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紆余曲折あったが、UFTも選択肢に
乳がんの術後薬物療法に初の「日本発エビデンス」

監修:渡辺亨 浜松オンコロジーセンター長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2009年3月
更新:2013年6月

  
渡辺亨さん
浜松オンコロジーセンター長の
渡辺亨さん

乳がんの患者さんの命が救われるかどうかの最初の分かれ目は、手術後にどんな治療をするかという点だ。
この術後薬物療法の分野に、日本から初めてエビデンス(科学的根拠)のある治療法が出てきた。UFT(一般名テガフール・ウラシル)という、1世代前の抗がん剤であるが、今これが脚光を浴びている。

タンポポの種をたたく治療

乳がんは、手術でしこりの部分を取ればそれで終わりと思っている人がいまだに多いが、そうではない。取った後、どういう治療をするかが大事で、大袈裟ではなく、それが患者さんの命を左右するといってよい。

乳がんは、画像検査でわかった腫瘍以外にも、目に見えないタンポポの種(微小転移)が潜んでいる可能性があり、それをたたいておかないと命を脅かすもとになりかねないからだ。

では、術後に、このタンポポの種をたたく治療として有効なのは何かというと、全身療法の薬物療法にほかならない。

現在、薬物療法には、大きく分けて、ホルモン療法、化学療法、分子標的療法の3種類がある。使い方としては、これらを患者さんの再発リスクに応じて組み合わせて使い分けていく。詳しくは、前出の記事中に掲載された、浜松オンコロジーセンター長の渡辺亨さんがザンクトガレン乳がん国際会議で提唱した「基本24病型分類表」を見ていただきたいが、おおまかに言うと、再発のリスクが低ければ比較的穏和な治療のホルモン療法を、リスクが高ければ強力な化学療法や分子標的薬のハーセプチン(一般名トラスツズマブ)などの治療をしていくことが推奨されている。

アンスラサイクリンを含む治療法

『乳癌診療ガイドライン(1)薬物療法2007年版』

『乳癌診療ガイドライン(1)薬物療法2007年版』でアンスラサイクリンを含むレジメンが推奨されている

ただ、この分類表では、化学療法といっても、どんな療法がいいのか、その内容まではわからない。内容については、日本乳癌学会がつくった『乳癌診療ガイドライン(1)薬物療法2007年版』に記されている。

「術後療法としてはアンスラサイクリンを含む治療が推奨される」として、推奨グレードが最も高い「A」となっている。

アンスラサイクリンとは、抗生物質系の抗がん剤で、細胞を殺す力が強く、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)やファルモルビシン(一般名エピルビシン)などが代表的な薬剤である。

このアンスラサイクリンを含む治療(レジメン)には、ACをはじめ、EC、CAF、FECなど、さまざまな療法があるが、2007年版の乳癌診療ガイドラインでは、「いずれのレジメンが優れているかということに関しては十分な検討はなされていない」と記されている。レジメンとは、抗がん剤の種類だけではなく、投与量、投与回数、投与間隔、投与方法等を決めた治療計画書のことだ。

しかし、昨年12月に米国で開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウムで、この違いが明らかになった。渡辺さんはこう言う。

「FEC100とEC→Tの両レジメンを比較した臨床試験結果が発表され、EC→Tのほうが効果のうえで優れており、アンスラサイクリンを含むレジメンの中で1番優れていることがわかったんです。そればかりか、FEC100では口内炎や色素沈着など、副作用がかなりあるのに対して、EC→Tは熱も出ないなど、副作用の点でも優れていることもわかったのです」

