転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療は大きさや個数で決める
脳転移治療にはガンマナイフが効果的 さらに患者にやさしい新型登場
がんの遠隔転移によって起こる転移性脳腫瘍。腫瘍によって手足の麻痺や、痙攣など様々な神経症状が出る。そうした中で治療件数を伸ばしているのがピンポイントの放射線治療装置ガンマナイフだ。通常は1回の照射で退院できる。開頭手術に比べて身体的な負担が軽く、高齢者や体力を消耗した患者にも治療可能などのメリットがある。その実力についてNTT東日本関東病院ガンマナイフセンター長の赤羽敦也さんに伺った。
脳転移が起こりやすいがん種
がん全体の約10%に脳転移が起こるとされている。*全国統計調査によると頻度が多いのは肺がんで、全体の半数強を占める。次いで乳がんが10%弱。さらに直腸がん、腎・膀胱がん、胃がん、大腸がんがいずれも5%前後となっている。
この発生頻度について、症例数が6,000以上、とくに転移性脳腫瘍の治療を数多く手がけるNTT東日本関東病院ガンマナイフセンター長の赤羽敦也さんは次のように語る。
「肺がんが多い理由のひとつは、血流の影響が大きいためだと思われます」
また、脳腫瘍全体に占める転移性脳腫瘍の割合は10数%と言われてきた。しかし、近年では再発検査や検査機器の普及・発達により早く見つかりやすくなっており、脳腫瘍全体の中での割合は増えている。
脳転移は、症状の発現が発見の発端となることが多いそうだ。手足の麻痺(まひ)や痙攣(けいれん)など脳転移を疑う神経症状が出て、検査をして見つかるケースだ。
しかし、最近では脳転移を予測した検査によって見つかることも増えている。肺がんのように脳と副腎に転移を起こしやすいがんは、症状がなくても肺のCTと一緒に、脳のCTやMRI検査を行うようになったからだ。
「再発の疑いのある病巣を拾い出す検査で、胸部や腹部あるいは頭部など、転移・再発が起きやすい部位をCTなどの画像検査をして、疑いがあればMRIなどでさらに詳しく調べます。当院の場合、近年、肺がんの脳転移はこのようにして見つかることがほとんどです」(赤羽さん)
ガンマナイフ治療には適応がある
放射線療法には、リニアックという照射装置で脳全体に照射する全脳照射と、特殊な機器で腫瘍にピンポイントで照射する定位照射がある。全脳照射は、腫瘍が大きい場合や、多発性の脳腫瘍が適応だが、後遺症として認知機能低下のリスクが一部で高くなる。定位照射にはガンマナイフなどが属し、身体的な負担は軽いが腫瘍の大きさや個数に制約がある。
ガンマナイフ治療は、放射線の1種であるガンマ線を脳内の1点に集中させる。そのガンマ線を照射する部分は半球状の形をしており、約200個の照射口がびっしりと配置されていて、ここから照射する。
1本1本のビームは細くて微弱だが、200本を集めることで強力になり、がん細胞は壊死するという仕組みだ。照射誤差は0.5㎜以内という精度で、1個1個形や大きさの違う腫瘍に対しても、照射できるのが強みだ。まるでガンマ線のメス(ナイフ)で切除するかのようだ、ということから〝ガンマナイフ 〟と命名された。
「国内では1990年代から普及し始め、以降、MRI画像を元にコンピュータ制御で、照射位置を自動的に設定する機能が加わるなどして、より正確に照射できるようになっています。開頭手術に比べると身体的な負担が大幅に軽減されたため、がん以外の基礎疾患を持っていることの多い高齢者や体力のない患者さんでも治療できるケースが増えました。また脳の深部など開頭手術が困難な部位の治療もできるようになりました」(写真1)
しかし、転移性脳腫瘍のガンマナイフ治療は、「まずその治療の適応性があるかどうかを検討しなければなりません」と赤羽さんは言う。
「転移性脳腫瘍は遠隔転移したがんで、病期でいえばステージⅣです。ですから完治が難しい場合が多いです。しかし、予後(よご)が限られている患者さんでも症状の緩和につながれば治療は行います。また、全脳照射のほうが望ましいと考えられる場合でも、患者さんが強く希望すれば行うこともあります。ですからガンマナイフ治療を行うかどうかは、グレーな部分があるのです」(赤羽さん)
適応範囲が広がっているガンマナイフ治療
基本的には、ガンマナイフ治療を行うかどうかの要素は大きく2つある。
「脳腫瘍の位置、大きさ、個数などの腫瘍の状態と、患者さんの全身状態(PS)を考えます」と赤羽さん。
転移性脳腫瘍のガンマナイフ治療の適応は、かつて腫瘍の大きさは3㎝以下、個数は4個までと言われてきた。しかし近年、適応範囲が広がってきている。
腫瘍の個数については、2009年から開始された、全国23施設から1,194例を対象とした国内の臨床試験で、腫瘍個数別によるガンマナイフ治療後の全生存期間(OS)が比較検討された。それによると腫瘍個数が2~4個群に比べて、5~10個群が劣っていることは示されなかった。
「この試験や、その他の内外の臨床試験結果を踏まえて、小さいものであれば腫瘍個数は10個くらいまでならOKとされつつあります。では、11個はだめなのかというと、エビデンス(科学的根拠)レベルは低いですが、11個でも差はありません。個数でラインを引くのはどうでしょうか」と赤羽さんは言う。
腫瘍の大きさについては、最新のICON(アイコン)という機種では3㎝以上であっても、照射を数回に分ける分割照射を行うことで対応できるようになった。分割することで、脳の正常組織へのダメージを抑えることができる。これまで、腫瘍が大きければ、放射線壊死の可能性もあったが、最新のICONは放射線を分割して照射でき、より安全に治療できるようになったと言う。
またICONでは、照射精度を得るためのピンによる頭部固定という従来の方法に替えて、顔をマスクで覆って固定する方法が新たに導入された。
「棒状のピンで固定する方法は、心理的な負担があり嫌がる患者さんもいますが、マスクによる固定ではそれから解放されました。局所麻酔をする必要もありません。ただ固定の強度は弱まるので、それをカバーするため、鼻先に赤外線を感知するセンサーが付けられており、患者さんの頭部の動きを常に監視し、照射精度を保持できるシステムが装備されています」と赤羽さん(写真2、3)。
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