がんのチーム医療・施設訪問14
国立成育医療研究センター小児がんセンター「こどもサポートチーム」(東京都世田谷区)
活発な議論が出来るカンファレンス 診療科をつなぐ接着剤
長期フォローが必要な小児がん患者さんへの よりスムーズな医療提供のために
松本公一さん 国立成育医療研究センター小児がんセンター長
小児がんは、多職種による集学的治療がとても大切な領域です。そのため、関連する専門分野も成人のがんよりも多岐にわたります。例えば、大人では学校に戻るというケースは少ないでしょうし、家族とのかかわりも小児のほうが兄弟姉妹を含めて濃いので、より丁寧なケアが必要です。もちろん、スムーズに治療を受けられるように導く職種も大切です。
視察を重ね、良いところを取り入れる
国の小児がん対策が強化されたことを受けて、国立成育医療研究センターは「小児がん拠点病院」に指定され、国立がん研究センターとともに「小児がん中央機関」となりました。15の小児がん拠点病院を牽引する役割と体制作りが任務となり、ほかの施設でも参考になる施策が期待されています。
その取り組みの1つが「こどもサポートチーム」です。以前から緩和ケアカンファレンスの名前で多職種連携はあったのですが、十分には機能していませんでした。2年前に赴任した私は、中心的存在だった塩田、木須、鈴木と話し合って、「こどもサポートチーム」に改編しました。根本理念は、各部門の垣根をいかに低くするかということです。新設にあたり、様々な視察の機会を通じて各地の同様な活動を勉強しました。全国の小児がん拠点病院はそれぞれで工夫しているようで、その取り組みにパワーを感じました。いろいろな施設を見学させていただき、当センターにないところを少しずつ取り入れていきましたが、これからも視野を広く持ってチームを発展させていきたいと思います。
移行期医療への対応も
小児がんの抱える大きな課題に「移行期医療」があります。がん治療は小児科だけでは完結しないのです。成長に従って、小児科から大人の病院へ移らなければなりません。この移行には、治療面に加え、心理面でも大きな影響を与えます。治ればいい、という時代ではなく、治ってからが問題で、しっかりフォローするという時代になっています。
一方で、長期フォローアップには、詳細な治療の記録が重要なのですが、現状では「小さいころに小児がんになったみたいですが、どのような治療を受けたかわかりません」という方が多くいます。どのような薬をどれだけ使い、放射線治療をどの部位にどれだけ受けたかなどをしっかりと把握して、合併症対策、2次がん対策などをしなければなりません。
ようやく来年(2016年)1月から全国がん登録制度が始まりますが、小児の場合は成人とは違った視点が必要です。成人では、ビッグデータを検診事業に生かすという面もありますが、希少がんである小児がんでは、「どのような治療をしたか」という自分の記録を保存して、成人したときに自立して病院にかかれるような仕組み作りに結びつけることが大切です。
小児がん拠点病院の「こどもサポートチーム」
小児がんは全てのがんの中では1%ほどの希少がんではあるが、毎年新たに診断される2,000~2,500人という数は決して少なくない。東京の住宅街にある国立成育医療研究センターは小児がん拠点病院に指定され、様々な取り組みを行っている。その潤滑油となっているのが、昨年(2014年)発足した「こどもサポートチーム」だ。
多職種が意見を戦わせることの大切さ
「患者さんは理解ができる年齢。本人は治療方針を受け入れているのか」
「親権と子どもの権利の両方を慎重に考えなければならない」
「大変な思いをしている両親に意思決定のサポートも必要」
「本人の病状は進んでいる。早い段階でのステップアップした治療が求められる」――。
国立成育医療研究センター小児がんセンターの毎週火曜日に開かれる「こどもサポートチーム」のカンファレンスでは、発言に躊躇がない。出席者は30人以上、会議室のいすが足りなくて、立ったまま発言するスタッフもいる。様々な職種の横断的な組織で、出席者みんなが積極的に専門的な立場からの意見を出し続けていく。
「1人ひとりが、それぞれの職種でプロ意識を持っています。話をする機会がとても増えました。以前は自分で何でもしなければと思っていましたが、チームで活動する意義を感じています」
チームの発足から関わっている小児科医師の塩田曜子さんは、多職種が意見を戦わせることの大切さを話した。
国立成育医療研究センターは国の小児がん対策の整備に伴い、2013年に「小児がん拠点病院」に指定され、小児がんセンターを開設した。14年2月には「小児がん中央機関」に指定された。「こどもサポートチーム」が発足したのは同年9月だ。
カンファレンスに集まった部署は、10以上。主治医はもちろん、看護師は病棟からも外来からも参加する。麻酔科、こころの診療部、歯科、リハビリ科、栄養管理部、保育士、ソーシャルワーカー、臨床心理士、放射線技師など普段はそれぞれの専門分野で働いている50人以上がメンバーだ。
立ち上げに携わった緩和ケア認定看護師の木須 彩さんは、振り返る。
「各部門に設立の説明に行ったのですが、私たちが思っているよりも大きな反響を感じました。みなさん、小児がん治療に対する意識は高かったのです。『ぜひ、やらせて欲しい』という声ばかりでした」
最初に取り組んだのが、積極的な患者さん(患児)への関与だ。以前は、患者さんの状態により、必要な部署の専門家がその都度対応していたが、チームが出来てからは、カンファレンスでどのような患者さんが入院したかを報告すると、各部署で数日のうちに各々アプローチするようになった。問題が出てからの対応ではなく、最初から関わることで、患者さんへの理解度に差が出る。