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世界最大のがん学会、ASCO2005レポート 今後のがん治療を大きく変えるハーセプチンの治療報告

発行:2005年5月
更新:2019年7月

  

乳がん術後補助療法の画期的な成果に、万雷の拍手!

世界最大のがん治療学会、ASCO(米国臨床腫瘍学会)が米国のオーランドで開催された。なんといっても今年の話題の中心は分子標的薬に関する報告。なかでも乳がん治療ではビッグな報告があった。転移性乳がんの補助療法でハーセプチンがこれまでの常識を打ち破る大きな成果が得られたという朗報だ。発表会場は万雷の拍手に包まれた……

注目を浴びた分子標的薬

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米国オーランドのオレンジカウンティ・コンベンションセンターで開催された第41回米国臨床腫瘍学会(ASCO)

毎年、年に1回開催される米国臨床腫瘍学会はASCOと呼ばれ、世界最大のがん治療学会である。第41回目になる2005年は、5月13日~17日、ディズニーランドやユニバーサルスタジオが集まる全米でも最大級の観光地であるオーランドで開催された。会場のオレンジカウンティ・コンベンションセンターには世界各国から約2万5000人のがん専門医たちが参集し、過去最多の約3800題の演題発表が行われ熱いディスカッションが繰り広げられた。

この学会で発表される臨床試験報告は製薬メーカーの株価を変動させるなど、社会的影響も大きい。とくに最近は従来の抗がん剤に代わって、新しいタイプの治療薬、分子標的薬が次々に出現していることもあって、その発表が注目された。なかでも、最も注目を浴びたのは、乳がんに対するハーセプチン(一般名トラスツズマブ)と抗がん剤の組み合わせによる治療報告だった。

「今大会最大のトピックです。今後のがん治療の流れを大きく変え得る、ブレークスルーになる結果です。びっくりしました」

と興奮を抑えながら語るのは、東京大学病院緩和ケア診療部医師で乳がんの臨床腫瘍医である岩瀬哲さんだ。

HER2(ヒト上皮成長因子受容体2)陽性の早期乳がんは、進行性が高く、予後がよくないため、これまで手術後に補助療法として、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)とエンドキサン(一般名シクロフォスファミド)による抗がん剤(AC療法)に続いて、タキソール(一般名パクリタキセル、T)を投与するという、AC→T療法と呼ばれるかなり強力な治療がアメリカを中心に標準的に行われてきた。これに対して、北米の2つの臨床試験グループ(NASBPとNCCTGのグループ)が、その治療にさらにハーセプチンを加えるとどうなるかを確かめる臨床試験をほぼ同じ頃の2000年に始めた。今回、その両試験のデータがある程度集積されたことから、両者を合同して解析し、その中間報告が発表されたというわけだ。

結果は、ハーセプチンの投与を追加しないよりも追加したほうが断然いいというものだった。具体的にいうと、乳がんの4年後の再発率が52パーセント減少(無病生存率が化学療法群67パーセントに対して、ハーセプチン追加群85パーセント)し、無病生存期間(がんの再発なく患者が生きる期間)が大幅に延長された。さらに2年間の生存期間の追跡結果から患者の生存期間が有意に延長することも明らかになった。ハーセプチンは、すでに転移性乳がんでは生存率の改善が示されているが、早期段階での再発リスクを低減し、延命効果を示したのは初のこと。発表直後は万雷の拍手が起こり、しばらく鳴り止まなかった。


[ハーセプチンと化学療法の併用療法の効果]
図:無病生存率
図:全生存率と最初の遠隔転移までの生存率

AC→T療法はアドリアシン(ドキソルビシン)とエンドキサン(シクロホスファミド)併用療法にタキソール(パクリタキセル)を追加した治療法
AC→TH療法はアドリアシンとエンドキサン併用療法にタキソール、ハーセプチンを追加した治療法

実際には使えない

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ハーセプチンやアバスチンなどに関する重要な報告はプレナリーセッションで発表された

「最近の乳がん治療の話題を独占していたタキサン系抗がん剤やアロマターゼ阻害薬(乳がんホルモン剤)の臨床試験では、無病生存率の差が数パーセントついて大変注目されてきたが、ハーセプチンを化学療法に加えた今回の臨床試験では、20パーセント弱もの差がついています。それも4年目でです。こんなに大きな差がついた臨床試験は、最近では見られなくなっていました。すごい結果がでたとしか言いようがありません」(岩瀬さん)

HER2が過剰に発現した乳がんでは遠隔臓器に転移しやすいことも知られているが、この臨床試験では転移が長く抑えられていることもわかった。このような再発防止、遠隔転移防止の効果があることから、単にがんの治療だけでなく、治癒への可能性も期待を持てるようになったともいう。

さらには、当日一緒に報告されたもう1つの臨床試験でも、2年間の生存期間の追跡結果から患者の生存期間が有意に延長することも明らかになっている。ブレスト・インターナショナル・グループ代表のマルチン・ピッカート教授(ベルギー)が率いる臨床試験で、これには日本も参加している。

もっとも、いいことばかりではない。前の2つの臨床試験で、化学療法にハーセプチンを加えたほうが重篤または生命に関わる心臓の事象が3~4パーセント多くみられた。なかでも多かったのがうっ血性心不全(心筋の衰弱)で、注意が必要だ。

もう1つ、大きな問題がある。

「ハーセプチンは、日本では転移性乳がんに対してのみ保険が適応になっていて、補助療法には適応になっておらず、実際にはまだ使えないのです。一時も早く使えるように厚生労働省に動いてもらいたいものです」 と岩瀬さんは強く訴える。


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