がんのチーム医療・施設訪問18
日本赤十字社医療センター血液内科(東京都渋谷区)
カンファレンスで情報共有 看護師がチームワークのカギ
明るい雰囲気を醸すのがチーム 看護師も医師も笑顔で
鈴木憲史さん 日本赤十字社医療センター副院長/血液内科部長
スピードを意識し、すばやく対応
当院には約1,000人の看護師がいます。その数は全スタッフの半分以上に当たります。チームとして薬剤師など他の職種ももちろん大切ですが、患者さんと常に接している看護師の役割はとても大きなものがあります。
化学療法をしている患者さんの初期変化を素早く見つけることもその1つです。特に白血球の少ない患者さんの発熱の発見などはスピードがとても重要で、すぐに血圧をチェックして抗生物質などのオーダーを主治医や当直医に頼むことになります。
我々がつらかったら、患者さんも良くならない
チーム医療、連携と言われますが、形だけではいけません。私が若いころは、薬を自分でバイアルに詰めて、点滴を刺していました。今は薬剤師がしてくれますが、そのつらさはわかります。しかし、つらさに耐えるだけではできない仕事なので、薬剤師にも病棟やカンファレンスに来てもらって、臨床という現場の醍醐味を体感してもらっています。
私は「朗らかに」といつも言っています。我々がつらかったら患者さんも良くなりません。皆でやるのがチーム。ニコニコ、ハキハキしていれば患者さんも良くなります。医療者が暗く、つまらなそうな顔していたら、たまったものではありません。我々が笑っているだけで、患者さんはホッとしてナチュラルキラー(NK)細胞が増えるのです。
クルーはオーケストラ
チーム医療において、医師、看護師、薬剤師、事務方も皆同じクルーです。しかし、クルーがオーケストラだとしたら、医師は常に指揮者の役割を果たさなければなりません。様々な不協和音が出たらその調整をします。その目的は「For the Patient(患者さんのために)」。常に患者さんの方を向いておくことが必要です。
厳しい言い方をすると、がんと闘うには患者さんを崖淵まで追い込む治療が必要になります。それだからこそ、明るい雰囲気をチームとして醸していくことが大切なのです。
1日も早い社会復帰をサポート
白血病、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫……。血液がんと聞くと昔は〝不治の病〟のような捉えられ方もあったが、今は治療法が進化して治療成績はぐんと上がっている。その患者さんたちの1日も早い社会復帰をサポートしているのが、血液内科チームだ。頻繁なカンファレンス(会議)で情報交換に努めている。
開かれた発言の場
毎週水曜日、眼下に東京都心を見下ろす日本赤十字社医療センターの11階、血液内科病棟の会議室では報告と質疑が活発に行われる。
「レジメンが審査を通りました。7段階で投与量を上げていきます」
「75歳の○○さんが認知症で被害妄想になっています。対応に留意してください」
「××さんには、どの薬が効いているんですか?」
「レントゲンも見せてください」
「△△さんは家族のがんも心配していましたが、もう検査しましたか?」――
参加するのは、医師、看護師、病棟薬剤師、外来化学療法室の看護師、そして事務方からの出席もある。約20人がロの字型に組まれたテーブルに座り、鈴木憲史診療部長、病棟看護師長の池田美里さんたちがテキパキと会議を進行させていくが、質疑が入ったりするために、この日のカンファレンスは2時間近くに及んだ。
池田さんは「薬剤師、看護師などそれぞれの視点と、患者さんの立場で医師に伝えたいことを発言します。チームなので、どこが主導権を持っているということはありません」と、皆が平等な立場で集まっていると話した。
家庭環境や退院後も話し合う
カンファレンスでは、患者の状態や治療方針について情報共有するだけではなく、約50人いる入院患者の家庭環境や退院後の見通しまでを話題にし、トータルなケアを目指している。以前、地方から入院したものの、退院したら家が処分されていて施設を探さなければならなかったケースもあるなど、治療以外にも目を配ることの大切さは増しているという。
副院長で血液内科部長の鈴木憲史さんは、「血液がんの治療はきついものが多いので、ただ生存期間を延ばすというだけではなく、生活を総合的に見ていかなければなりません」と、ソーシャルワーカーや心理士なども含めた多職種の関わりが必要であることを強調する。
鈴木さん自身、チームをまとめる役割ながら、自ら毎週の回診で患者に話し掛け、病状だけではなく、本人の状況や気持ちを汲み取ろうとしている。その穏やかで柔らかい笑顔は病棟でも〝人気者〟だという。
「プレーイングマネジャーというつもりでやっています」