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仕事・結婚・出産への心配で大きなストレスを受けやすい若年性乳がん
若い乳がん患者さんよ! 悩みや不安を1人で抱えないで

監修:齊藤光江 順天堂大学医学部付属順天堂医院乳腺科科長
取材・文:吉田健城
発行:2010年7月
更新:2013年4月

  
齊藤光江さん
順天堂大学医学部付属
順天堂医院乳腺科科長の
齊藤光江さん

乳房は、女性のシンボル的な意味合いを持つ器官だ。出産や性の営みとも密接に関わっているため、若くして乳がんを患うことは、仮に命に別状がない場合でもさまざまなつらいことに直面する。結婚・出産を望んでいる女性も多く、その不安や苦しみは大きい。
こうした若年性乳がん患者さんには、精神面のバックアップがとても重要となる。

若年性乳がん
知っておきたい4つのポイント

3年前にテレビでドキュメンタリー番組『余命1ヶ月の花嫁』が放映され、高視聴率をあげて以来、若年性乳がんはワイドショーや報道番組のコーナー、新聞や雑誌の記事等でも取り上げられる機会が増えた。そのため、「食生活の欧米化や体の発達が早くなったことなどを背景に若年性乳がん患者は増えている」といったイメージを持っている女性は多いようだ。

これは、正しいのだろうか?

順天堂大学医学部付属順天堂医院乳腺科科長の齊藤光江さんは、次のように語る。

「若くして乳がんになる方が増えているのは事実ですが、乳がん患者全体が増えているので20代、30代の患者さんが目立って増えているわけではありません。若年性乳がんの患者さんが全体に占める比率は数パーセントくらいで、若年層の比率は以前とほとんど変わっていません」

患者数以外でも、若年性乳がんに関しては実態とは異なるイメージや誤った情報が独り歩きしている面もあるので、齊藤さんに、患者さんが知っておきたい4つのポイントを挙げていただいた。

(1)若年性乳がんの定義:出産可能な年齢で線引きされている

医学的に若年性乳がんと定義されているのは35歳未満だが、これは35歳を境に再発の危険性に差があるためである。しかし、心のケアを考えると、40歳代前半までの出産可能な年齢を臨床現場では若い患者とみている。

「若い乳がんの患者さんがみえたとき、それとなく確認するのは子供を産んでいるかどうかです。すでに子供を産んだ人と、これから産もうとしている人では治療の説明などに多少違いがあります」(齊藤さん)

(2)がんの進行:進行は速いが、予後は悪くない

若年性乳がんは進行が速いのが特徴の1つで、治療については実際の悪性度より1ランク上の治療が行われる。一方で、治療に使われる抗がん剤は若い人ほど効きやすい。

「抗がん剤は、がん細胞の分裂を邪魔することで死滅させるものが多いんです。ですから、細胞分裂が活発な若い人ほど効くんです。悪心・嘔吐などの副作用も若い人ほど強く出ますが、それに耐える体力もあるので高齢の患者さんより一概に悪いとはいえません」(齊藤さん)

放射線も、基本的にがん細胞の分裂を阻止する治療手段なので同様の効果が期待できる。

「以前勤務していたがん専門病院で百数十人の脳転移した患者さんがその後どうなったか、という実態調査をしたことがあるんですが、5年後に生存していた方が6人いました。3人が30代で、3人が50代でした。50代は1人は認知症、1人は脳血管障害で死亡。残る1人は行方不明で連絡が取れなかったのですが、30代の3人は10年後も元気に生存していました。3人ともかなり強い化学療法を行い、脳転移の方は放射線治療で治りました。この事実は抗がん剤治療だけでなく、放射線治療も、若年層に効果が出た場合は、後遺症も残しにくいということを示しているのかもしれません」(齊藤さん)

しかしながら、若年は早期での発見は少ない。

これは40歳未満の女性に対する検診体制が確立されていないこと、それと関連して乳房の張りが強く、しこりがわかりづらい、若年層の乳がんに対する意識が低いことなどが背景にあるようだ。

(3)乳房温存率:術前化学療法の効果で他の年代と変わらない温存率に

他の年代に比べると、進行した段階でみつかるケースが多い若年性乳がんだが、術前化学療法の普及後は、がんを小さくしてから手術切除することが可能になった。この術前化学療法の恩恵により、若年性乳がんの乳房温存率も全体の平均(72パーセント)より若干低い程度にまでアップしていると推測されている。

[乳房温存術の種類]
図:乳房温存術の種類

(4)乳房再建術:形成外科を受診することで選択するケースが増加

前述の通り、術前化学療法の恩恵により、乳房を温存できるケースは増えてきている。しかし、進行した段階でみつかることの多い若年性乳がんは全摘手術となるケースが多い。

「温存には、むしろ私たちのほうがこだわっているのかもしれません。若年患者さんには全摘の場合、かなり早い時期に乳房再建術の話をしています。その上で、形成外科にも受診してもらい、再建術の説明を受け、再建後の写真をみてもらいます。形成外科からの説明を受けることで、いさぎよく再建術を選択する方は多くなっているように思います」(齊藤さん)

[乳房再建の方法]

人工乳房(インプラント)を用いる方法
  • シリコンジェルを使用
  • 生理食塩水を使用
自家組織を用いる方法(筋皮弁移植)
  • 腹直筋皮弁
    (下部腹直筋を使用した筋肉弁の移植)
  • 広背筋皮弁
    (広背筋を使用した筋肉弁の移植)
  • 大殿筋皮弁
    (大殿筋を内胸血管と吻合することによる遊離皮弁の形成)

結婚・出産を控えている年代
まずは生活目標を確認

若年層の乳がん患者さんの治療で最も大きな問題といえるのは、未婚、未産の女性が多いということである。

年齢に関わらず、未婚女性では再発リスクが増えても乳房温存を強く望む人、妊娠・出産を望むために薬物療法を拒否する人なども少なくない。

「告知や治療説明については、患者さんが人生の目標としていることの優先順位をよく聞いて、医学的に勧められる幾つかの治療選択肢の中から、折り合いをつけていけるような配慮をします。若年患者さんはなかなか早期発見が難しいのですが、治療手段は年々増えています。治療の順番や組み合わせ、治療を減らした場合のリスクなどについては時間をかけて説明をしています。また、パートナーがいる方には、生殖医療の最前線に関する現状についてもお2人に説明しています。治療前にその情報を知らないと、彼女たちは悔いを残しますから」(齊藤さん)

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