ホルモン療法の最新動向 サンアントニオ乳がんシンポジウム2008より
個別化治療の実現へ着実に前進する乳がんのホルモン療法
国立病院機構大阪医療センター
外科乳腺担当の
増田慎三さん
毎年12月に米国テキサス州サンアントニオで開催されるサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)。
2008年も96カ国から9200名を越える医師や医療関係者が集い、研究の成果から最新の臨床試験結果に至るまで、多くの報告がなされました。中でも大きな注目を浴びたホルモン療法に関する最新情報を紹介します。
再発を効果的に抑えるための術後の初期治療はアロマターゼ阻害剤
乳がんの6~7割は女性ホルモンの受容体を発現しており、その増殖には女性ホルモンであるエストロゲンが深く関わっています。この女性ホルモンの働きを抑えて乳がんを治療する方法をホルモン療法といいます。従来、乳がん術後のホルモン療法では、このエストロゲンの機能を抑制する薬剤(選択的エストロゲン受容体機能調節物質:SERM)のひとつであるタモキシフェンが中心的な役割を果たしてきました。しかし最近では、閉経後女性においては、エストロゲンそのものの合成を抑制するアロマターゼ阻害剤という新たな薬剤のほうが優れていることが明らかになってきています。
今回、もっとも注目された発表のひとつが、TEAM試験の第1回解析結果報告です。この試験は国際共同試験で、9カ国から閉経後ホルモン感受性乳がん患者9775名が参加しました。試験終了時には、アロマターゼ阻害剤・アロマシン(一般名エキセメスタン)を5年間服用する治療と、タモキシフェンを2~3年服用した後にアロマシンを2~3年服用する治療(*脚注参照)を比較することになっていますが、約3年(2.75年)の時点で行われた第1回解析では、手術後の初期治療としてどちらの治療が優れているかが検討されました。その結果、アロマシンを服用したグループでは、タモキシフェンを服用したグループと比較して、良好な成績が得られました(乳がんの再発リスクが15パーセント低下、再発や他臓器の2次がん、死亡のリスクが11パーセント低下、遠隔転移のリスクも19パーセント低下)。
再発・転移 死亡患者数(%) | タモキシフェン 4,868例 | アロマシン 4,898例 | 合計 9,766例 |
---|---|---|---|
発生の総数 | 388(8.0) | 352(7.2) | 740(7.6) |
乳がんの局所再発 (同側乳がん含む) | 45(0.9) | 42(0.9) | 87(0.9) |
遠隔転移 | 244(5.0) | 201(4.1) | 445(4.6) |
新たな乳がん発症 | 17(0.3) | 21(0.4) | 38(0.4) |
試験期間中の死亡 | 82(1.7) | 88(1.8) | 170(1.7) |
この結果について大阪医療センター外科・乳腺担当の増田慎三さんは、「多くの方において、乳がんの再発は手術後3年までの間に起こっています。今回の結果は、タモキシフェンよりもアロマシンのほうが、術後約3年までの間に起きる再発をより効果的に抑制することを示しています。同じくアロマターゼ阻害剤のアリミデックス(一般名アナストロゾール)やフェマーラ(同レトロゾール)も、術後の初期治療としてタモキシフェンより再発抑制の効果が高いことがすでに明らかになっています。この3つの薬剤のどれが1番効果的であるのかは、まだわかっていませんが、乳がん術後のホルモン療法としてタモキシフェンよりもアロマターゼ阻害剤のほうが優れていることが、あらためて示されたといえます」と述べています。
*:TEAM試験では当初、初期治療としてのアロマシンとタモキシフェンの5年間の比較を行う予定でしたが、IES(Intergroup Exemestane Study)という試験で、タモキシフェンの5年間服用と比較して、タモキシフェンを2~3年間服用した後にアロマシンに切り替える治療の有用性が示されたため、試験方法が変更されました)
メタ解析でも、アロマターゼ阻害剤は優れた乳がん再発抑制効果
TEAM試験のように多くの患者さんが参加した試験の結果は信頼性が高いと考えられますが、試験の中には参加した患者さんが少ないものもありますし、同じような試験であっても結果が一致しない場合もあります。こうした試験を集めて、第3者が基準を統一して、客観的かつ総括的に薬剤の効果を評価する方法をメタ解析といいます。
今回のシンポジウムでは、AIOG(アロマターゼ阻害剤オーバービューグループ)が、アロマターゼ阻害剤とタモキシフェンを比較した試験を集めてメタ解析した結果が発表されました。
「ここでも、手術後の最初の治療として、アロマターゼ阻害剤がタモキシフェンよりも乳がんの再発を抑える効果が高いことが示されました。また2~3年間タモキシフェンを服用していた患者さんは、そのままタモキシフェンを続けるよりも、アロマターゼ阻害剤に変更することで、再発抑制効果が高くなることもわかりました」(増田さん)。
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