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切除不能または再発乳がんの脳転移にも効果が HER2陽性乳がん治療薬「ツカチニブ」をFDA承認

監修●原 文堅 がん研有明病院乳腺内科医長
取材・文●伊波達也
発行:2020年10月
更新:2020年10月

  

「ツカチニブという新薬が承認されました。海外のことですが、患者さんには知っておいてもらいたい情報です」と語る原 文堅さん

ハーセプチンの登場で、HER2陽性乳がんの薬物療法が大きく前進したが、その後も次々と抗HER2薬は開発されている。最近ではエンハーツが承認されたばかりだ。

今回、HER2陽性切除不能・再発転移乳がんにとって注目したいのが、脳転移の患者にも効果が高い可能性のあるツカチニブという経口薬が、米国食品医薬品局(FDA)により承認されたというニュースだ。ツカチニブの効果について、がん研有明病院乳腺内科医長の原文堅さんに伺った。

HER2陽性タイプに新しい抗HER2薬

HER2陽性タイプの乳がんとは、成長促進タンパクであるHER2遺伝子を過剰に持っている(陽性)場合のことをいう。HER2陽性と判明すると、抗HER2薬といわれる分子標的薬を使うことができる(表1)。

ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)、パージェタ(同ペルツズマブ)、カドサイラ(同トラスツズマブエムタンシン:T-DM1)、タイケルブ(同ラパチニブ)、エンハーツ(トラスツズマブデルクルテカン)といった薬剤だ。

これまで乳がんの薬物療法は、抗HER2薬の登場によって目覚ましい進歩を遂げてきた。

HER2陽性の人は、乳がん患者全体の5~6人に1人、おおよそ15~20%ぐらいといわれている(表2)。

「HER2陽性の乳がん患者さんのなかでも、進行がんの方々にとって注目すべきなのが、先ごろの『HER2CLIMB試験』という臨床試験の結果、ツカチニブ(一般名)という新しい分子標的薬が承認されたことです。海外のことであり、今後、日本で使用できるかどうかについては、今のところわかりませんが、患者さんには知っておいてもらいたい情報です」

そう話すのは、がん研有明病院乳腺内科医長の原文堅さんだ。原さんは日本臨床腫瘍研究グループの乳がんグループの代表委員も務める。

新薬の併用で生存期間が延長

まずは、「HER2CLIMB試験」の概要を説明しよう。

「HER2CLIMB試験」は、15カ国155施設で実施された無作為化二重盲検第Ⅱ相試験だ。日本は参加していない。

対象は、ハーセプチン、パージェタ、カドサイラによる治療経験のあるHER2陽性の進行再発・転移乳がん患者だ。このなかには脳転移の患者(未治療、治療により安定状態、治療後増悪)も含まれていた。

標準治療であるハーセプチン+ゼローダ(一般名カペシタビン)にツカチニブを加えた3剤併用群と、ツカチニブの代わりにプラセボを加えた群とに2対1(410人対202人)に割りつけられた。

両群とも、ハーセプチンは21日ごとに6mg/㎏(1サイクル目の初日のみ8mg/㎏)を投与、ゼローダは21日1サイクルで14日目まで1日2回1,000mg/m2が投与された。

ツカチニブ群は、ツカチニブを1日2回300mgを投与し、プラセボ群にはプラセボを投与した。そして脳転移の有無、PS(パフォーマンスステータス:全身状態指標)、地域で層別化された。

試験の主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は全患者の全生存期間(OS)、脳転移患者の無増悪生存期間と全生存期間、確定奏効率、安全性だ。

試験結果は、主要評価項目の無増悪生存期間中央値で、ツカチニブ群7.8カ月、プラセボ群5.6カ月で、有意にツカチニブ群で延長が見られた。リスクを46%減らしたということだ(図3)。

1年無増悪率は、ツカチニブ群33%、プラセボ群12%だった。

副次評価項目である、全患者全生存期間中央値は、ツカチニブ群21.9カ月、プラセボ群が17.4カ月で、有意にツカチニブ群での延長が見られた。リスクを34%減らしたのだ。2年全生存率は、ツカチニブ群45%、プラセボ群27%だった。

脳転移の患者については、無増悪生存期間中央値でツカチニブ群7.6カ月、プラセボ群5.4カ月だった。リスクを52%減らした。

1年無増悪生存率はツカチニブ群が25%、プラセボ群0%だった。

確定奏効率は、ツカチニブ群41%、プラセボ群23%だった。

完全奏効はツカチニブ群3人、プラセボ群2人だった。

安全性については、グレード3以上の副作用が出たのは、ツカチニブ群55%、プラセボ群が49%、ツカチニブ投与が中止になったのは6%であり、ハーセプチンとゼローダの中止率は両群で変わらなかった。

グレード3以上の副作用は下痢で、ツカチニブ群13%、プラセボ群9%、AST(肝臓の酵素の1つ)4.5%対0.5%、ALT(肝臓の酵素の1つ)上昇5.4%対0.5%、手足症候群13%対9%だった。

ツカチニブ群で多かった副作用は下痢、手足症候群、吐き気、倦怠感、嘔吐だった。

以上のような結果が、2019年12月の米国のサンアントニオ乳がんシンポジウムで報告された。

その結果、ツカチニブはこれまで抗HER2療法を受けたことのある切除不能、進行転移HER2陽性乳がん患者に、米国食品医薬品局(FDA)により2020年4月承認された。

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