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ザンクトガレン乳がん国際会議2007レポート
HER2評価によって見えてきた乳がんの新たな治療法

レポート:キャンサーネットジャパン 臨床試験&科学部門
発行:2007年5月
更新:2013年4月

  

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写真:パンフレット

春の陽光が暖かく降りそそぐスイスの古都ザンクトガレンにて、第10回乳がん初期治療に関する国際会議が開催されました。

この会議は、1978年以来3年ごとに(2001年からは隔年ごと)ザンクトガレンの街で開かれており、世界的にも大きな注目を集めています。

3月14日~17日の期間中、同地には世界中から数多くの乳がん専門家が集結します。

今年の会議は、予防、検診、診断、病理診断、ホルモン療法、抗がん剤治療などのトピックスをもとに討議する計10のセッションが組まれており、そのなかで、現在における最先端の乳がん診療の動向や最新のエビデンス(根拠)について討議が交わされました。

最終日には、この会議のハイライトとなる通称「ザンクトガレン・コンセンサス・カンファレンス」と呼ばれるセッションが、朝9時から12時50分までの約4時間にわたって行われました。このカンファレンスには、乳がんの臨床試験を進めているグループの専門家がパネリストとして参加します。今年は、37名のパネリストが2名の司会者のもとテーマごとに150のコンセンサスをまとめていきました。

2005年より導入されたアンサーパッド方式を踏襲した今回ですが、あらかじめ用意された質問事項を壇上にいる司会者が読み上げ、パネリストたちが「イエス」、「ノー」、「棄権」のいずれかで次々と回答していきました。結果はリアルタイムで正面スクリーンに表示されるので、出席者はコンセンサスの中身をその場で確認することができます。

今年度注目を集めたコンセンサスとその内容

今回の会議で提示された質問とそれに対するパネリストの回答を紹介しましょう。

閉経後患者におけるホルモン療法

(1) タモキシフェンの投与方法については、2~3年間の投与後、アロマターゼ阻害剤に変更すると答えたのが全体の94.4パーセントと圧倒的でした。また、5年間の投与後、アロマターゼ阻害剤に変更すると回答した人も70.3パーセントいました。

(2) タモキシフェンの投与期間ですが、75パーセントが5~10年間は必要と回答しています。生涯飲み続ける必要はないものの、5年以上は飲んだほうがよいというのが見解の主流でした。

[閉経後乳がん患者におけるホルモン療法:治療の選択]

(1) 以下のタモキシフェン投与は、依然として内分泌反応性の患者における選択肢か?(アロマターゼ阻害剤が禁忌でない場合
  YES NO 棄権
・単独投与 76.30 23.70 0
・2~3年間の投与→アロマターゼ阻害剤 94.40 5.60 0
・5年間の投与→アロマターゼ阻害剤 70.30 27.00 2.70

(2) ホルモン療法の期間は?
  YES NO 棄権
・5年間 25.00 58.30 16.70
・5~10年間 75 13.90 11.10
・すべての患者で、生涯 3.40 72.40 24.10
・高リスク患者のみで、生涯 13.20 63.20 23.70

閉経前患者におけるホルモン療法

(3) 進行性乳がんおよび間接的な比較によるエビデンスから、卵巣機能抑制とタモキシフェンの組み合わせは標準的な選択肢となるかとの質問に対しては、83.7パーセントが肯定的でした。

(4) 卵巣機能抑制の方法について、治療法ごとに適切か否かが集計されました。LH-RHアナログでは100パーセントが支持、外科的卵巣摘出(腹腔鏡下)についても76.3パーセントが肯定的でした。国内ではほとんど行われなくなった卵巣摘出が、世界的にはまだまだ行われているという実態に、日本の臨床家は驚かされました。

(5) LH-RHアナログを使用した場合、どれくらいの期間行うのがよいかとの質問には、患者別に選択するとの回答が78.9パーセントと大勢を占めました。

(6) 閉経前患者におけるアロマターゼ阻害剤と卵巣機能抑制については、タモキシフェン適応外の患者のみに行うとしたのが68.4パーセントでした。治療対象を、すべての閉経前患者とした質問に対しては、94.3パーセントが「ノー」と答えました。

[閉経前乳がん患者におけるホルモン療法:治療の選択]

(3) 進行性乳がんおよび間接的な比較によるエビデンスから、卵巣機能抑制+タモキシフェンは標準的な選択肢となるか?
  YES NO 棄権
・卵巣機能抑制+タモキシフェンは標準治療となりうる 83.80 13.50 2.70

(4) 以下の卵巣機能抑制は適切か?
  YES NO 棄権
・LH-RHアナログ 100 0 0
・外科的卵巣摘出(腹腔鏡下) 76.30 23.70 0
・卵巣照射 18.90 81.10 0
・卵巣機能抑制の方法は乳がんのタイプにより異なる 74.40 25.60 0

化学療法(抗がん剤治療)

