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大規模追跡調査で10年生存率90%の好成績 前立腺がんの小線源療法の現在

監修●飯沼光司 岐阜大学医学部附属病院泌尿器科講師
取材・文●柄川昭彦
発行:2023年5月
更新:2023年5月

  

「小線源療法を受けた前立腺がん患者さんの長期成績を得るための前向きの世界最大規模の登録研究です。他の治療成績と比較する場合にも、参考になる重要なデータだと思います」と語る飯沼さん

前立腺がんの放射線療法の1種である小線源療法。その長期治療成績が、大規模な登録試験によって明らかになりました。それによりますと、10年全生存率は90.3%で、前立腺がんが原因で亡くなる人はごくわずかでした。

早期の前立腺がんは、手術療法や放射線療法など治療の選択肢がたくさんありますが、この小線源療法の長期成績は、治療を選択する上で重要な情報となりそうです。

早期の前立腺がんには多くの治療法がある

前立腺がんの治療法には多くの選択肢があります。前立腺がんの進行度は、がんが前立腺内に止まっている「限局がん」、がんが前立腺の被膜の外に出て周囲の組織や臓器に浸潤している「局所進行がん」、がんがリンパ節・骨・他の臓器などに転移している「転移がん」に分類することができます。

そして、限局がんはもちろん、局所進行がんに対しても、基本的には根治(こんち)を目指した治療が行われます。その根治を目指した治療法に、現在は複数の選択肢がある状況となっているのです。

根治を目指す場合の治療法について、岐阜大学医学部附属病院泌尿器科講師の飯沼光司さんは次のように話しています。

「主な治療法として、手術療法と放射線療法があります。手術療法には開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援手術(ダヴィンチ)といった方法があり、最近はロボット支援手術が多く行われるようになっています。放射線療法には、体の外から放射線を照射する外照射療法と、放射線を出す物質を体内に入れて内側から照射する組織内照射療法があります。

さらに施設は限られますが、外照射療法の特殊な治療法として、陽子線治療や重粒子線治療もあります。どの治療法を選択するかは、治療効果や副作用などを考慮して、最終的には患者さん自身が決めることになります」

限局がんの場合には、リスク分類を行って治療を考えることになります。前立腺がんの進行度合を示す「がんの病期」、がんの悪性度を示す「グリソンスコアの値」、前立腺がんの腫瘍マーカーである「PSAの値」という3つの要素から、「低リスク」「中間リスク」「高リスク」に分類するのです(表1)。

低リスクと中間リスクなら、手術療法または放射線療法で、中間リスクの場合、ホルモン療法を加えることもあります。高リスクの場合は手術療法と放射線療法を併用することがあり、多くの場合ホルモン療法も加えます。

「患者さんには選択肢となる治療法を説明して、それぞれの良い面、悪い面を十分に理解していただいたうえで、治療選択をしてもらうようにしています。それがとても大切だと考えています」

小線源療法の長期成績が明らかになった

ここでは、治療選択に役立ててもらうため、放射線療法の1つである小線源療法(LDR-BT)について解説していくことにします。

小線源療法は、放射線療法の組織内照射療法に分類される治療法です。この治療に使われるのはシード線源と呼ばれる小さな線源で、長さが4.5㎜、直径が0.8㎜しかありません。周囲はチタン製で、その中に放射線を出す「ヨウ素125」が密封されています。このシード線源を、前立腺の大きさに応じて50~100個挿入することで、前立腺の内側から放射線を照射するのです(図2)。

「基本的には、がんが前立腺内に限局している前立腺がんが治療対象となります。小さな線源を前立腺内に満遍なく留置することで、放射線を前立腺に集中させることができます。それによって、優れた治療効果が期待できますし、周囲の臓器への副作用を抑えることも可能です。周辺臓器の被曝はゼロではありませんが、副作用の面でもメリットの大きな治療と言えるでしょう」

前立腺がんに対する小線源療法は、日本で行われるようになってすでに20年ほどの歴史があります。この治療の長期治療成績について、2022年の日本癌治療学会で飯沼さんが報告しています。

この報告は、小線源療法を受けた患者さんの有効性と安全性を評価するため、2005年7月から2007年12月まで実施された研究「J₋POPS」が基になっています。概略を紹介することにしましょう。

J-POPSは全国の22施設が参加した研究で、前述した期間に6,927人が登録されています。このうち長期間にわたって経過観察できた3,745人を対象として、評価が行われました。今回の中間解析のエンドポイント(評価項目)は全生存期間(OS)でした。

治療を受けた患者さんの年齢は、38歳~89歳(中央値68歳)です。リスク分類は、低リスクが1,576人(42.6%)、中間リスクが1,847人(50.0%)、高リスクが275人(7.4%)でした。それ以外に、分類不明が24人、局所進行が3人いました。

小線源療法に放射線の外部照射療法を併用した人が824人(22.0%)、ホルモン療法(アンドロゲン除去療法)を併用した人が1,552人(41.4%)いました。

これらの患者さんを長期間追跡したわけですが、追跡期間の中央値は11.7年でした。

中間解析を行った結果、明らかになった10年全生存率は90.3%でした。リスク毎の10年全生存率は、低リスクの患者さんで91.4%、中間リスクの患者さんで89.1%、高リスクの患者さんで83.7%でした(図3)。

「小線源療法の長期成績を得るために、患者さんを登録して経過を追うという前向き研究が、これだけの規模で行われたことはありませんでした。小線源療法を受けた前立腺がん患者さんを対象とした、世界最大規模の登録研究なのです。これだけの規模で、これだけの期間追跡している研究は手術、外部照射においてもありません。その意味でも非常に貴重なデータであると言えます。今後、他の治療法の成績と比較する場合にも、参考になる重要なデータだと思います」

長期治療成績は、低リスク・中間リスク・高リスクともに良好な結果となっていました。ただ、低リスクの患者さんが42.6%、中間リスクの患者さんが50.0%を占め、高リスクの患者さんは7.4%しか含まれていないので、「その点は気をつけて解釈する必要があるかもしれない」と飯沼さんは言います。

「全生存率は、前立腺がんによる死亡だけでなく、すべての死亡を含めて算出されますが、長期間経過を観察すると、前立腺がん以外の原因による死亡も増えてきます。それを考慮すると、良好な治療成績と考えてよいでしょう。3,745人中、死亡した患者さんが438人いましたが、その中で前立腺がんが死因だったのは、わずか26人。非常に少なかったのです」

この追跡調査の解析により、小線源療法を受けた前立腺がん患者さんの長期治療成績が良好であることが明らかになりました。ただし、小線源療法の有効性を特定するためには、さらなる長期間の評価が必要と考えられています。

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