腎機能が低下しにくく、全生存率も高い
転移のない、小さな腎がんは「全摘」ではなく、「部分切除術」を!
腎部分切除術の技術の
普及に邁進する
近藤恒徳さん
腎臓は2つある臓器だから、がんが見つかったほうの腎臓は、摘除されることが多かった。しかし実際は、転移がなく、小さいがんの場合は、腎部分切除術による温存を検討すべきだという。ここ数年の累積データによって、日本でもその理由が明らかになってきた。
腎臓を部分的に切除する腎がんの手術法
腎がんの手術には、腎臓をすべて摘出する「根治的腎摘除術」と、がんとその周囲を切除する「腎部分切除術」がある。腎部分切除術は1980年ごろに開発されていたが、普及しなかった。腎臓は片方を取っても腎機能が残るので、再発の危険がありそうな部分切除は敬遠されてきた。しかし現在では、腎部分切除術の優れた点が確認され、徐々に行われるようになってきた。
東京女子医科大学泌尿器科講師の近藤恒徳さんによれば、同大学付属病院では、腎部分切除術がかなり行われているという。
「腎がんと確定診断がつき、手術を受けた患者さんが、昨年は140人いました。そのうち腎部分切除術を行ったのは80人。6割近くです。通常は3~4割程度で、部分切除を行っていない施設も少なくありません」
残念ながら、広く普及した手術法とは言えないそうだ。
米国のガイドラインでは第1に選択すべき治療
ガイドラインではどうなっているのだろうか。日本の『腎癌診療ガイドライン』(07年版)では、腎部分切除術が推奨されるのは、リンパ節転移と遠隔転移がなく、がんの大きさが4センチ以下の場合。T1a期と分類されるがんだ。推奨される治療法は腎部分切除術または腎摘除術で、部分切除については次のように書かれている。
「制がん性は根治的腎摘除術と同等で、特に腎機能保持の面で有用であり、腎部分切除術は推奨される(推奨グレードB)」
推奨グレードBは、日常診療で実践するよう推奨する、という意味である。
アメリカ泌尿器科学会のガイドラインでは、もっと部分切除を勧めている。転移がないT1a期の場合、患者さんが合併症のない健康な人なら、まず行うべき標準治療は腎部分切除術。技術的に難しい場合には腎摘除術でもよい、となっている。そして、患者さんが合併症を持っている場合には、腎部分切除術と腎摘除術の両方を同じレベルで考えるべきだとしている。
「T1a期の治療で部分切除が推奨されるのは、がんを制御する力が腎摘除術と変わらないからです。腎臓を残すと、そこから再発するのではないかと考えられたこともありますが、その可能性はかなり低いことが明らかになっています」
転移がないT1a期に対する腎部分切除術と腎摘除術の成績を比較したデータがある。10年後のがん特異的生存率(腎がんで死亡せずに生存している人の割合)は、どちらもほぼ100パーセントだった。
「転移のないT1a期は、どちらの手術でも死なないということ。それなら、手術法選択で重要なのは、手術後にどんな影響があるかということです」
それが治療法選択のポイントになるわけだ。
腎部分切除術のほうが慢性腎臓病になりにくい
(糸球体濾過量45未満になるのを防げる割合・摘除術との比較)
[腎がん部分切除術後の心血管合併症非発生率]
(T1a期・摘除術との比較)
[腎がん部分切除術後の死亡率]
(非がん死およびがん死・摘除術との比較)
[4センチ以下の腫瘍に対する東京女子医科大学・腎部分切除術の成績]
(全生存率)
腎部分切除術が勧められる第1の理由は、腎摘除術に比べ、手術後に慢性腎臓病になりにくい点である。慢性腎臓病は腎障害や腎機能の低下が起きた状態の総称で、心血管系の合併症(心筋梗塞や脳梗塞など)が起こりやすくなる。
腎機能を表す糸球体濾過量の正常値は90以上で、これが60未満30以上のレベルまで低下すると、ステージ3(5段階中、重度から数えて3番目)の慢性腎臓病と診断される。また、45未満になると、心血管系合併症が起こりやすくなることがわかっている。
「手術後に糸球体濾過量が45未満まで低下した人の割合を調べると、手術から10年後、腎摘除術を受けた人では約5割ですが、腎部分切除術だと1割ほどでした」
つまり、部分切除は、慢性腎臓病を防ぐのに役立っていると言えるわけだ。では、心血管系の合併症発生率はどうだろうか。それを調べた研究もあるが、腎部分切除術のほうが、心血管系合併症が起こりにくいという結果が出ている。
では、こうした差は、非がん死亡率(腎がん以外の原因による死亡率)にも影響を与えるのだろうか。それを比較した研究によれば、がん死亡率は差がないが、非がん死亡率は腎摘除術のほうが高く、腎部分切除術のほうが低くなっている。
「こうした結果からも、腎臓を温存することは、心血管系の合併症を減らし、その結果としてがん以外の死亡率を減らしているのではないかと考えられます」
東京女子医大のデータでは、腎部分切除術の生存率が高くなることが明らかになっている。手術から10年後の全生存率は、腎部分切除術群が85.8パーセント、腎摘除術群が79.0パーセントだった。
「このデータからも、小さながんで腎臓を取ってしまう治療は、考え直すべきです。アメリカ泌尿器科学会のガイドラインのように、転移のない、がんの大きさ4センチ以下のT1a期に対して推奨される標準的な手術は、腎部分切除術だと私は思います」
・ | 左腎門部に埋没型の33ミリの腫瘍がある | |
・ | 臨床診断は、T1a期転移なし | |
・ | 通常は部分切除術が難しいとされる場所のがんだが、東京女子医科大学では、開腹による部分切除術を行えると判断したケース | |
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