乳房再建の方法をよく知って、イメージ通りの乳房に
不安にならないで――全摘しても自然な乳房は取り戻せる
名古屋第二赤十字病院
乳腺外科部長の
久留宮康浩さん
「胸を失ってしまった」
「形が崩れてしまって、左右の大きさが全然違う……」
乳がんの手術後に、患者さんからよく聞かれる声――
でも大丈夫、自信を持って
乳房再建手術で、自然な乳房は取り戻せるのだから
乳房が温存されない温存手術なんて……
乳がんの手術には、乳房温存手術と乳房切除手術がある。温存手術は乳房の一部だけを切除し、局所での再発を防ぐために、残った乳房に放射線を照射する。切除手術は、がんのある乳房を残さず切除する手術である。
かつては切除手術が主流だったが、近年では温存手術を受ける人が増え、日本でも切除手術より温存手術のほうが多くなっているという。
治療のためとはいえ、乳房を失うことで女性は大きな心のダメージを受ける。温存手術の増加は、そうした面から好ましい傾向と言えそうだが、話はそれほど単純ではない。名古屋第二赤十字病院乳腺外科部長の久留宮康浩さんは、次のように語っている。
「温存でも切除でも、その後の生存率に差がないことは、臨床試験で明らかになっています。そのため、温存手術が増えてきたわけですが、がんの大きさや位置によっては、乳房の形をきれいに残せないことがあります。温存手術は受けたけれど、乳房がひどく変形してしまい、何を温存したのかわからないというケースが少なくないのです」
乳房をきれいに温存できるかどうかは、がんのできている位置と大きさが関係する。乳房温存手術が始まった当時、がんが乳頭から3センチ以上離れ、大きさが2センチ以下の場合が適応とされていた。この条件からはずれても生存率が変わらないため、現在では、患者さんが希望すれば温存手術が行われている。ただ、その場合、乳房の形はどうしても悪くなってしまう。
「がんが大きければ切除する範囲が広くなるし、乳頭に近いと、山(ふくらみ)の真ん中を削ることになるので、どうしても変形が強くなってしまうのです」
温存手術で比較的乳房が変形しにくいのは、乳房の外側上方にできたがんだという。乳房の下側のラインが保たれるので、比較的きれいな形を保つことができる。
「温存手術で乳房をきれいに残せる場合はいいのですが、変形が強そうな場合には、乳房切除手術を受け、さらに乳房の再建を行うという方法もあります」
最近は、この方法が注目を集めているようだ。
診療ガイドラインでも再建が勧められている
乳房の再建手術というと、特殊な治療だと考える人がいるが、決してそうではない。たとえば、乳がん治療の指針となる『乳癌診療ガイドライン』(外科療法・2008年版)には、次のように記載されている。
「早期乳癌の乳房切除後の乳房再建は再発診断の遅れにつながることはなく、安全性の面でもQOLの観点からも勧められる。(推奨グレードB)」
多くのエビデンス(科学的根拠)に基づいて作成される診療ガイドラインが、乳房再建を推奨しているのである。推奨グレードBは、「日常診療で実践するよう推奨する」という意味だ。また、自己組織を使う乳房再建手術(再建手術の方法について詳しくは後述)は、06年4月から保険診療で行えるようになっている。
乳房再建手術
人工物と自己組織2つの方法
乳房再建手術の方法についてまとめておこう。まず、大きく2つの種類に分けられる。1つは、シリコンなどの人工物を利用する方法。もう1つは、自己組織(自分の筋肉や脂肪)を使う方法である。
シリコンなどを利用する場合、まずティッシュエキスパンダー(組織拡張器)を胸の筋肉の下に挿入する。これに生理的食塩水を定期的に注入することで徐々に皮膚を伸ばしていき、十分に伸びたら、ティッシュエキスパンダーを抜き取り、代わりにシリコンなどの人工乳房を挿入する。
自己組織を使う方法では、広背筋皮弁や腹直筋皮弁という方法がよく行われている。広背筋皮弁は、背中にある広背筋と脂肪組織と皮膚の一部を、血管につないだまま反転させ、乳房に移植する方法。腹直筋皮弁は、腹直筋と脂肪組織を利用する方法だ。
また、乳がんの手術と同時に行う乳房再建を1期的再建、乳がんの手術後しばらくしてから行う再建を2期的再建という。
42歳女性、右乳房に腫瘍
術前
術後(12カ月)
45歳女性、左乳房に腫瘍
術前
術後(7カ月))
広背筋皮弁により再建
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