乳がんコホート研究:曖昧な情報ではなく研究結果に基づく生活習慣を 乳がん再発予防の生活習慣を研究する「希望の虹プロジェクト」が進行中
再発を気にして、食事をはじめとした生活の制限をしている乳がん患者さんは少なくない。しかし、再発予防の情報にはっきりとしたエビデンスがあるものはほとんどないのが現状だ。患者さんが生活習慣を考えるうえでのポイントとは――。
再発を防ぐ生活習慣はまだわかっていない
乳がんの発症には、どのような生活習慣が関わっているのだろうか。がんと生活習慣について研究している、国立がん研究センターがん予防・検診研究センターの山本精一郎さんと溝田友里さんによれば、世界中で研究が行われ、いくつかのことが明らかになっているという。それをまとめたのが表1である。
「WCRF/AICRがまとめた報告書は、世界中のエビデンスを集めたものです。どのような生活習慣が乳がんの発症リスクを高め、どのような生活が発症リスクを下げるのか、明らかになっていることがまとめられています。また、厚生労働省研究班は、日本人の乳がんについて調べた結果を報告しています。そして、これらを参考に日本乳癌学会は、『乳癌診療ガイドライン』で、乳がんの発症と生活習慣についてまとめています」(溝田さん)
このように、乳がんの発症と生活習慣については、いろいろなことが明らかになってきている。ところが、すでに乳がんになった患者さんが、どのような生活をすればよいかについては、表2に示したように、明らかになっていることはわずかしかない。
「がんの再発と生活習慣について、明らかになっていることはほとんどありませんが、患者さんたちはそれを知りたがっています。研究が進み、実践する価値のある生活習慣が明らかになれば、患者さんの予後の改善やQOL(生活や人生の質)の向上に大いに役立つと考えられます」(溝田さん)
そこで、再発と生活習慣に関する研究が始まっている。
日本でも始まった乳がん患者さん対象の研究
再発と生活習慣の関係を探るために、まずアメリカ、イギリス、中国などで、乳がんの患者さんを対象にしたコホート研究が始まった。
乳がんの患者さんをたくさん集め、将来にわたって長期間観察を続けることで、どのような要因が再発に関係しているかを調べる研究である。
日本でも2007年にコホート研究が始まった。それが、山本さんや溝田さんが取り組んでいる「希望の虹プロジェクト」で、最終的には6,000~7,000人が対象になる。これは乳がんの患者さんを対象とするコホート研究として世界最大級。すでに2,800人が登録している。
「食事、栄養、運動といった生活習慣に加え、代替療法の使用状況や心理的要因についても調べています。ストレスや抑うつなどだけでなく、前向きな思いや生きがいをもっていきいきと生活しているかということや、乳がんになって得たものがあると感じられることがあるかということなど、ポジティブな要因とその後のQOLや予後との関係も調べています」(溝田さん)
この世界最大規模の乳がん患者コホート研究は、結果がまとまるまでに、あと5年ほどの期間を要するという。
「世界の各国で始まった研究の結果も少しずつ出始めています。その内容は、『乳癌診療ガイドライン』に随時まとめられていきます」(山本さん)
2年毎に改訂されるので、常に新しい情報が加えられていくことになるはずだ。
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