(7) ホルモン非反応性患者における治療に際しては、HER2陽性患者と陰性患者とで化学療法が異なるかとの質問をしたところ、HER2陽性患者に対しては、84.6パーセントがアントラサイクリン系を適用すると回答しました。

(8) ホルモン非反応性でHER2陰性の患者におけるレジメン(投与する薬のメニュー)は、どれを標準と考えるべきかとの質問がありました。高用量の抗がん剤と末梢血管細胞の移植の組み合わせについては全員が否定しましたが、どれを標準的なレジメンとするかは、見解が分かれるようです。

(9) ホルモン非反応性でHER2陽性患者における化学療法について何を重視すべきかとの質問には、「すべての患者にアンスラサイクリンを適用とする」「タキサンを適用すべき」とする回答が、それぞれ50パーセントずつありました。化学療法とハーセプチンの併用については、HERAモデルで63.9パーセント、同時投与で63.1パーセントの支持がありました。HER2陽性の患者はアンスラサイクリン系の感受性が良いといわれています。しかしながら、ハーセプチンにもアンスラサイクリン系抗がん剤にも心毒性(心不全・不整脈・心筋梗塞など)があります。併用すると効果も強まりますが、副作用である心毒性も強まります。集計結果から、専門家の多くは、副作用の問題はあるものの生存率を考えて、併用療法を行っていることがわかります。併用にあたっては、心毒性の評価が必須です。定期的に、左心室駆出率を測定し、心機能を観察します。

(10) ホルモン反応性不明確の患者における化学療法+ホルモン療法についての質問には、化学療法とタモキシフェンの同時投与、化学療法とアロマターゼ阻害剤の同時投与ともに否定的でした。化学療法とLH-RHアナログの同時投与に関しては、3割が肯定しました。パネリストの60パーセント以上が賛同した場合に一定のコンセンサスが得られたとするこの会議の趣旨からすると、それでも低率です。

早期乳がん患者に対するハーセプチン使用

昨年10月、初期治療における新たなリスクカテゴリーに関する勧告が緊急に発表されました。

この発表は、12月に開催された「第28回サンアントニオ乳がんシンポジウム」においても注目を浴び、乳がん治療の新機軸となっています。

改訂された新リスクカテゴリーは、「HER2陽性早期乳がん患者に対し、術後補助療法としてハーセプチンを使用したところ、無再発生存率が改善した」との臨床試験の中間結果に裏打ちされています。早期乳がん患者でも、リンパ節転移陽性あるいは高リスク群の場合は、術後補助療法として抗がん剤に加えてハーセプチンを投与したほうが予後が良いという結論に達したのです。

初期治療に関する勧告は、通常ならザンクトガレン・コンセンサスまで持ち越す内容です。ハーセプチンの有効性があまりに顕著だったために、今回の会議を待たずに年内に発表されたわけです。

術後療法としてのハーセプチン使用は、乳がん治療の場で今後ますます重要になっていくと考えられます。

[リスクカテゴリーと治療法の選択]

リスクカテゴリー ホルモン反応性が明確 ホルモン反応性が不明確 ホルモン非反応
低リスク
リンパ節転移なし

以下のすべてに該当する
・病理的腫瘍径2センチ以下
・グレード1
・腫瘍周囲の脈管浸潤なし
・HER2の過剰発現/増幅なし
・年齢 35歳以上

ホルモン反応性が明確
ホルモン療法
無治療
ホルモン反応性が明確
ホルモン療法
無治療
該当なし
中リスク
リンパ節転移なし

以下の1つ以上に該当する
・病理的腫瘍径2センチ超
・グレード2~3
・腫瘍周囲の脈管浸潤あり
・HER2の過剰発現/増幅あり
・年齢 35歳未満

ホルモン療法単独もしくは
化学療法→ホルモン療法
(化学療法+ホルモン療法)
ハーセプチン
ホルモン療法単独もしくは
(化学療法+ホルモン療法)
ハーセプチン
化学療法
ハーセプチン
高リスク
リンパ節転移1~3個
・HER2の過剰発現/増幅あり

リンパ節転移4個以上

(化学療法+ホルモン療法)
ハーセプチン
化学療法→ホルモン療法
(化学療法+ホルモン療法)
ハーセプチン
化学療法
ハーセプチン
(Goldhirsch A, et al. Ann Oncol. 2006 Dec;17(12):1772-6)

ザンクトガレン・コンセンサスを日常臨床に活かす

ザンクトガレンで合意された内容は、世界の標準的ガイドラインとして活用されています。最新のコンセンサスや学会発表などの情報は、医療者が随時更新し、患者さんに提示してゆくべきだと考えます。残念ながら、それができていないのが実情です。医療者の口から伝えられるべき情報が得られない患者さんは、不利益を被っていると言えます。患者さんにとって有効かつ有用な情報を積極的に収集し、還元していく姿勢を医療者は持っているべきです。

さまざまながん種のなかで、もっとも個別化の進んでいると言えるのが乳がんの領域です。最新の情報や知識に裏付けられた医療者の裁量があってこそ、患者さんは良質な治療を受けられるのです。


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