治療開始時からが勝負。皮膚を守る生活の過ごし方とは
こうすれば予防できる! 放射線皮膚炎
発赤など、皮膚の副作用である放射線皮膚炎は、ほぼすべての放射線治療で起こります。ただし、日々の生活のなかで患者さん自身が行う工夫と努力次第で、予防や軽減ができる副作用でもあるのです。治療を始める前に知っておきたい、放射線皮膚炎対策のポイントを紹介します。
放射線皮膚炎は必ず出る副作用
「放射線治療は局所治療のため、照射した部位に治療効果も副作用も現れます。なかでも皮膚が赤くなる発赤や紅斑などの皮膚炎は、ほぼ必ず出現する副作用です。放射線は、外から照射する場合、患部へ到達する前に必ず皮膚を通過するからです。さらに皮膚は細胞分裂が盛んなので、ダメージを受けやすいのです」
そう話すのは、東邦大学医療センター大森病院でがん看護専門看護師として働く祖父江由紀子さんです。
ただし、皮膚炎は患者さん自身の努力で予防や軽減ができるため、治療前に皮膚炎についてよく理解しておくべきだといいます。
放射線治療では、当てるべきトータルの総線量を何回かに分割し、毎日少しずつの線量を照射します。これを分割照射といいます。たとえば70グレイの照射が必要な場合は、1日2グレイの照射を35回に分け、平日毎日を週5日とすると7週間で照射するのです。
「分割して照射する理由は、正常細胞はがん細胞よりも修復が早く、毎日少しずつ照射することで、正常細胞は修復させながら、がん細胞を叩いていくためです」
放射線治療は、方法、使う放射線の種類、照射線量、回数、治療目的、部位、他の治療法との兼ね合い、副作用などを考慮して放射線治療医によって細かく計画されます。
「照射方法を例にとると、1方向からの照射と多方向からの照射では、皮膚炎のリスクは多方向からの照射のほうが低くなります。多方向からの照射は、1カ所当たりの皮膚が受ける線量が少なくなるためです。また、放射線は人体を透過するため、放射線が出ていく側の皮膚にも影響があることを知っておくことが大切です」(図1)
2週間後ぐらいから皮膚炎は徐々に出現
皮膚は表面から、表皮、真皮、皮下組織の3層構造になっています。そのなかの表皮は、角質層、顆粒層、有棘層、基底層というように層が分かれています。表皮の基底層の中の基底細胞が分裂して徐々に角質層へと上がっていき、角質層に留まっている古い細胞は垢となって脱落することで、新しい皮膚が形成されます。これをターンオーバーといいます。基底細胞が角質層となるまでの14日間と、角質層に留まっていた古い細胞が落ちるまでの14日間を合わせた28日間が、ターンオーバーの周期です(図2)。
放射線による皮膚の変化は、通常2週間目ごろから淡い発赤が出てくることが多いそうです。治療が続くことによって基底細胞が新しい細胞を作らなくなり、表皮が薄くなり、水ぶくれになることもあります。そこへ摩擦などの刺激が加わると、表皮が破けてしまいます。表皮だけではなく、真皮まで破けると、浸出液と呼ばれる黄色い液や血液が出て、ジクジクした痛みのある状態に進んでしまいます(図3)。
「放射線治療による副作用には、グレード(症状の強さ)の分類があり、1から4に分かれています。できるだけ進行させないためには、治療開始直後から治療終了後、ターンオーバーの終わる4週間後ぐらいまで、治療の範囲の皮膚への刺激を避けることがとても重要です。わからない点は遠慮なく看護師に相談して、日常生活での対処法を工夫して実践してください」
症状の強さは、照射を目的とする部位(治療したい場所)の皮膚からの深さ、部位の性質、照射法、線量など、その人が受ける放射線治療の特徴と、生活習慣や持病など、皮膚炎の出やすい状態がどの程度あるかによって、患者さんごとに異なってきます。
「照射部位の深さでいうと、皮膚から浅いところの治療ほど、皮膚に高い線量があたることになります。喉頭がんや咽頭がんのように比較的皮膚に近い部位への治療の場合、皮膚が受ける線量も高くなるため、皮膚炎が出やすくなります」
乳房のように丸みのあるところも、皮膚への線量は高くなるといいます。
皮膚炎の出やすい部位は、腋の下、乳房の下、そ径部(足の付け根)、会陰部など摩擦にさらされやすいところです。また、皮膚が薄い顔面やカテーテルなどの管を入れた傷跡にも出やすいです。
皮膚炎が出やすい患者さん側の要因は、栄養不良、喫煙、糖尿病、膠原病、化学療法の併用、民間療法の併用などです。また医療者が提案した皮膚への対策を行わない場合も、症状が出てしまいます(図4)。