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乳房温存療法、再建術にみる乳房への想いの日米差
乳がん治療は、より体にやさしい方向へ、さらに進化

インタビュア:松岡順治 岡山大学医学部付属病院消化器・腫瘍外科講師
「がんサポート」編集部
発行:2009年3月
更新:2013年4月

  
写真:ゴルシャンさんと松岡さん

米国の気鋭のオンコロジストであるゴルシャン(左)さんに通訳しながらインタビューしていただいた腫瘍外科医の松岡さん(右)

乳がん治療は、世界的に患者さんに大きな負担を強いる拡大手術から縮小手術への流れが続いている。個人の再発リスクを見分けながら、それに対応した、より体にやさしい治療が選択されるようにもなってきた。米国3大がんセンターの1つであるボストンのハーバード大学医学部付属ダナファーバーがん研究所乳腺科科長のメーラ・ゴルシャン博士に、世界の乳がん治療のトレンドをうかがった。

もう大きな切除は重要ではない

写真:ゴルシャンさん

ダナファーバーがん研究所乳腺科科長のメーラ・ゴルシャンさん

――最近の乳がんの外科分野における大きな進歩にはどのようなことが挙げられますか?

ゴルシャン まず挙げられるのは、大規模に切除する拡大手術から、できるだけ小さく切除する縮小手術へと変わってきたことですね。以前は乳房とそれに付属するリンパ節および筋肉を全部切除するハルステッド手術と呼ばれる手術が普通でした。これに対して1990年代に、乳房は切除せずにがんのしこりだけを取って、残った乳房に放射線を照射する乳房温存療法が急速に普及しました。手術の前に化学療法などを行うことによってがんを小さくし、小さな手術にするといったことも非常に進んできました。

――乳房だけでなく、リンパ節に対する手術法も変化してきましたね?

ゴルシャン そうですね。脇の下のリンパ節郭清(リンパ節をとること)は、リンパ液が滞留して腕が大きく腫れ上がったりするリンパ浮腫が起こるなど、患者さんに大きな障害を残しがちでした。現在は、センチネルリンパ節生検という手技が確立されて、多くのケースでそれを予防できるようになっています。手術中に原発巣から脇の下のリンパ節へ転移するときに最初に転移すると考えられるセンチネルリンパ節を切除して、顕微鏡で調べる生検です。ここに転移がないということがわかったら、それ以上リンパ節郭清をしなくてすみます。この方法が世界中で取り入れられるようになっています。実際のところ、早期で見つかる乳がんの60パーセントくらいは脇の下のリンパ節転移がありません。脇の下のリンパ節を切除しないので、前腕のリンパ浮腫が起こりにくいのです。

――米国では手術の適応に関する問題点が議論されることがありますか?

ゴルシャン BRCA1、BRCA2という遺伝子を持つ家族性乳がんの家系というものがあり、この家系に生まれた女性たちは、がんを発症していなくても乳房を予防的に切除することが行われることがあります。ダナファーバー研究所のトッド博士は、このことを問題として取り上げています。
ある有名女優が、片側の乳房にがんができたことから、もう片側にもできることを心配して両側の乳房を切除したという出来事がありました。その話題がインターネット情報として流れたことから、米国で乳房の予防的切除が2倍くらいに増えたのです。家族性乳がんの家系の人たちでさえ予防的な乳房切除が問題となっている状況で、家族性乳がんの家系でない人たちまでが予防的に乳房を切除していいのかと、大きな議論を呼びました。 米国では乳房再建術が発達しているからこのような予防的切除をするのかと考えていましたが、形成外科医によれば、再建した場合、見た目は変わらなくても、やはり触った感じや張りは、本物の乳房には遠く及びません。

[乳がん術式の変遷(乳がん術式実態調査結果)] 図:乳がん術式の変遷(乳がん術式実態調査結果)

2006年回答355施設27966症例(日本乳癌学会)

患者の治療選択に日米の差

――日本の乳腺外科医は、リンパ節郭清がたいへん上手な方が多くいます。一方、日本人女性は欧米女性に比べて乳房が小さいので整容性の面から乳房温存術のメリットが少ないともいわれています。そのようなことから乳房切除が行われている面があるようです。

ゴルシャン 技術的には米国もアジアも全く遜色ないと思います。ただどういう手術を選択するかは、患者さんが何を希望するかにかかっています。その点、日本では、乳房切除が不必要なケースでも、従来の乳房切除がよく行われているようです。
また、手術で同じ量を切除しても平均的に乳房が小さい日本人女性は、欠損の割合が大きくなることは間違いないでしょう。しかし、そのために日本では温存手術を避ける人が多いというわけではないと思います。やはり第1に患者さん自身が乳房切除を選択する割合が多いのではないでしょうか。日本人と米国人の考え方の違いが、乳房温存療法の普及度の違いを生み出しているのだと思います。

――縮小手術は、患者さんにとっては望ましい治療法ですが、外科医としてどのような心構えで手術に臨むべきでしょうか?

ゴルシャン マンモグラフィや超音波検査、マンモトーム、MRIなどの発達によってたいへん初期のがんを発見することができるようになりました。それを大きく切除することはそれらの進歩を活用していないことになりますし、また大きくとることは生存にとって重要な意味を持ちません。大切なのは患者さんが長く生きられるということであり、その意味で大きな手術は重要ではないのです。小さな手術を上手に行うということのほうが、外科医として非常に腕の発揮できる、やりがいのある仕事だと思っています。

リンパ節郭清をせずに、放射線照射で

――リンパ節転移があれば郭清することが標準的なこととして行われてきました。リンパ節郭清を行えば脇の下のリンパ節再発は少ないのですが、一方で、リンパ節転移があっても放射線照射をすれば郭清をしなくても生存に対する効果は同じなのではないかという考え方もあります。この点に関しての先生のお考えはいかがでしょうか。

ゴルシャン 標準治療としてはリンパ節を切除します。けれども、そのことは生存率という面ではあまりメリットがないことがわかってきました。それでも、やはり重要な選択肢の1つです。また切除せずにずっと観察することも選択肢の1つであり、もう1つの選択肢として放射線照射があります。
ダナファーバーがん研究所では乳がんでセンチネルリンパ節に転移がある患者さん約100例に対して、原発巣を切除してリンパ節の郭清をせずに放射線照射だけ行って経過を観察するという小規模の臨床試験を行いましたが、1例だけリンパ節の脇に再発が出るという結果でした。これはあくまでも臨床試験での話で標準治療としてはリンパ節を切除するということになります。

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