わたしの町の在宅クリニック 11 新田クリニック(東京・国立市)
かかりつけ医の視点で患者さんの生活を守り続ける
〒186-0005 東京都国立市西2-26-29
TEL:042-574-3355 FAX:042-574-3388
URL:www.nitta-clinic.or.jp/index.html
当たり前の生活をどう最後まで維持し続けるか――。東京・国立市で開業する新田クリニック院長の新田國夫さんは、患者さんの声に耳を傾け、生活にまで踏み込んだ診療を日々行っている。
患者さんの声に対応して診療の幅を広げた
訪問診療、訪問看護を専門にしている在宅クリニックが多い中、新田クリニックは平成2年(1990年)の開業以来、一貫して外来診療と在宅診療の2本立てで診療を手掛けている。
「当初より外来、在宅の患者さんを対象にクリニックを開業しました。当時より在宅での治療を必要とする多くの患者さんがいました。当たり前の医療に取り組む中で、自然な流れとして在宅ケアを始めた形です。かつて日本に存在していた、かかりつけ医をイメージしていただければ分かりやすいかもしれません」
こう語るのは同クリニック院長の新田國夫さんである。その言葉を裏付けるように、新田クリニックでは患者さん側の要望に応えて活動の枠を広げ続けてきた。クリニック開業の後、平成9年には現在のグループホームの前身ともいうべき宅老所「つくしの家」を開設、翌10年には「ふれあい倶楽部」という通所リハビリ施設を、さらに平成16年、20年には認知症患者さんを対象にした「グループホームのがわ」「グループホームやがわ」を開設している。
もっとも在宅医療の重要性については、クリニックを開設する前から認識していたと新田さんは言う。
「それまで私は千葉県の病院で外科医として働いていました。そこで末期のがん患者さんたちが病院で苦しみながら人生を終えていく姿を目の当たりにしていた。自宅で治療を受けられれば、最後の時間をもっと快適で充実したものにできるのではと考え続けていたのです」
昨年(2014年)12月の時点で新田クリニックの在宅患者数は84名。その4割程度が認知症患者さんで、がん患者さんが占める割合は1割前後。全員が末期の段階だ。一方、クリニックの診療体制を見ると、新田さんの他にも6人の非常勤医師がいる。しかし在宅患者さんの診療は新田さんが一手に引き受けている。
「在宅診療をスムーズなものにするには医師と患者さん、それにご家族の間での信頼関係が不可欠です。そのことを考えると、患者さんやご家族の状況をよく理解している私自身が手掛けるのがベストの選択と考えています」と新田さんは言う。
認知症患者さんを多く診ている新田クリニックだが、中にはがんを併発している人もいる。高齢化社会を迎えた今、がん以外にも様々な合併症を抱えている患者さんが増えているのが現状だ。「在宅医として、何でも診られないといけない」と新田さん。がん以外にもトータルで診てくれる新田クリニックの存在はありがたい。
当たり前の生活を維持し続ける
当たり前の生活をいかに維持していくか――新田さんが注力している点はそこだ。
「病院から自宅に帰ると、それだけで患者さんの容態は一時的にですが、快方に向かいます。そこで病院では望めなかった当たり前の生活を取り戻すこともできる。大切なのはその状態をいかに最後まで維持させていくか。そのためには患者さんの声にならない声を聴き取らなければなりません」
そういって、新田さんはある男性がん患者さんのケースを話してくれた。
その患者さんは末期の膀胱がんを患っており、病院の治療と並行して、新田クリニックで通院による疼痛治療を受けていた。その治療がうまくいき、患者さんは趣味の写真撮影を目的とした旅行も楽しめるようになった。しかし半年ほどで容態が悪化、治療は在宅ケアに切り替えられる。その時に新田さんは、歩行困難に陥り、落ち込んだ患者さんに「車椅子を利用しても同じ生活を続けられる」と激励し続けた。その結果、患者さんは最後まで趣味の写真を続けながら、当たり前の生活を続けることができたという。
そうした充実した最期を実現するために、新田さんは家族にも最低限の心構えが求められると話す。
「末期がん患者さんが自宅で過ごす期間は1カ月程度。ご家族は最初の1週間ほどは患者さんの容態が変化するたびに動揺します。しかし、そのうち自然に容態変化に適応でき、患者さんの気持ちも受け止められるようになる。まずは最初の1週間をどう乗り切るか。そのためにも看取りの覚悟が必要でしょう」
かかりつけ医として患者さんや家族の生活に踏み込んだ診療を行う新田クリニック。地域からの信頼も厚い。