1. ホーム > 
  2. 各種がん > 
  3. 乳がん > 
  4. 乳がん
 

乳房再建、そのすべてを教えます
手術の方法から医師選びまでの ABC

アドバイスと監修:南雲吉則 ナグモクリニック総院長
取材・文:池内加寿子
発行:2005年6月
更新:2014年2月

  
南雲吉則さん
ナグモクリニック総院長の
南雲吉則さん

なぐも よしのり
乳がんの手術、乳房再建術、豊胸術など、女性のバスト医療をオールラウンドに手がける「ナグモクリニック」総院長。
専門は乳腺外科・乳房形成術。キャンサーネット・ジャパン顧問理事。
昭和56年東京慈恵会医科大学卒。
癌研究会付属病院、慈恵医大等の乳腺外来を歴任。
慈恵医大外科講師、韓国および中国の大学客員教授としても活躍。『乳がん110番』(日刊工業新聞社)など著書多数。

乳房再建の方法は?
自分の組織を使う「筋皮弁法」、人工物を使う「インプラント法」

イラスト

乳がんが見つかったときはそれだけでもショックが大きく、治療後のことまでは頭が回らないものです。手術後、ある程度の時間がたち、気持ちに少しゆとりができたときに乳房再建を望む方が多いのではないでしょうか。年間100例もの再建手術を手がけるナグモクリニック総院長の南雲吉則さんはこう話します。

「再建の動機は、パッドを使うのは肩がこる、おしゃれに困る、人と一緒に温泉に入りたい、などさまざまです。なにより、本来あるべきものがなくなった喪失感から、失ったバストをもう一度取り戻したいという気持ちになるのは当然の願望だと思われます」

では、乳房再建術にはどのような方法があるのでしょう。

「乳房再建には、自分の組織(自家組織)を使う“筋皮弁法”と、シリコンなどのインプラント(人工乳腺)を使う“インプラント法”、両者を組み合わせる方法があります」(南雲さん・以下同)

筋皮弁法は、自分のおなかや背中の組織を乳房切除した胸に移植して、皮膚を補い、ふくらみをつくる方法です。厚い組織を移植する場合は、血流を保っていないと組織が壊死(腐ってしまうこと)してしまうため、血流の良い筋肉の先に皮膚と皮下脂肪をつけて移植するのが特徴です。

おなかの組織を使う場合を「腹直筋皮弁法」、背中の組織を使う場合を「広背筋皮弁法」といいます。背中の組織は脂肪が少ないので、インプラントを併用することもあります。

一方、インプラント法は、シリコン製の半球形バッグ(インプラント)を大胸筋の下に入れてバストの高まりをつくる方法です。バストの皮膚に余裕がないときは、あらかじめ組織拡張器と呼ばれる大きめの生理食塩水入りバッグ(ティシュー・イクスパンダー)を入れて皮膚を引き伸ばしてから、3~4カ月後に適切なサイズのインプラントに入れ替える「組織拡張法」を行います。一般的には、通院のたびに生理食塩水を注入して、組織拡張器を徐々にふくらませながら皮膚を伸ばすのですが、南雲さんは組織拡張器を挿入したときに最大限にふくらます方法をとっています。

それぞれの再建法のメリット、デメリットは?
見た目、体への負担など一長一短がある。

「筋皮弁法の最大のメリットは、異物を使わないことです」と南雲さん。自分の組織なら、異物反応が起こりにくく、乳房に近い感触が得られます。デメリットは、おなかや背中など他の部分が犠牲になり、新たな傷がつくこと。おなかの筋肉をとれば腹筋が、背中の筋肉をとれば背筋の力が弱くなります。また、移植した皮膚は乳房の皮膚と色や厚さが違うため、乳房にツギをあてたような外観になります(写真2参照)。

「インプラント法(写真上参照)なら、他の組織に新たな傷がつかず、乳房の傷も目立ちません。人工物を使うため、異物反応によって“被膜拘縮”が起こるケースがあるのが唯一の欠点ですが、予防が可能です」

人間の体には、異物が入るとその周囲に被膜と呼ばれる傷跡組織による膜をつくる働きがあります。インプラントの周囲にできた被膜が厚く硬くなって縮んでしまう状態を被膜拘縮(写真3)といい、再建した乳房が硬く変形してしまいます。「被膜拘縮を予防するポイントは3つ。まず、異物反応を起こす要因となる感染を防ぐために、清潔な手術を心がけること。2つ目は、経験豊富で技術の確かな医師が手術を行うこと。3つ目は、組織拡張器で十分に皮膚を伸ばすこと。インプラントを挿入する部分に厚くて狭いポケットができると被膜拘縮を起こしやすいので、大きな組織拡張器を入れて周りの皮膚を広げ、薄くて広いポケットをつくるのが秘訣です」


[写真1 他院の乳房再建(筋皮弁法)]
写真1:他院の乳房再建(筋皮弁法)

広背筋をとったあと、背中には傷とへこみができる

[写真2 他院の乳房再建(筋皮弁法)]
写真2:他院の乳房再建(筋皮弁法)

乳房はツギをあてたような外観に

[写真3 被膜拘縮を起こした例]
写真3:被膜拘縮を起こした例

インプラントの周りの膜が縮み、不自然な形、感触、動きに


[それぞれの再建法のメリット・デメリット]
  メリット デメリット
インプラント法
(胸筋の下に人工
バッグを挿入)
  • 体に新たな傷をつくらない。
  • 手術時間が短い。20分から1時間で終了。
  • 体への負担が少ない。
  • おわん型のバストができる。
  • 乳房の傷が目立たない。
  • 被膜拘縮を起こすことがある。
  • 反対側のバストがおわん型でない場合、左右非対称に。豊胸術、吊り上げ術が必要。
  • インプラントの種類によっては、もれることがある。
  • 感染に弱い。
腹直筋皮弁法
(おなかの筋肉に
皮膚と脂肪を
つけて移植)
  • ハルステッド手術など、皮膚や筋肉の大きな欠損を補える。
  • 十分な腹部の組織が得られれば、インプラントは不要。
  • おなかの皮下脂肪を使うので、 やわらかで、流動的なバストに。
  • 乳房がツギをあてたような外観に。
  • おなかに横一本の傷が残る。
  • 腹直筋の片方を切るので、腹筋が弱くなる。
  • 胃の周辺が締め付けられるように感じることも。
  • 入院日数が長い(12日から2週間程度)。
広背筋皮弁法
(背中の皮膚と
筋肉を移植)
  • 放射線がかかっている場合、皮膚の分量が足りない場合に、皮膚を補える。
  • 温存手術後の変形など、部分的な再建も可能。
  • インプラントとの併用にも適する。
  • 乳房がツギをあてたような外観に。
  • 背中にも斜めの傷跡とへこみを残す。
  • 皮下脂肪が少ないので、インプラントを挿入しなければならないことも。
  • 入院日数が長い(12日から2週間程度)。


同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!