したがって、術後の治療では、再発リスクが高い場合の化学療法としては、EC→TもしくはAC→Tという治療法が最も優れていることがはっきりした。ECは、ファルモルビシンとエンドキサン(一般名シクロホスファミド)の併用を4サイクル、ACは、アドリアシンとエンドキサンの併用を4サイクル行い、その後に両レジメンともタキサン系薬剤による治療をする。タキサン系薬剤には、タキソール(一般名パクリタキセル)とタキソテール(一般名ドセタキセル)の2種類があり、タキソールの場合は毎週毎の投与、タキソテールの場合は3週毎の投与が優れていることが明らかになっており、このどちらかがいいというわけだ。

UFTとCMFを比較する臨床試験

ただ、我が国の医療現場では、昔からフトラフール(一般名テガフール)やUFT(一般名テガフール・ウラシル)、フルツロン(一般名ドキシフルリジン)などといったフッ化ピリミジン系の経口抗がん剤が広く使用されてきた経緯があり、今も使用されている。これについてはどう考えればいいのか。

ガイドライン2007年版では、「経口フッ化ピリミジン系薬剤は標準治療とはなっておらず推奨されない」と警告を発している。

ところが、ここへ来て、この経口フッ化ピリミジン系薬剤の解釈に変化が起こっている。経口フッ化ピリミジン系薬剤のうち、UFTに関して、世界の標準治療の1つとされるCMF療法と比較した臨床試験の結果が発表され、それに劣らない十分なエビデンス(科学的根拠)が出てきたのだ。

N・SAS-BC 01のプロトコール(治験計画書)

N・SAS-BC 01と呼ばれる臨床試験のプロトコール(治験計画書)

その臨床試験はN・SAS-BC 01と呼ばれる試験で、1996年10月に開始された。N・SAS-BCとは、ナショナル・サージカル・アジュバント・スタディ・オブ・ブレストキャンサーの略称で、乳がんの術後治療(当時は術後補助療法と呼ばれた)として、安全性が高く、よりよい治療法を調べることを目的とした試験である。その試験責任者である渡辺さん(当時国立がん研究センター)は、試験を組んだ理由をこう説明する。

「日本の医療現場で最も繁用されていたUFTと、当時、世界の標準治療とされていたCMFとを比較するため臨床試験を組んだのです。専門的にいうクリニカル・イクイポイーズ(両者が拮抗した状態)が成り立っていて、専門家の間でもどちらがいいか意見が分かれていたので、臨床試験で調べるには打ってつけだったわけです」

もう少し詳しく説明すると、この臨床試験は「腋窩リンパ節転移陰性、高リスク乳がん患者において、CMFに対するUFTの非劣性を調べる試験」である。CMFはエンドキサン内服1日100ミリグラム、メソトレキセート(一般名メトトレキサート)体表面積1平方メートル当たり40ミリグラム、5-FU(一般名フルオロウラシル)体表面積1平方メートル当たり500ミリグラムの3剤併用療法を6サイクルと、UFTは体表面積1平方メートル当たり300ミリグラムを毎日2年間服用との比較である。非劣性とはどういうことなのか。

「非劣性とは、どのぐらいだったら劣っていないかと考えるか、ということです。例えば近くのスーパーで大根1本100円で売っていたとして、ちょっと離れた農協直売店で大根がいくらなら、電車賃をはらって、時間をかけて出かけていってまで買うに値するかという状況を考えてみるとわかりやすいでしょう。服用できる簡便さ、脱毛が起こらないなど、副作用の軽いUFTの場合、CMFに比べて、5年生存率で7パーセント下回る程度までなら許容できるというのが専門家の間での合意でした。そのうえで、この結果を出すには、統計学的に、3年で1300症例を集めればいいということになったのです」

[UFTとCMFの効果の比較(無再発生存期間)]
図:UFTとCMFの効果の比較(無再発生存期間)

Watanabe T et al. J Clin Oncol 2007; 25: 18S PT I(abstr No 551).

[UFTとCMFの効果の比較(全生存期間)]
図:UFTとCMFの効果の比較(全生存期間)

Watanabe T et al. J Clin Oncol 2007; 25: 18S PT I(abstr No 551).

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