乳がんホルモン療法の最前線 サンアントニオ乳がんシンポ2011の成果を中心に
乳がんも個別化治療の時代に閉経後乳がんのホルモン療法最新情報
「自分に合ったよりよい治療を行うには、 医療者とよく相談することが大切です」 と話す
津川浩一郎さん
乳がんも個別化治療の時代に突入しました。
閉経後乳がんの個別化治療として、ホルモン療法のアロマターゼ阻害剤がキードラッグの1つとなっています。
ホルモン受容体陽性乳がんの個別化治療
ホルモン受容体陽性乳がんでは一般に腫瘍細胞のエストロゲン受容体にエストロゲンが結合することで増殖、進行します。実際には、乳がんはがん細胞の特徴から図1のように分類され、それぞれに適した治療法が選択されています。そういう意味ではすでに個別化治療(*)が進んでいる疾患の1つといえるでしょう。
今回のサンアントニオ乳がんシンポジウムでも個別化治療を進めるための有用なデータが多く報告されました。今回、乳がんの約70%を占めるホルモン受容体陽性の乳がんを中心に、いくつかの知見を解説したいと思います。
ホルモン受容体陽性乳がんにおける治療の中心はホルモン療法です。ホルモン療法は、エストロゲンの作用を抑えることで腫瘍の成長を阻止し、小さくさせることを目的としています。
ホルモン療法には、①エストロゲンとエストロゲン受容体との結合を阻止する戦略。②エストロゲンそのものが産生されないようにする戦略があります。
①の代表的な薬剤が抗エストロゲン剤と呼ばれるノルバデックス(*)で、エストロゲンに先回りしてエストロゲン受容体に結合することで、腫瘍の成長を抑えます。②については、エストロゲンの産生ルートが複数あるため、いくつかの戦略があります(図2)。
エストロゲンは、卵巣で産生される一方で、副腎から分泌されたアンドロゲン(男性ホルモン)が、脂肪組織等でアロマターゼと呼ばれる酵素によって変換されることで産生されます。閉経後は卵巣からのエストロゲン分泌は消失しますが、副腎ルートでは産生し続けます。この変換酵素の働きを阻害することで、副腎ルートのエストロゲン産生を阻止しようというのがアロマターゼ阻害剤の考え方です。
ノルバデックスが閉経前、閉経後の両方の患者さんに用いられるのに対し、アロマターゼ阻害剤は閉経後の患者さんに使用されます。
*個別化治療=最大多数の患者さんにとって有効な治療法ではなく、個々の患者さんにとって最適な治療法を見極めて治療を進めること。そのためには、正確な医療情報を収集するとともに、患者さん自身が自分の病態をよく知ることが重要
*ノルバデックス=一般名タモキシフェン
アロマターゼ阻害剤の5年投与が主流
ホルモン受容体陽性の閉経後乳がんの術後ホルモン療法では、すでにアロマターゼ阻害剤を5年間継続して投与する治療戦略が主流です。
現在使用できるアロマターゼ阻害剤には、アロマシン(*)、アリミデックス(*)、フェマーラ(*)、の3剤があります。
エキセメスタンは、アロマターゼのアンドロゲン結合部位に結合し、アンドロゲンがエストロゲンへ変換されるのを阻害
アロマシンは、エストロゲンやアンドロゲンと同じ分子構造としてステロイド骨格を持つため「ステロイド型アロ マターゼ阻害剤」と呼ばれます(図3)。アロマターゼのアンドロゲン結合部位に結合することで、アンドロゲンがエストロゲンへ変換されるのを阻害します。
一方、アリミデックスとフェマーラはステロイド骨格を持たないため「非ステロイド型アロマターゼ阻害剤」と呼ばれ、アロマターゼのヘムリングという部分に結合して、アロマターゼの作用を抑制します。なお「ステロイド骨格」と聞くと、いわゆるステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)のような作用があると誤解される方もおられますが、そのような作用があるわけではありません。
*アロマシン=一般名エキセメスタン
*アリミデックス=一般名アナストロゾール
*フェマーラ=一般名レトロゾール
アロマターゼ阻害剤3剤の効果は同等
これまでにこれら3剤のアロマターゼ阻害剤にどのような違いがあるのか多くの研究がなされてきました。前回のサンアントニオ乳がんシンポでは、ホルモン受容体陽性の閉経後乳がんに対する術後ホルモン療法として、アロマシンとアリミデックスを直接比較した大規模臨床試験の結果が報告され、両剤の効果は同等であることが示されましたが、今回のサンアントニオ乳がんシンポではホルモン受容体陽性・閉経後の切除不能な転移性/進行/局所再発乳がんの初回治療として、アロマシンとアリミデックスを直接比較した試験結果が報告されました。
結果は、病状が進行するまでの期間の中央値はアロマシン群が13.8カ月、アリミデックス群は11.1カ月で、2つの薬剤の効果は同等と判定されました。さらに全生存期間についても統計学的に同等でした。このことから、ホルモン受容体陽性の再発乳がんにも、両薬剤ともに優れた効果を示し、患者さんの長期予後の改善に寄与していることがわかりました(図4)。さらに意味深いのはこの試験が日本で実施されたことです。日本人から得られたこのデータは患者さん、乳がんに携わる医師にとって大いに参考になるものです。
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