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これだけは知っておきたい乳がんの基礎知識
乳がんは全身病。全身的な観点からの治療をするのが今日の常識

監修:中村清吾 聖路加国際病院ブレストセンター長・乳腺外科部長
取材・文:半沢裕子
発行:2006年2月
更新:2013年4月

  
中村清吾さん
聖路加国際病院
ブレストセンター長の
中村清吾さん

乳がんの検査、治療は日進月歩の勢いで進んでいます。そのベースになる考え方自体も大きく変わってきています。

その最大のポイントは、乳がんは局所の病気ではなく、全身的な疾患である、という点です。

その視点に立って、患者としてこれだけは知っておきたい点を、聖路加国際病院ブレストセンター長の中村清吾さんに解説していただきます。

大きく変わっている乳がん治療の考え方

もし、あなたが乳がんの診断を受け、自分にはどんな治療の可能性があるのか悩んでいるなら、こう申し上げたいと思います。

「乳がん治療の考え方と技術は、大きく変わっています。『1日も早く切りましょう』という勧めには乗らず、先端医療を行っている医療施設にセカンドオピニオンを求めましょう」

乳がんの手術の基本が近年、「がん細胞の取り残しがないよう、できるだけ大きく切除する」から、「できるだけ小さく切り、乳房を温存する」へ変わったことは、乳がんのことをよく知らない患者さんもご存じだろうと思います。そうした切除方法でも治療効果(生存率)が変わらないこと、逆に、患者さんのQOL(生活の質)や精神的安定ははるかに大きいことが証明され、事実、今では乳房温存が主流になりました。

また、以前はがんを切除してから、補助療法として抗がん剤治療を行うのが普通でしたが、今は逆に、手術の前に抗がん剤治療を行うのが普通になりつつあります。

術前に抗がん剤治療を行うのは、主に2つの理由からです。1つは、がんを小さくして、乳房温存手術が受けられる可能性を高くするためです。もう1つは、抗がん剤の効き目をあらかじめ確認するためです。抗がん剤が効いて、がんのしこりが小さくなるようなら、その患者さんにはその薬がよく効いていることがわかります。ですから、術後の補助療法では、本当にその薬が適切であるか否かわかりません。

ちなみに、聖路加国際病院では昨年、約500人が乳がんの手術を受けましたが、うち180人、約3分の1の人が抗がん剤治療を受けています。結果として、そのうちの2割の人でがんが完全に消えていることが確かめられました。こうしたケースもふくめ、500人の約8割が乳房を温存しています。

[乳がんの罹患数の推移(推計も含めて)]
図:乳がんの罹患数の推移

[わが国の乳がん手術法の変遷]
図:わが国の乳がん手術法の変遷

乳がんは全身病。治療メニューも人によって異なる

治療法がこのように変わってきたのは、乳がんという病気の考え方そのものが変わってきたためといえるでしょう。1個の細胞から1センチに育つまで7~8年かかる乳がんは、がんをきれいに切除できたと思っても、芽が体内のどこかにひそんでいる可能性が高く、最近では全身病としてとらえられるようになっています。

実際、手術だけでほぼ完治といえるのは全体の1割、ごく早期の患者さんだけで、残りの9割の患者さんには抗がん剤やホルモン剤など、それぞれによく効く治療法を、手術に組み合わせて行う必要があります。

その治療メニューを出せて、しかも、きちんと実施できる病院は、正直まだ決して多くはありません。それでも、患者の皆さんにはそうした病院を訪ねていただきたいと思いますし、もし通院が無理でも、せめてセカンドオピニオンを求めていただきたいと思います。医療施設によって受けられる治療には大きな差があるというのが、残念ながら、日本の乳がん治療の現状だからです。

では、あなたのケースでは、どんな治療メニューが最適なのでしょうか。それを考える材料として、私たちの病院で最近実践している「診療の流れ」を、参考にしていただければと思います(下図参照)。

[診療の流れ(聖路加国際病院の例)]
図:診療の流れ(聖路加国際病院の例)


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