジオ波焼灼術と手術の治療成績を比較したデータがあります。それによると、5年全生存率は腎摘出術群が96%なのに対し、ラジオ波焼灼術群は62%でした。ただ、治療を受けた患者さんの背景に差があり、ラジオ波焼灼術群には、高齢者が多く、片方の腎臓しかない人や、手術が適応にならない人が含まれていました。
また、ラジオ波焼灼術群の5年全生存62%でしたが、5年腎がん関連死亡率は93%で、手術群との有意な差は認められませんでした。
「腎がんに対するラジオ波焼灼術は、4cmまでの小型腎がんがよい適応とされていますが、7cmくらいまでなら治療できるというのが、治療経験を積むことで得られた結論です」
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