乳がんホルモン療法の最新トピック SABCS2010より
さらなる個別化へ―ホルモン療法剤の特徴を自身の治療に生かす
藤田保健衛生大学
乳腺外科教授の
内海俊明さん
毎年12月、米国テキサス州サンアントニオで開催されるサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)。
多くの専門家が集い、乳がんに関する最新の研究成果や臨床試験結果が発表されます。今回、アロマターゼ阻害剤同士の初の比較試験として注目を集めたMA・27試験の結果を中心に、閉経後乳がんのホルモン療法に関する最新情報を紹介します。
がん増殖の鍵・エストロゲンの働きを抑える
乳がんの約7割は、女性ホルモンであるエストロゲンの受容体を発現しており、その増殖にはエストロゲンが深く関わっています。藤田保健衛生大学乳腺外科教授の内海俊明さんは、こうした乳がんを「エストロゲン受容体という鍵穴を持つ乳がん」とたとえ、「鍵穴であるエストロゲン受容体に、女性ホルモンであるエストロゲンが鍵としてささる(結合する)ことで、〝がんの増殖〟という扉が開けられる」と説明しています。このエストロゲンの働きを抑えることで、乳がんの増殖や進行を抑制しようとする治療法がホルモン療法です。
ホルモン療法の戦略には、(1)鍵穴であるエストロゲン受容体を塞いでエストロゲンがささらないようにする方法と、(2)体の中から鍵であるエストロゲン自体をなくそうとする方法があります。これまで乳がんホルモン療法で中心的な役割を果たしてきたタモキシフェンは、鍵穴を塞ぐ抗エストロゲン剤のひとつで、閉経前、閉経後、いずれの患者さんでも使うことができる薬剤です。一方、鍵自体をなくそうとする方法は、患者さんが閉経前であるか閉経後であるかによって使える薬剤が異なります。体内のエストロゲンの作られ方に違いがあるためです。
閉経前と閉経後で異なるホルモン療法
卵巣機能の働いている閉経前の女性では、体内のエストロゲンのほとんどが卵巣で作られます。そのため、卵巣から出てくるエストロゲンを低下させることのできるLH-RHアナログという薬が効果的です。
一方、閉経後には卵巣の機能はなくなりますが、体内からエストロゲンが全くなくなるわけではありません。それは、副腎で作られたアンドロゲンという男性ホルモンが、脂肪組織などの末梢組織において、アロマターゼという酵素によって、エストロゲンに変換されるためです(図1)。今日まで、いくつかの臨床試験によって、閉経後の女性では、この酵素を阻害してエストロゲンへの変換を抑制するアロマターゼ阻害剤を手術後に投与すること(アジュバント療法)で、乳がんの再発率が低くなり、生命予後が改善されることが明らかになっています。
MA・27試験―2つのアロマターゼ阻害剤を比較
現在、術後のホルモン療法に用いられているアロマターゼ阻害剤は、アリミデックス(*)、フェマーラ(*)、アロマシン(*)という3種類の薬剤です。アロマターゼ阻害剤を5年間投与する(イニシャルアジュバント療法)、あるいはタモキシフェンを2~3年投与した後にアロマターゼ阻害剤を2~3年投与する(スイッチアジュバント療法)のが一般的です。
3剤は、いずれもアロマターゼを阻害する「アロマターゼ阻害剤」ですが、化学構造や阻害の仕方(作用機序)には違いがあります。アロマシンはエストロゲンやアンドロゲンなどのホルモンと同じような構造(ステロイド)を持つ「ステロイド型アロマターゼ阻害剤」で、アロマターゼのアンドロゲン結合部位に強固に結合することによって、アンドロゲンのエストロゲンへの変換を非可逆的(いったん結合すると離れない)に阻害します。これに対して、アリミデックスとフェマーラは、ステロイド構造を持たない「非ステロイド型アロマターゼ阻害剤」で、アロマターゼのヘムリングという部分に可逆的(結合したり解離したりできる)に結合して、アロマターゼの作用を阻害します(図2)。
*アリミデックス=一般名アナストロゾール
*フェマーラ=一般名レトロゾール
*アロマシン=一般名エキセメスタン
このように、構造や作用機序の異なる2種類のアロマターゼ阻害剤では、ホルモン療法としての効果や副作用も異なるという可能性が指摘されていました。そして今回初めて、非ステロイド型アロマターゼ阻害剤アリミデックスと、ステロイド型アロマターゼ阻害剤アロマシンを直接比較したMA・27試験の結果がカナダの臨床試験グループ(NCIC CTG)により報告されました。
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