がんのチーム医療・施設訪問15
東大宮訪問看護ステーション(埼玉県さいたま市)

多職種による切れ目のない訪問看護 スタッフ間の密な連絡が鍵

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年10月
更新:2016年9月

  

大切なのは生活スタイルの提案 意思決定を尊重した看護を
佐治 暢(みちる)さん 彩の国東大宮メディカルセンター(旧東大宮総合病院)東大宮訪問看護ステーション 作業療法士・介護支援専門員

私は訪問看護チームの中で主にリハビリを担当しています。在宅で出来るリハビリはたくさんあります。マッサージも筋トレも歩行訓練も大切ですが、メンタル面でのリラクゼーションも同じくらい重要です。患者さんが安心して主体的な生活を送れるようになることを意識しています。

近年、訪問看護をしていて気になることに単独世帯が増え、介護が必要な人々に対して介護をする人が身近にいない環境が広まっていることがあります。老老介護、老障介護(高齢者が障害者を介護する)も増えました。それぞれの生活環境の中で、どんな生活を求めるかについての相談を受けるのも我々の仕事だと思っています。

少し前、40代半ばの女性が末期の乳がんと診断され、手術後に在宅療養となりました。彼女は私に「主婦として仕事が出来るうちは家にいたい。でもそれが出来なくなったら入院したい」と笑顔で言いました。彼女に悲壮感はありません。

私は呼吸リハビリや足のむくみを取ることなどを始め、彼女の希望を叶えようといろいろな策を取りました。次第に体の状況が悪くなり、それでも台所に立ちたいというので、様々な器具を使って料理の下ごしらえくらいは続けられるようにしました。

しかし、あるとき、彼女はきっぱり言いました。「入院します。これ以上、家族に迷惑をかけるわけにはいきません」。彼女は約1カ月後に病院でご主人に看取られながら亡くなりました。すごい決断力だなと思いました。

がん患者さんは、たとえ末期であっても思いをしっかり持っている方がとても多くいます。個別的な機能の回復ばかりに気を取られることなく、どのような生活スタイルを望まれているのか、といった生活全体を考えた在宅医療を、多彩な職種で支えて行きたいと思います。

患者さんの生活スタイルまで考えた看護

在宅訪問看護で求められるのは何だろう。体調の管理やリハビリテーション(以下リハビリ)であったり、生活の補助であったりする。しかし、ただそれを機械的に行うだけでは患者さんの回復も遅い。1人ひとりに合った接し方で、患者さんの生活スタイルまで考えた看護が有効のようだ。

身体と心をほぐしたふれあい

「昨日、近所の人からジャガイモをもらったから、カレーを作ったんだ」

「料理が上手ですものね。食欲があるのはいいことです。じゃ、血圧を測りましょう」

彩の国東大宮メディカルセンター東大宮訪問看護ステーションの作業療法士、佐治暢(みちる)さんは、患者の高波英雄さん(76)の血圧や脈拍、体温のチェックを始めた。

「血圧が少し高めですよ。カレーが辛かったのかな?」。笑顔で話す佐治さんに高波さんの顔もほころぶ。「ちょっと、作り過ぎちゃった」

医療にも介護にも対応

佐治さんが所属する東大宮訪問看護ステーションは、地域の基幹病院である旧東大宮総合病院に併設される形で1997年に開設された。通院治療をする患者さん、医療と介護の両方を必要とする患者さん、終末期を住み慣れた自宅で過ごしたいと望む患者さんや障害のある子どもたちなどの在宅療養を助けている。

同ステーションには、看護師のほか、作業療法士、理学療法士、介護支援専門員(ケアマネジャー)の職員が在籍し、様々な局面から訪問看護を行うとともに、地域に根ざした看護活動を目指して、近隣の医療施設や行政、そして介護保健施設などとも連携を深めている。

「リハビリの効果を実感できた」

ケアマネジャーの金井佳子さん

高波さんは、高校の元教諭。大腸がんの手術を昨年(2014年)がん診療連携拠点病院で受けた。今年2月の退院時に同ステーションに連絡があり、訪問看護を引き受けた。ケアマネジャーの金井佳子さんは、当初、家族が行う在宅化学療法の抜針のサポートに看護師指導の依頼があり付き添った。高波さんが自身の生活スタイルを大切にしている方だと感じたという。

高波さんはベッドではなく、ソファで起居していた。術後の抗がん薬治療の副作用で足がパンパンに腫れている。前にかがむことができないので靴下も履けない。看護や介護が介入したほうがよいのではと感じたが、高波さんは自分で何とか自立したいという気持ちでいたため、どのように紹介したらよいかと考えていた。

金井さんは何度も通ううちに、次第に雑談もするようになっていった。あるとき高波さんが打ち明けた。「足がむくんでいるけど、通販のマッサージ器を使うのは大変なんだよ」。「先生、リハビリができますよ」「家でリハビリ?病院でしたよ。家でまでしなくていいんじゃないか?」「ソファに座ってできるリハビリもありますよ」──。

高波さんは訪問で行うリハビリがどのような効果をもたらすのか想像ができなかったかもしれない。3月からチームとしての訪問が始まった。

血圧測定(上)。筋肉の硬結部位のリラクゼーション(下)

玄関に設置した補助手すりのチェック

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