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肺がん手術後の維持療法で生存期間が延長
甦ったBCG-CWS療法の効果と限界

監修:児玉憲 大阪府立成人病センター副院長
取材・文:増山育子
発行:2010年9月
更新:2013年4月

  
児玉憲さん
大阪府立成人病センター副院長の
児玉憲さん

BCG-CWS療法が生まれたのは、なんと1970年代にさかのぼる。それから半世紀近くがたった今、がん医療においてこの免疫療法は新たな地位を築き上げようとしている。甦った免疫療法のその理由を探る。

BCG-CWS療法が生まれた背景

「BCG」と聞けば「あの結核の?」と学校での集団予防接種を思い浮かべる人も多いだろう。なぜその結核菌ががん治療に使われるのか不思議な気もする。

BCG-CWS療法とは、その名のとおり結核菌の菌体成分を皮内注射するという、いたってシンプルな免疫療法である。実は細菌など微生物の菌体成分の中に人間の免疫を高めてがんを抑えるものがあることは昔から言われており、結核患者さんにがんが少ないことも知られていた。

そこでBCG-CWS(CWS:セルウォールスケルトン)を体内に入れるとそれがきっかけになって免疫力が高まり延命できるのではと考えられて、実際に研究が進められてきた。

1970年代に元大阪大学学長の故山村雄一さんらの研究チームが、独自の方法でBCG-CWSを精製、患者さんに投与すると副作用がなく効果もあるということで広がったという。

ケースコントロールスタディで調べ直した71例

大阪府立成人病センター副院長の児玉憲さんは次のように話す。

「1970年代後半から80年代前半にかけて、手術後にBCG-CWS療法をする群としない群で比較試験が行われ、BCG-CWS療法をするほうが優れていたという結果が報告されました。ただその当時の試験は今ほど厳密ではなかったため、信頼性が十分ではありませんでした。そこで、私たちはケースコントロールスタディ(症例対照研究)という方法で71例ずつを調べました」

この研究は肺がんの切除手術でがんを取ったものの、一抹の再発不安が残る患者さんで、年齢や性別、がんの進行度、大きさ、組織型などが似通った人を、一方は何もせず、一方はBCG-CWSを投与して比べてみたものだ。

「その結果、投与群で生存期間が延長されていたというデータが示されました。それを根拠に現在治療としてではなく、臨床試験としてBCG-CWS療法を行っています。
ところが、免疫療法を希望する患者さんのなかに、『手術は負担が大きいから避けたい。その代わり免疫療法を』といった安易な考え方が見受けられるようになりました。本来の治療はきちんと検証されて最も効果が高いとされる治療方法を選択するべきです。免疫療法は、手術や化学療法、放射線治療の代わりではありません。あくまで術後の維持療法という位置づけです」

つまり、BCG-CWSという治療は、望めば誰もが受けられるというわけではないのだ。

[BCG-CWS投与の効果をみたケースコントロールスタディ]
(症例対照研究)

図:BCG-CWS投与の効果をみたケースコントロールスタディ

BCG-CWS投与群で生存期間が延長していた

解明されたBCG-CWS療法が効く理由

1990年代以降肺がんに有効な抗がん剤が現れたり、倫理的な問題も出たりしてBCG-CWS療法は一旦下火になる。しかしその後、免疫療法の基礎研究が大きく進み、BCG-CWS療法も効くメカニズムが解明され、再浮上してきたのだ。BCGは牛結核菌を弱毒化したもので、BCG-CWSはその菌から抽出精製された成分。その中にペプチドグリカンという特殊な部分があり、これが大きな鍵になることがわかった。

「つまり、ペプチドグリカンが免疫細胞の司令塔である樹状細胞に働きかけて樹状細胞を成熟させるということがわかったのです。樹状細胞は、人間が持つ基本的な免疫、自然免疫を司る細胞の1つです。兵隊であるリンパ球に『これががんだ!』と司令を発して、がんを攻撃させる力(専門的には抗原提示能力という)を持っています。この樹状細胞に作用し活性化させるのがBCG-CWS療法です。1度は廃れたかに見えたBCG-CWS療法ですが、科学的に効果が現れる仕組みが明らかになって、近年再登場したというわけです」

[BCG-CWS療法ががんに作用するメカニズム]
図:BCG-CWS療法ががんに作用するメカニズム


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